越智総合技工高校の文ゲー部

ラムサレム

県立越智総合技工高等学校

 私の通っている県立越智総合技工けんりつえちそうごうぎこう高等学校は、この辺りで1校だけの工業高校です。高校のレベル的には中の下といった感じで程度学のある人は余裕で入れる、そんな学校です。

 そんな学校なので当然肌に合わなかったり、レベルの差を感じたり、学校生活についていけない生徒が幾人か出てきて、やめてしまう事があります。

 私もその一人に今、なろうとしています。

神辺かなべ、また遅刻したな」

「はい」

「はいじゃないんだよ~まあいいけどさ。学校始まってまだ1か月だし、まだそういう時期だってのは分かるからさ。で、先月の課題は?」

「・・・まだ出してないです」

 冬木ふゆき先生はまた頭を掻いて鼻から息を大きく吹きました。ため息を抑えようと口を閉じて、鼻から出てしまっているみたいです。

「そうか・・どうして提出しないんだ?」

「いや、出したは出したんですけど、全部再提出になってて」

「間違いを直してまた出せばいいじゃないか」

 間違いがあれば納得できたのに。先生の言葉に心の中で文句を呟いて、心の槍を突き出さないように蓋をします。

「先生方がめんどくさくて、ルーズリーフじゃなくてノートに書けって言うんです」

「それくらいいいじゃないか。ノートに書けば成績も落ちないんだぞ?」

「でも・・・納得できません。どうしてノートに書く必要があるんですか?」

 こういう所が私の嫌な部分なのだと思います。自分を縛るルールに理由を見出せないと頑固として従いたくなくなる。理由さえあれば、納得できる理由があればそれに倣うのに。

「俺に聞くなよ。まあ、成績落ちても責任取るのは君だからさ。一週間後に出してね」

「はあ、まあ・・はい」

 私の返事に先生はまた鼻から息を大きく吹きました。

「それでなんだけど、神辺は部活は入らないのか?」

「そのつもりですけど」

「これは先生からのアドバイスだけど、部活には一応入った方が良いぞ。大学のアピールに使えるし、何よりいい結果を出せると成績が上がるんだ」

「あ~はい。考えておきます」

 先生は私の返事に満足そうに頷きます。

「分かった。じゃあこれでもういいかな、うん。」

 やっと業務が終わって清々したのでしょう。私自身もやっと帰れると思うと肩の緊張が解けて晴れ晴れとした気分に・・・なると思ったのですが、

「ところで、あの人たちは何をしてるんですか?」

学級日誌を机の上で整えてさあ帰ろうとしている先生を呼び止めて、思わず訊いてしまいました。何せ全員が全員、不思議な格好をしてトランプをしているものですから、気になって仕方がありませんでした。

「あ~あれは仮装トランプって言ってたな。文芸部の活動だよ。どうした神辺、興味あるのか?」

「や、そういうわけでは」

「ほら、部活紹介の紙。余ってるからあげるよ」

「あ、どうも」

 先生は私に文芸部の勧誘ポスターの余りを押し付けて帰って行きました。

 教室には今教卓に立っている私と背面黒板の机を囲む仮装集団だけです。冬木先生の声が大きかったせいか、強い視線が私に向いていて、何となく気まずさを感じます。

 いたたまれなくなって教室を出ようと鞄を持った時、馬の被り物が私の前にやって来ました。意外なことにそれは女性の声でした。

「あのっ」

「あっはい。何ですか?」

「とっ突然聞くのもあれなんですけど、ゲームって興味ありますか?」

 本当に唐突な質問でした。ゲームといえば私はスマホの育成ゲームやちょっとしたパズルゲームぐらいしか遊んでいません。それも数か月前ちょっとだけです。

「ゲーム、というのはどんな・・・」

「あああっそうでした。ゲームはゲームでもアナログゲームって言うパソコンとかスマホとかを使わないゲームをしてるんですけど、一緒にどうですか?」

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