昔隣に住んでいたハーフ美女がヤンデレ化してグイグイ迫ってきます!

トウカ

第1話 懐かしの出会い・前編

「――久しぶりだね。斗真とうま


 どこか懐かしい声が、僕の耳朶じだを優しくノックする。

 声の聞こえた方へ振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

 歳は僕と近いだろうか。

 風に吹かれる稲穂のような長く流麗な金髪に、白皙の肌の上に浮かぶ、透き通った深い海のような双眸が印象的だった。

 オフィスカジュアルを思わせるシンプルな服装ながらも、スラリと着こなしたその姿は、まるでファッション雑誌のモデルさながらだった。


「もしかして……シャノン?」


 僕の反応を見た瞬間、にっこりと笑いながら駆け寄ってくる。

 眼を見開いて驚くことしか出来ない僕の当惑など気にしていないのか、女性は歩速を上げて、勢いそのまま抱き着いてきた。


「わっ――!!」

「良かった……! 覚えていてくれたんだね!」

「ど、どうしてここに……? アメリカに帰国したって聞いてたけど……」

「日本に来たのはね、斗真に会いたかったからだよ」


 箱崎はこざきシャノン。

 子供の頃、実家の隣に引っ越してきた家族の娘だった。

 父がアメリカ人、母が日本人という両親を持つが故に、日本人とはかけ離れた外見をしているが、先述の家族構成からもわかるように、日米ハーフである。


「そ、それだけのために……? というか僕がここにいるってどうしてわかったの?」

「斗真のママに聞いたんだ。高校卒業した後、この大学に通ってるって教えてくれたよ」

「そ、そうだったんだ……」

 いつの間に僕の母さんと仲良くなってたんだ……。それも恐ろしいよ。

「ああ、あと私もこの大学に通うことになったから。学年は斗真と同じ四年生だよ」

「えっ……ええっ!?」


 突然のカミングアウトで、話についていくことができない。

 それでも、彼女の口は動くのを止めない。


「あっちでパパが会社を始めてね。それが成功してそれなりのお金持ちになれたの」

 何とも凄い事情である。

 あっさりと言っているが、アメリカで事業を成功させるのがどれだけすごいことか、働いたことのない僕にも何となくわかる。


「そんな事情があったんだ……それにしたってこんな微妙な時期に編入してくるなんて、驚いたよ」

「ああ、私、アメリカの大学はもう飛び級で卒業しちゃったんだよね」

「ええっ……!! じゃあなんでまたこの大学に入ったのさ」

「斗真と一緒に学校生活を楽しみたかったから、だよ」

 昔を懐かしむように目を細めるシャノン。

「小学校の頃、学校に馴染めなくて浮いちゃってた私に色々親切にしてくれたよね?」

「ああ、そんなこともあったね」


 見た目が日本人とは違う彼女は、周囲から孤立しがちな傾向にあった。

 ましてや子供であれば、偏見を持ったり色眼鏡で見てくることは何ら不思議ではない。

 幸い僕の小学校ではシャノンに対するイジメや嫌がらせは無かったが、中々友人を作ることが出来ず、まぁいわゆる"ぼっち"だったわけで……。

 見るに見かねて話しかけたら、そこから芋づる式にクラスメイト達と打ち解け始めることが出来た、というわけだ。


「斗真のおかげで学校も楽しくなったし、色んな思い出も出来たの。だからあの時みたいに、また斗真と一緒に学校に行きたかったんだ」

「そうだったんだ……」


 きっと彼女にとってはここまでするほどに素敵な思い出であり、叶えたい夢でもあったのだろう。


「それじゃ、これからまたよろしくね」

「うん! ……あ、そういえば斗真って語学サークルに入ってるんだっけ?」

「え、ああ、そうだけど……」

「だよね! それじゃサークルでもよろしくね」

「もしかして、シャノンも僕と同じサークルに入ってたり?」

「そうだよ! アメリカ帰りの私が色々とアドバイスしてあげるから、斗真の英語力もグングン伸びること間違いなしだよ!」

「確かに……それはありがたいよ!」


 現地経験者が教えてくれるというのであれば、非常に大助かりだ。

 突然の出会いで驚いてしまったが、これはこれで良い学生生活が送れそうだ。


「あっ、あとね! それからそれから!!」

「今度は何だよ……?」


 陽気な口調で話すシャノンがなんだかおかしくて、からかうような笑みを返してしまう。




「――さっき教室の外で楽しそうに話してた女、誰?」



 が――

 一瞬にして。

 先程までの快活で弾むようなトーンが鳴りを潜め、心臓を凍り付かせるような絶対零度の声が聞こえてきた。

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