シアワセナセカイ



Side アカリ


アカリが罰せられます。胸糞注意です。

グロいとかそういうことではないです!


■□▪▫■□▫▪■□▪▫



上手くいっていたはずのあたしの人生は、あの時容赦なく崩れ去ってしまった。



「アカリ・ナムラ、出ろ」



牢の扉が開かれ、随分と痩せこけてしまった足をよろよろと動かし立ち上がる。


手も足も衰え、鏡がないため確認できなくなってしまった顔は…もはや見たいとすら思えない。




しわしわの手だけで見れば想像できる。



これは、誰の腕?


あたしの腕…?



そんなわけない。あたしがこんな醜い姿なはずがない。



「ははっ、あははは…やっと外に出られるのねぇ…パパ、ママ…ハルちゃん…今会いに行くわっ」


しわがれた声は、誰の声…?



「気でも狂ったか」


牢番が怪訝そうにそう呟いた。




連れてこられた場所は広いホールのようなところで、あたしはここに見覚えがあった。



この金色の部屋は…あたしがこの世界に召喚された場所…



薄れかけた記憶が鮮明に蘇ってくる。



そうだ、ハルちゃん…



あの時いきなり変なところにやって来て不安で堪らなかったけど、ハルちゃんがあたしを迎えに来てくれたんだ!



あたしとハルちゃんは両思いで、しばらく一緒に暮らして愛を深めていたら…



えっと、どうなったんだっけぇ?



忘れちゃった。




「貴様がかつて王家に仇を生した大罪人か。なんとも醜い姿だな…それに、年よりも老けて見える」



あたしに向かってそんなことを言う男は、かつてこの国の国王が座っていた玉座に腰をかけていた。


あれっ、王様が変わってる…?



「あ!あたしを虐めた罰として王様は辞めさせられちゃったんですねぇ?」



そうだ、きっとそうに違いない。




「…何を言っている?罪を犯し投獄されてなお、王族を…私の祖父を侮辱するのか?」


「祖父ぅ?あの王様にあなたみたいな孫がいるわけないじゃないですかっ!」


一番上の王子様だってまだ結婚していなかったじゃない。


それなのにこんなに大きな孫だなんて、人を馬鹿にするのも大概にしてほしい。




「なるほど、完全に狂ってしまっているらしい」


「あたしは狂ってなんか!」



「これが何かわかるか?」



そう言って王様の偽物はあたしに向かって乱暴に布のような何かを投げつけた。



これは…あたしがここに来た時に着ていた服?




「なんか古ぼけて…」


「一応帰る時のために大切に保管させたのだが、年月には敵わなかったらしい。まあ着れないことはない。それを着て帰った方が面白いだろう。さあ、早くそれに着替えろ」



「着替えろって、いったいどこで…」


目の前の男の目が早くしろと促しているようで怖かった。



「…ここで着替えることになんの問題がある?誰もお前みたいな醜い者の体など気にも留めないぞ」


「っ、そんなこと!女の子が異性の前で…しかもこんなにたくさんの使用人の前で着替えるなんて…」



「はっ、女の子なんてどこにいる?いいから早く着替えろ。元の世界に帰れなくなってもいいのか?」


ゾッとするような冷たい表情でそんなことを言う男が恐ろしくて、あたしは唇を噛み締めてできるだけ服の中が見えないよう、ワンピースを頭から被った。




「滑稽な姿だな。醜い老婆が必死に若者の服を来ているのがなんとも痛々しい」



この人は何故先程からあたしを老婆扱いするのだろうか。


あたしは人より優れた容姿をしていて、出会う人はみんなあたしのことを可愛いって褒めてくれるのに。




「そろそろお前の相手にもうんざりしてきたな。今からお前を元の世界に戻す」


「えっ!戻れるんですか!?やったぁ!」



早くこんな世界にはおさらばしたいと思っていたところだ。


よく思い出せないけど、あたしはこの世界にうんざりしていた。



…あたし、今まで何してたんだっけ?



どうしてかこの大広間に来る以前のことまでモヤがかかったように思い出せない。


ほんの十数分前のことなのに。




「あっ、ハルちゃん!あたしハルちゃんと一緒に帰らなきゃいけないんです…!」



「ハルちゃん?…あぁ、確かオーツ前公爵とは幼馴染だったか?ふむ、先に戻っているから安心しろ」


「そうなんですね!わかりましたっ」



だったらもう何も心配はいらない。


あたしはまた元の世界でハルちゃんと幸せに過ごすんだ。




「やれ」



国王の偽物さんの声を合図に、眩いほどの光があたしを包み込んだ。




「オーツ公爵なら孫に囲まれて幸せに暮らしている」


最後に耳に入ったのはそんなわけのわからない言葉だった。





光が収まると、あたしは雑草が生い茂った一つの空き地に立っていた。



どこ、ここ…?



当たりを見渡すと答えは直ぐにわかった。




ここはハルちゃんの家があったはずの場所。


隣にはあたしのお家が立っているから、間違いない。



どうしてハルちゃんの家だけなくなっちゃってるんだろう。




タイミングよく一人の老婆が歩いてきた。



「ここにあった家がなくなっちゃってるんですけど、どうしてですか?」


「家…?ここは三年ほど前に横領で倒産した医療品会社の社長の住まいが無くなって以来、新しい家は建ってないですよ?」



三年前?



そんなわけがない。


あたしがあの世界に行ってまだひと月ほどしか経ってない。



確か向こうの世界の方がずっと年月が経つのが早いって聞いたから、あたしが戻ってきてもこっちの世界では一週間も経っていないはずだ。



おかしい、わけがわからない。



「嘘つかないでくださいっ!」



あたしはその老婆にそれだけ言うと、今度は自分の家に飛び込んだ。




「パパっ、ママっ!!」


外に車があったからきっと中にいるはず。


予想通りリビングには、少し疲れた様な顔をした二人の姿があった。




「っ、誰だお前!堂々と人様の家に不法侵入なんて何を考えている!!」


パパはあたしを見るなりそんなことを怒鳴った。



「パパ?え、どうしたのぉ?あたしだよっアカリ!パパの大切な一人娘を忘れちゃったのぉ?」


「ふ、ふざけるなぁ!!」



顔を真っ赤にして怒るパパにわけがわからず涙がぽたぽたと零れた。




「ひっ…あなた…その人が着ている服…最期にあの子が着ていた…っ、いやぁぁあ!」


「き、貴様ぁあ!!お前が、お前が私たちの娘をっ!!!あかりをいったいどこにやったんだ!!!」



頭を抱えて絶叫するママ。


パパは勢いよくあたに駆け寄ってきて、あろうことかあたしの首に手をかける。



「っ、く、るし…ぱ、ぱ」


「貴様などの父親ではない!私はあの子の…愛しいあかりの父親だ!!」



だから、あたしのパパじゃない!


苦しい…



誰か助けて…



どうしてママはあたしの首を絞めるパパを止めてくれないの?




「ゔ、ぁ…ぱ、ぱ…まま…」



あたしの意識はそこで途切れた。




せっかく戻ってきたのに、ハルちゃんにも会えないし…パパやママはわけわかんないし。



もしかしたら、全部夢なんじゃない…?


ありえない事の連続でそんなことを思った。




そうだよ、きっとそう!


パパやママがあたしに怒るわけないし、ましてや首を絞めるなんて、ね。



きっと目が覚めたら元通りの日常。



あたしの望むままそばに居てくれるハルちゃんと、何でも願いを叶えてくれるパパやママがいる、幸せな世界。



あたしは安心して眠りにつくのだった。




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