チャンポン賭博伝
蛾次郎
第1話
「1枚貰おうか」
ロドリゲスがディーラーからカードを1枚要求した。
「チッ、ダメだ」
要らないカードを1枚捨てる。
「2枚くれ」
ルイスも納得いかない表情で1枚捨てる。
「1枚」
アフレックはニヤリと笑みを浮かべた。
良いカードが来たようだ。
「1枚ください」
ボイドは、ポーカーフェイスで1枚捨てる。
「カン」
ロドリゲスがボイドの捨てたカードを取ってテーブルの隅に同じカードを4枚並べた。
「1枚くれ」
ルイスは1枚貰うと笑みを浮かべながらカードを4枚捨てた。
「ちょっと待て」
アフレックが一旦ゲームを止め、ルイスが捨てたカードを指差した。
「ディーラー。そのカード、イカサマしてねえか調べてくれ」
「おい、アフレック、てめえ正気か?」
疑われたルイスがアフレックを睨みつける。
ディーラーは、ルイスが捨てたカードを手に取り4人に1枚1枚見せる。
すると2枚目と3枚目の間にスライスチーズが紛れていた事が判明した。
アフレックはルイスを睨みながら言い放った。
「兄弟。疑って悪かった」
「良いって事よ。今朝サンドイッチを作り過ぎちまってな」
ルイスは、アフレックの肩をポンと叩いた。
「余ったんなら持って来りゃ良かったのに」
アフレックがそう言うと、ルイスは笑った。
「HAHAHA。持って来るったって俺はサウスダコタで、ここはネブラスカだぜ?着いた時にゃ腐っちまうじゃねえか」
「何言ってんだよ。サウスダコタの余り物は、お隣さんのネブラスカにって言うだろ?」
「まあ俺たちが山脈ならな!」
小粋なジョークで談笑する2人を見たロドリゲスがディーラーに要求する。
「ディーラー、こいつらのカード1枚取ってくれ」
ディーラーは、2人からカードを1枚取り上げた。
「おいおい、勘弁してくれよロドリゲス。そんな事されたら役が揃わねえじゃねえか」
ルイスがそう言うとロドリゲスは指を鳴らし、ディーラーが着ているシャツのポケットを指差した。
「やるじゃねえか」
アフレックがほくそ笑んだ。
没収したはずのカードがディーラーのポケットに入っていたからだ。
ディーラーが2人に取り上げたカードを返す。
「あれ!?」
アフレックがディーラーから返されたカードを受け取った時、それ以外のカードが全て無くなっていた。
「おい、俺のカード知らねえか?」
アフレックが焦り出す。
「紙隠しにでもあったんじゃねえのか?」
ボイドのジョークは誰も聞いていなかった。
「おい、誰だ?俺のカードをくすねやがったのは?」
「リーチ!!!!」
ボイドがジョークの失敗を掻き消すようにリーチを告げた。テーブルの下にあるリーチ卒塔婆をテーブルに置く。
「待てよボイド。お前カード多くねえか?」
アフレックが指摘する。
「多くて何が悪いんだよ」
「1枚取ったら1枚捨てろよ。何で8枚も持って…あ、てめえか?俺のカードをくすねた奴は?」
ボイドは、うなだれながら自白した。
「ああ、そうさ。だーれも俺の事なんて見てやしねえ。寂しくてよお。ムシャクシャしてたんだよ」
「うん」
アフレックはボイドがくすねたカードを奪い取り、リーチ卒塔婆を放り投げた。
「1枚くれ」
ロドリゲスがディーラーからカードを貰う。首を傾げ1枚捨てる。
「ポン」
ルイスが捨てたカードを拾い、手持ちの同じカード2枚と並べる。
すると、その上からアフレックが1枚のカードを被せた。
「アフレック氏。2、5、角。成る」
ディーラーが告げると、アフレックはカードを裏返した。「龍馬」のカードだ。
残りの3人は険しい表情になり、みな葉巻を吸い始めた。
「これより5分間の休憩に入ります。300秒、299秒…」
ディーラーがカウントダウンを始める。
「2枚投げてくれ」
休憩の間、ボイドがカードを要求した。
ディーラーは、ボイドのもとへカードを2枚投げた。
「ヤップ!ヤーップ!ヤーップ!」
ディーラーからボイドまでの距離は約100メートル。
カードが届かなそうだと踏んだディーラーはカードをスイープするよう呼びかけた。
ロドリゲス、アフレック、ルイスが吸いかけの葉巻でテーブルをこする。
カードはボイドを通り過ぎ、隣で美女達とジャグジーに浸かりながら泡に浮かぶトランプで神経衰弱をしていたバルセザール13世の首筋に刺さった。
「13世がいらっしゃった。こりゃ丁度良いや」
ルイスがそう言うと、手持ちのカード13枚をテーブルにざっと並べた。
カードは左から、イーワン、キューワン、イソコ、クーソウ、イーピン、キュウピン、トン、ナン、シャー、ペー、ハク、ハツ、チュンと並んでいた。
「パーフェクトワールドウィンだ!!!!」
カジノに来た客全員が同時に口を揃えて言い放った。
1ゲーム目が終了し、3人は手持ちのカードを見せた。
3人共、ルイスと同じパーフェクトワールドウィンであった。
「ノーカウントで、ルイス氏の総獲りになります」
ディーラーがカードを回収する。
ルイスの手元にはゲーセンのメダルがシャンパンタワーのように高く積まれた。
ジェレミーが伏せられたカードを指の腹で読む。
「この微妙な凹凸とザラつきは、ハートのエースだな?」
ディーラーがルーレットを回しサイコロを床に転がした。
ルーレットが回ってから3時間が経った頃、床に転がしたサイコロと福引の緑玉をルーレットに投げる。
サイコロは赤の0、緑玉は黒の0に入ったが、サイコロの出目が2150だった事と、緑玉が白玉に変化していたため、ジェレミーJrは8等の景品しか貰えず、ガックリとうなだれた。
「8等になります」
ディーラーが指を鳴らすと世界に2台しか無いスーパーカーが入って来た。
「今欲しいのは1等だったのに…」
ジェレミーJrは、遠くでバカラを楽しんでいる1等のティッシュを引き当てた貴婦人を疎ましげに見ながら大きなため息を吐いた。
その光景を見たボイドは、もらいため息を吐きながら言った。
「ルールの無いゲームは退屈だぜ」
何か良さげな事を言って、まとめようとしているので、そうはさせまいと客全員が一斉に店を出た。
1人でゲームを続けるボイドのもとへ、2時間後、ルイスが戻ってきた。
「あの流れの中で紙隠しがうんたらかんたらって言ったの、そこまで悪くは無かったわ。只、ま、まあ、うん、まあ…」
ルイスはそう言うと、ボイドの肩をドンマイ的なニュアンスで叩いて一気に走り去った。
「その気配りがあとで致命傷になる」
またボイドが意味ありげに凡庸な言葉を吐く。
ルイスはカジノの入口から羊の群れを放った。
オオカミを放たないところにルイスの優しさが垣間見える。
ガルヴィングが開いたままのスポーツカーに勘の良い羊が乗車し、ルーレットの周りをドリフトし続けた。
この羊のドリフトが生態系を変え、進化のきっかけになる事を、ボイド以外の人類は確信していた。
「おっ!羊群リーチ後にドリフトが来たぞ!!これはもう間違いないな!」
「CRカジノ無双乱舞」を打っていた初老の男、山田は、嬉しすぎてパチンコ台のボタンを無意味に押しまくった。
10000分の1の確率でしか出ないリーチアクション、「羊のドリフトリーチ」にテンションが上がりまくっているのだ。
それを両隣で見ていた知り合いの初老2人も自分のプレイを一旦止め、山田の台が大当たりするか注目していた。
ボイドが2つ並んだ。あと1ボイドが揃えば確変大当たりだ。
ウォンウォンウォンウォンウォンウォン!
警報のようなリーチアクションの音が鳴り、最後のボイドがゆっくりと降りて来る。
初老3人は、映像でしか見た事が無いリーチアクションで激熱モードに突入し、興奮したのか被っていたキャップを取った。
3人の頭頂部は同じようにキラリと輝いていた。
大当たり!
3人の初老が輝く頭頂部を見せる「ロートルスリーフラッシュ」を引き当てたボイドは、プレイヤーのメダルを総取りした。
「コングラチュレーション!!」
ディーラーが天高く積まれたメダルをボイドの手元へ移動させる。
「危ない!!」
ディーラーが運び方に失敗し、ボイドは崩れたメダルの下敷きになった。
「まあ……本望ですよね」
ディーラーは、ピクリとも動かないボイドに弔いの言葉を贈った。
了
チャンポン賭博伝 蛾次郎 @daisuke-m
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