思い路

@omonashiyuho

第1話 夜の路

 参った。眠れない。

明日からの高校生活に思いを馳せて、といった上等な理由ではない。

さっきまでの家族からの入学祝いの席で食べ過ぎた、という笑い話でもない。

いや、笑い話ではあるが、家族に話せば返ってくるのは精々失笑だろう。

そもそもだが高校生活に馳せる思いなど持ち合わせていない。

 では何故眠れないのかといえば、完全に自業自得だ。

SNSをチェックしていたら、目が冴えてしまったというだけの話だ。

もうすぐ丑三つ時だというのに眠れる気が全くしない。

登校初日からの遅刻はあまり良い選択とは言えないだろう。どう考えても目立つ。

馳せる思いはないが、困る思いをするのは御免だ。

「ならばと出てきた夜の街。さていい運動になることを願おう。」

まあ、軽い運動をすれば少しは寝れるだろうという浅い考えではあるが、

行わないよりは良いだろう、誰にともなく独り言ちると、ゆったりと歩き出す。


 どうやら、人も草木も寝静まる丑三つ時は、昔のものとなったらしい。

今や摩天楼には光が灯り、車が風に代わって街路樹達の枝葉を揺らす。

かつての全てが昏い夜の路、その面影は見えない。

そんなことを考えながら、夜の街を歩いていたら何もない物寂しい橋に着いた。

「そろそろ、折り返すかな。」誰にともなく独り言ちる。

それなりに運動もできたことだし、これなら初日からの失態は犯さずに済みそうだ。

ここは薄ら寒い。だから早く帰ろう。

そう心の中で呟き、振り返り、歩みだそうとする刹那。

後ろに何かの気配を見出した。

そっと振り返る。そこには物一つない、人ひとりいない寂しい橋があった。

だが、あった。確かに、見出した。判った気がした。

かつて、幾つもの名で呼ばれた

今も昔も変わらない、夢想と現世の間にいるものを。

何の独り言も出なかった。


結局、初日から遅刻はしなかったが、眠れなかっただけだった。












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