第14話 アップル・パイ

「こっちだよー」



 案内する楓花について別室に移ると、そこは手術台のようなベッドがあるだけの殺風景な空間が広がっていた。


「えっと、ここで何するの?」


「んー? それはもちろん擬似契約をして、遥香ちゃんの身体を魔法少女として適応できる身体にするんだよ」


 楓花はニコニコ笑っている。


「あの、それって痛かったりする?」


「まさかぁ。強いて言うなら気持ちいい……かな?」


「そっか、よかった……」


 ホッと一息つく。痛みがないなら何とかなるはずだ。


「じゃあ始めるねー」


 楓花は私を寝かせると、慣れた手つきで服を脱がしていく。



「ちょ、ちょっと待って! 自分で脱げるから!」


「大丈夫だってばぁ。恥ずかしがらないでさぁ」


 楓花に無理やり上着を剥ぎ取られてしまった。


「もー、分かったから……。早く終わらせてよね」


 私は諦めてされるがままになった。


(こんなところ誰かに見られたら、勘違いされちゃうじゃない……)


 そんなことを考えているうちに、下着姿になってしまった。


「……ちなみに、具体的にどんなことをするの?」


「魔法少女になるための擬似契約は、擬似的な性行為によって成立するの。遥香ちゃんの処女膜を破ることによって、魔法少女であるわたしの遺伝子情報が遥香ちゃんのDNAに書き込まれるんだ。あとは変身デバイスを用意すれば──」


「へっ!? ちょ、ちょっと待って! しょ、処女膜!? それに遺伝子情報!?」


「そうだよぉ。擬似的とはいえ、遥香ちゃんの初めてはわたしが貰っちゃうんだからねぇ。これは責任取らないとなぁ」


 楓花はニヤリと笑って舌なめずりをする。その顔は獲物を見つけた獣のようだ。


(まずい、このままだと食べられてしまう!)


 私が恋愛感情を抱いている相手は緋奈子だけ……のはずだ。なのに、魔法少女になるためとはいえ、初めてを楓花に捧げるわけにはいかない……と思う! ……これが私が魔法少女になるための『対価』だというのだろうか。


「ご、ゴメン! やっぱりやめとく!」


「えぇ? 今さらダメだよぉ。もう準備始めちゃったし」


「やだ! やめて!は、離して!」


 楓花を振り払おうとするが、ビクともしない。


「大丈夫だって。すぐに気持ちよくなって、何も考えられなくなるよぉ」


 楓花の唇が私の首筋に触れた。ゾクリとした感覚が全身を駆け巡る。


「ひっ! い、嫌ぁ!」


 私は必死に抵抗する。しかし、楓花は全く意に介していない様子だった。


「大人しくしないと、もっと酷いことになるよぉ?」


 楓花は私を押さえつける手に力を込めると、今度は耳元で囁いてきた。その声はいつもの明るい雰囲気とは違い、まるで悪魔のように冷たく感じる。


「うぅ……。わ、分かりました」


 私は抵抗を諦めた。すると楓花はパッと手を放す。そして満面の笑みを浮かべて言った。


「うん! 素直が一番だよぉ。じゃあ始めるね」


 楓花の手が私の胸に触れる。


「ひゃあっ!」


「ふふ、可愛い反応するんだねぇ。ますます興奮しちゃうよ」


 楓花は私のブラジャーを外すと、両手で乳房を揉んできた。


「んっ、くすぐったい……」


「大丈夫。すぐに気持ち良くなるよぉ」


 楓花の手が敏感なところを撫でる。その度にピリッと電流が走ったような快感が身体中を駆け巡った。


「はぁ……、はぁ……。あ、あの、これって本当に必要なことなの?」


「もちろんだよぉ。この儀式を行わないと魔法少女になれないからねぇ」


「そ、そうなんだ……」


(な、なんか変な気分になってきちゃったかも)


 最初は緊張していたせいか、あまり感じなかったのだが、徐々に快楽が増してきている気がする。

 一瞬緋奈子の顔が脳裏をよぎった。あの時、緋奈子の忠告を聞いておけば……と思ったけれど、もう後の祭りだ。



 諦めて全てを楓花に委ねようとした時、大きな音を立てて部屋の扉が吹き飛んだ。

 何事かと私と楓花が振り向くと、そこには黄色のコスチュームに身を包んだ魔法少女、マンゴープリンちゃん──木乃葉が肩で息をしながら立っていた。



「はぁ、はぁ……やぁぁぁっと見つけたぁ! お楽しみのところ申し訳ないけれど、その子はウチが連れて帰るから!」


「また会えたねぇ、マンゴープリンちゃん。でもごめんね? 遥香ちゃんはわたしのものになるの」


 楓花は余裕の表情で木乃葉と対峙する。


「ふざけたこと言わないで! あんたみたいな変態は絶対に許さないから!」


 木乃葉も人のこと言えないのに何言ってるんだろう。


「まあまあ落ち着いてよ。わたしはあなたと戦う気はないの」


「なに……?」


「遥香ちゃんを魔法少女にするっていうのは全部嘘。本当の目的は……マンゴープリンちゃん、あなただよぉ?」


「……ねぇ、楓花ちゃん。嘘ついたの? 私が魔法少女になれるっていうのも全部嘘だったの?」


 信じたくなかった。否定して欲しかった。でも、楓花は首を横には振ってくれなかった。


「ごめんね。マンゴープリンちゃんを呼び出すためには仕方なかったんだよ……」


 楓花はそう言うと、再び私をベッドに押し倒した。


「ちょっ!?」


「えへっ、こうやって遥香ちゃんがピンチになったら、絶対マンゴープリンちゃんは駆けつけてくるかなぁって」


 楓花が私の太腿に手を伸ばしたところで、木乃葉の蹴りが飛んできた。


「ぐっ!?」


 楓花は咄嵯に腕でガードしたが、勢いを殺しきれずに吹っ飛ばされる。


(た、助かった……?)


「お姉! 大丈夫?」


「う、うん。ありがとう……」


 私は起き上がって乱れていた衣服を整える。


「……やっぱりただでは捕まってくれなさそうだね。仕方がない、少しだけ遊んであげるよぉ」


 楓花はゆっくりと立ち上がると、指をパチンと鳴らした。と同時に楓花の着ていた服が弾け飛び、その豊満な肢体があらわになった。──と思った次の瞬間には、楓花は光に包まれ、ふわふわもこもこな魔法少女【コットンキャンディー】に変身していた。



「マンゴープリンちゃん。改めて聞くね? ──わたしたちの仲間にならない?」


「ならない! 絶対に!」


 即答だった。ここまで清々しいまでの拒否っぷりを見せる木乃葉は初めてかもしれない。


「残念だなぁ。それじゃあ、力ずくで連れて行くしかないよねぇ!」


 楓花が両手を広げると、手のひらにポンッと小さな綿菓子が現れた。そして楓花はそれを口の中に放り込むと、「はむっ」という可愛らしい声とともに咀噛した。

 すると楓花はみるみると巨大化し、身長3メートルくらいまで成長した。


(わ、私の倍はある……。あんなに大きくなって大丈夫なのかな……)


 そんな私の心配をよそに、楓花は木乃葉に向かって拳を振り下ろす。


「危ない!」


 木乃葉はギリギリで避けると、すぐに反撃に転じた。スカートをたくし上げると、またいつもの縞パンに触れる。そしてそのまま黄色いオーラをまとって素早く相手の間合いに踏み込んだ。



「マジカル・キック!」


 木乃葉の神速の回し蹴りが決まるも、楓花はあまりダメージを受けていないようだった。


「効かないなぁ……。今度はこっちの番だよぉ!」


 楓花は木乃葉に抱きつくと、そのまま押し倒してしまった。


「くっ……離せぇ! あんたタイプじゃないから押し倒さないでよぉ!」


「えへへ、そういうプレイもいいかもねぇ」


(うぅ……なんか見たくない)



 私は目を逸らすが、楓花は木乃葉を羽交い締めにした状態でこちらを見た。


「さて、どうしようかなぁ。このままマンゴープリンちゃんのパンツを剥ぎ取っちゃおうかなぁ。見た感じ、重要なアイテムなんでしょ?」


「や、やめて……! お願いだから……!あっ、ダメ……そこは弱いのぉ……」


 楓花は木乃葉の太腿に手を這わせると、そのままスカートの中へと侵入していった。


「ひゃっ!? ちょっ……どこ触ってんの!」


「マンゴープリンちゃんの弱点は知ってるからねぇ。ここかな?」


「きゃっ! そこもだめだってばぁ……!」


「あはっ、可愛い反応するねぇ。わたし、余計あなたに興味湧いてきちゃった……」


「もうやめて楓花! マンゴープリンちゃんを離して!」


 私が叫んだその時、木乃葉の体が再び光に包まれる。眩しさに思わず目を閉じると、次に瞼を開いた時にはそこにはもう木乃葉の姿はなかった。


「あれ……? もしかして逃げられちゃった?」


「あーあー、もうバカらしい。ウチとあんたじゃあ実力の差がありすぎるんだっての……何か聞き出せるかなと思って付き合ってあげたけど、期待はずれだったなぁ」

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