第11話 アンニン・ドウフ
「そういえば、なんで私のことを知ってたの?」
私はドリンクバーで注いだメロンソーダを飲みながら尋ねると、楓花はアイスコーヒーを一口飲んでから答えてくれた。
「それはね〜、ほら、わたあめ魔法を使うと、魔力の波動みたいなのが出るんだよ。それでね、ビビビってわかっちゃった〜」
「真面目に答えてよ」
「ごめんごめん。……えっとね、マンゴープリンちゃんについて調べてたらこの間のデストルドーの襲撃に居合わせた一般人がいたってマカロンショコラちゃんとクレープシュゼットちゃんの報告書にあったから、気になって追ってたの。そしたら、遥香ちゃんの名前が出てきて、顔写真見てみたら昨日助けてくれた女の子だったってわけ」
「……なるほどね」
緋奈子もクレープちゃんも余計なことをする。まあ、ちゃんと報告書書けって言うのも、魔法少女協会とやらのルールのなのかもしれないけれど。
「……でも、それだけが理由じゃないでしょ?」
「うーん、やっぱりバレバレかぁ〜。まぁ秘密はよくないよね。──白状すると、遥香ちゃんからマンゴープリンちゃんについて色々聞きたい。もちろんタダでとは言わないから」
「お金?」
「ううん、わたしの身体を好きにしていいよ♡」
「は?」
「えっちなお願いも聞いてあげる♡」
「は?」
「……ダメ?」
「……」
私の頭は混乱していた。
えっ、どういうこと? 今、なんて言ったのこの子!?
「あの、もう一回言ってもらってもいい?」
「えーっ、もう……遥香ちゃんのえっちぃ……だから、わたしの身体を自由に使ってください♡」
「えー……」
「……だめ?」
「うぅ……!」
そんなうるんだ瞳で見つめられたら、断りづらいじゃん……! 緋奈子といい、木乃葉といい、この子といい、どうして私の周りの魔法少女はこんなにも脳内がピンクなのだろうか!
「はぁ……分かったよ」
「やった〜。じゃあさっそくホテル行こっか♪」
「違うよ!? 何をするにしても一旦落ち着こうか!」
私は興奮気味の楓花を必死に落ち着けさせる。全く、油断も隙もない……。
「まあまあ、冗談はこの辺にしておいて。……これあげるね」
ふと真面目な表情に戻った楓花は、私の右手になにやらペロペロキャンディのようなものを握らせてきた。……っていうかどこからどこまでが冗談なの!?
「なにこれ?」
「それは呼び出しデバイスだよ。昨日みたいに危ない目にあって、わたしの力が必要な時はその包み紙を剥がして口にくわえて、頭の中でわたしを呼んでみて」
なるほど、そういう意味の「わたしの身体を自由に使ってください」なのか。
「……それで、楓花ちゃんが欲しい情報って?」
「マンゴープリンちゃんについて、遥香ちゃんが知っていること全部教えて欲しいな〜」
「全部ねぇ」
「……って言いたいところだけど、話せることだけでいいよ。そっちの事情もあるだろうし」
「申し訳ないけど、あの子について話せることなんてないよ……だってあなたたち、あの子を魔法少女協会とかいうところに連れていくつもりなんでしょ?」
断ると、楓花ちゃんは身を乗り出して私の手を握ってきた。そして懇願するようにこんなことを口にする。
「最近、ヴィランの襲撃が激しくなってて、魔法少女も大勢が犠牲になってるの。……わたしたち魔法少女が全員団結しないと、みんなを守れなくなっちゃう。そんな段階に入ってるの。わかって、遥香ちゃん」
「要するに、あなたたちはマンゴープリンちゃんの強さが必要で、どうしても仲間に引き入れたいってこと?」
「……ざっくり言うとそういうことだけどぉ」
「でも私、あなたたちのせいであの子を危険に晒すのは嫌だよ。他人を勝手に規則で縛ってさ……魔法少女協会はどうかしてるよ」
「わかってる。でもわたしたちにもみんなを守らなきゃって使命があるの。そのためには一人でも多くの仲間が必要。だからなんとか! お願いします!」
楓花は両手を合わせて頼み込んでくる。……彼女の気持ちも分からなくはないけれど、それでも私は簡単に引き下がるわけにはいかない。
木乃葉が自分の身を危険に晒してまで魔法少女協会への協力を拒むのは何か理由があるはずだ。本人の意思を無視して私がここでマンゴープリンちゃんのことを話すわけにはいかない。
「ごめんね。悪いけど協力はできないかな……」
私がそう告げると、彼女は一瞬だけ悲しげに目を伏せたが、すぐに笑顔を浮かべて言った。
「そっかぁ。残念だなぁ。でも仕方ないかぁ〜。無理言ってごめんね遥香ちゃん」
「いや、別に気にしないで」
「それじゃあ今日は帰るね。あ、そのデバイスは自由に使って? 助けてくれたお礼だから」
「うん、ありがと」
彼女が帰った後、私は楓花ちゃんからもらった飴玉のようなデバイスを見つめた。
これは魔法少女協会からの贈り物らしいが、一体どういう意図があって私にこれを渡してきたのだろうか。
「マンゴープリンちゃんについて、か……」
私はポツリと呟いた。
もし本当に彼女が普通の魔法少女よりも強い力を持っているなら、人類にとって大きな戦力になるかもしれない。
しかし、同時に彼女を危険な目に遭わせてしまう可能性もあるわけで……。
「どうすればいいんだろ……」
答えが出ないまま、私は楓花ちゃんから貰ったデバイスをポケットの中にしまい込んだ。
なんか無性に木乃葉に会いたくなった。
☆☆☆
「ただいまー」
私は、家に帰るとまっすぐに木乃葉の部屋に直行した。
「木乃葉ー、いるー? 大事な話があるんだけど」
「お姉? 今えっちなことしてるから入らないで」
「……」
私は問答無用で扉を開けた。すると、目の前に木乃葉の縞パンが飛び込んできた。
「は? なにやってんのあんた」
「ちょっ! お姉! 入ってくんなって言ったでしょ! 出てけ!」
木乃葉はいつもの下着にTシャツ一枚の格好で、右足で片足立ちをし、左手で左足を真上に上げて、こちらに股間をこれでもかと見せつけてきている。
「なにしてんのって聞いてるんだけど。あんたのパンツなんか見たくないんだけど?」
「I字バランスだよ。魔法少女たるもの身体の柔らかさも大事なんだよ?」
「とりあえず、そのはしたない格好やめてお姉ちゃんの話を聞きなさい」
「わかったよ。しょうがないなぁ」
私の命令を聞いた木乃葉がストンっと両足を床につける。
「それで、大事な話って?」
「お姉ちゃんには木乃葉が戦う理由を教えてほしい。……じゃないと木乃葉のこと、守りきれないよ」
私が真剣に言うと、木乃葉は少し困ったような表情になった。そしてしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「別にいいよ守らなくても。お姉はウチのこと気にしなくていいの。今までもそうだったでしょ?」
「今まであまり構ってあげてなかったのは悪かったって思ってる。でも、木乃葉は私の妹だから……!」
「違うよ。ウチとお姉はほんとは血なんて繋がってないんじゃないの? 顔とか体型も似てないし、頭脳も性格も全く違うし」
「……どうしてそういうこと言うの? この前もそう。私が木乃葉の目的を聞きたがったらそうやっていじけてさ……。お姉ちゃん、木乃葉の事がよくわかんないよ」
「……だって、お姉には教えたくないんだもん」
「なんでよ! お姉ちゃんにも協力させて! 困ってるなら力にならせてよ!」
私は、必死になって訴えた。しかし、彼女は首を横に振って、こう言うだけだった。
「ダメ。絶対言わない」
「……もう知らない!」
私は勢いよく部屋を出ていった。
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