第8話 緊迫
「おはようございます、カイム様」
ピーノがカーテンを開けると、白い日差しが僕を包み込む。
ついに、五歳のスキル発現儀式。正確には、五歳の誕生日の深夜に発現したスキルの名前が分かる儀式。
「おはよう、ピーノ」
春の暖かな気温が、僕の緊張を和らげてくれる。
当たりスキルか、外れスキルか…。外れてくれ!頼む!
「緊張しているのですか?大丈夫ですよ。私でも、戦闘系スキルが発現しましたから、カイム様はもっとすごいはずです」
「そうだといいけどね」
そうじゃないといいんだけどね。
パジャマのまま、朝食を済ませた僕は、ピーノに支度を手伝ってもらった。
「今日は、大事な日ですからね。おめかししましょう」
「お願いするね」
「はい、もちろんです!」
ピーノが妙に気合入ってるけど、何か嬉しことでもあったのかな?
十分ほどで支度が終わり、僕たちは玄関に出た。
玄関には、すでに父、母、姉が、金色の装飾に覆われた馬車の前に揃っていた。
「お待たせしました」
「いいのよ~。ヒュールハイナのほうがもっと時間がかかったもの」
母よ、れっきとした女の子の姉さまと比べないでくれ。
「うむ、全員揃ったから、馬車に乗れ。すぐに出発するぞ」
「はい、お父様」
姉が礼儀正しく挨拶すると、姉、母、僕、父の順で馬車に乗り込んでいった。
すぐに馬車は出発した。快速快速、少し開いている窓から入る風が気持ちいい。
行先は、アージス大聖堂。リシエル王国建国百周年に記念に建てられた、王都アリズの、シンボルとなっている大聖堂だ。
今は、設立から千年以上たっており、非常に歴史深いため、主力領主の家計や王族はここで、五歳の儀式、冠婚葬祭を執り行うところも多い。
セルトファディア家も例外でなく、家族全員、ここで儀式を執り行っている。
セルトファディア領は、王都のすぐ東にあるため、比較的早く着く。
僕みたいにこんな考え事をしていたらすぐだ。
馬車から降りると、キリスト教の教会のような建物が現れた。
町も洋風で、ザ・ファンタジーって感じがする。
「ようこそいらっしゃいました、セルトファディア侯爵」
白い服で、十字架の首飾りをした細身の優しそうな男性が現れる。
「久しぶりです、アージス司教。こちらが、カイムです」
紹介を受けて、僕は急いで自己紹介する。
「こんにちは、カイム・セルトファディアです。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。ではこちらに」
アージス司教が招いた先に僕と父は歩く。母と姉は別室で紅茶を飲んで待っているそうだから、ここで二手に分かれた。
石造りの壁と、赤いカーペットの質素な長い廊下を少し歩くと、開けた場所に出た。よくある祈りの場ってやつっぽい。
長椅子の間をすり抜け、一番前の天使のような石像がある所まで来た。
「では、こちらの椅子に座ってください。侯爵はこちらへ」
金色のふちで、クッション部分が赤い布で覆われたいかにも高級そうな椅子に僕は座る。父も似たような椅子に腰かけた。
「準備は、よろしいですね?では、儀式を始めます」
司祭の声が、静かな室内に響いた。
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