第6話 精霊

 頭を抱えたピーノは、とりあえず、偶然読めたに過ぎないということにして、自分を落ち着かせていた。

 さっきからずっとブツブツ何かを言い聞かせている。

「カイム様が読めたのは偶然。きっと書斎の窓から入った風の精霊が囁いているのよ、ピーノ、落ち着いて。カイム様が読め…」


「…ふふ、きっと偶然だよ。えっとその、風の精霊?が囁いていたのが聞こえたんだよ」

「分かりました。そういうことにしますね。では気を取り直して、ルーン語の勉強を始めます。では、単語からゆっくり覚えましょう。これは、何と書いてあるでしょう?」


 ピーノの白く細い指が、刺した単語。

 悩むような素振りを見せる。なぜか行われる翻訳の時間稼ぎのためにね。

 翻訳魔術が常時発動しているから、会話には支障はない。けど、文字を読むのには時間がかかる。


 また違う魔術なのかな?

 ためしに脳内で文字を翻訳する魔術の名前って何?と聞いてみる。ア●クサ感覚。

 “該当する魔術はこちらです 訳書魔術”

 答えた!訳書魔術っていうのか!


 ん?訳書って、動作の意味じゃないような気がするけど、まぁいいか。

 そろそろピーノが答えを言ってしまいそうだから、答えないと。

 解析の結果は、リンゴだ。


「リンゴ!」

「はい、正解です!こっちはわかりますか?」

「うーん…」


 やっぱり解析には時間がかかるなぁ。というか、言葉は解析じゃなくて、翻訳っていうよね。でも分かりにくいし、解析って言うことにしよう。

 “解析完了 バナナ”


「バナナだ!」

「はい、正解です!カイム様は天才ですね!説明なしで、単語が読めるなんて!」

「そんなことないよ、また風の精霊のおかげだよ」

「きっと、精霊に愛されているのですね。さすがはカイム様です!」

「えへへ、ありがとう」


「では、この調子で頑張りましょう。次の問題に行きますよ」

 僕たちは、日が暮れるまでルーン文字の勉強に取り組んだ。

 単語の解析を繰り返していると、ルーン文字の解析が早くなり、時間差なしで、意味を答えることができるようになった。


 ピーノは、単語は勉強しなくてもよしと判断したので、文法に移った。

 文法も同じ言語だから、単語と同様に時間差なしで解析できるみたいで、ルーン語を話す練習も行った。


 こちらは翻訳魔術がフル発動中だから、練習どころか、会話が可能。

 ピーノが言うには、ルーン語マスターも驚きのネイティブさんになってしまったらしい。

 魔術の力が偉大過ぎで困るくらいだ…。嬉しいけどね。


 半日でルーン語をマスターしたということは、一日に二言語マスターできるということだから、ピーノといろんな言語ですぐにお話しできるということ。

 僕は、明日からの毎日に、期待とを胸に抱き、夜を過ごした。

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