僕でよかったら
「何だよ、あの……何だ? 『ドラゴニック・ドライバー』? 威力ありすぎなんじゃねぇか? ちょっとド派手にやりすぎだぜ。 ……まぁ、嫌いじゃないけどな」
最初の方では呆れ気味に言ってたガディも最後はニヤッと笑顔を向けてくる。
僕は今、かろうじて残った芝生の上に人間の姿になったガディや四体の竜と輪になって座り込んでいる。
「それでさ、あのモンスターは何だったの? 面倒なヤツらとか言ってたみたいだし。それに、力を貸してくれって言ってたけど……どゆこと?」
「そうだったな」っと言って僕の正面で胡座をかいているガディは軽く目を瞑り、その後で真剣な眼差しを向けて語ってくれた内容はこうだった。
グラン・エルディンという国は代々竜王が治めていたらしく、ガディで五代目なのだとか。
年中穏やかな気候で良質な土地は作物を豊富に実らせ、酪農なども盛んで食に困ること無いらしい。
火山地帯では武器や鎧に適した鉱石や世界のエネルギー源の魔法鉱石の採掘が盛んで、水源地帯では魚介類が多く取れるために漁師が多いと。
国民は皆んな働き者で明るく、竜王の元で穏やかに暮らしていたみたいだ。
とは言えグラン・エルディンは完全に平和という訳では無いらしい。その豊富な資源や広大な土地を狙って征服を企む者も多いとか。
魔王軍や獣人軍や邪神軍と、戦いの歴史は長く初代竜王の頃から続いているらしい。
ただ、ここ10年は獣人軍の勢いが増してきていて、度々攻め込んできていると。
もちろん、この国にも軍隊はあるみたいだけど、強力になってきている獣人軍相手に大怪我をする人や亡くなってしまう人も少なくないみたいだ。
「勢いを増してるのは何も獣人軍だけじゃないんだ。獣人軍に対抗するように魔王軍も邪神軍も新たな力を手に入れているらしくてな」
そう言ってガディは忌々しい表情を浮かべ、そして再び声を出した。
「それまでは俺たちの中の誰か一人だけで撃退していたんだ。だが、10年前からゴバオンが現れやがってな。悔しいが一対一では対象出来なくなってきちまったんだ」
ゴバオンとはさっきの大型モンスターの事らしい。
すると、それまで黙っていた四人の女性のひとりが声を出した。僕の左隣に座るサラマンダーの女性だ。
「最初のゴバオンは何とか私とガディ兄とで倒したのよ。だけど、次に現れたゴバオンは最初のよりも強くなっていたの」
その後を、僕の右横のワイバーンの女性が引き取る様に言ってくる。
「私たちも数で対象した。だが、近頃は退けるくらいしかできなくなってきた。悔しい」
さらにガディの右横のヒュドラが声を出す。
「それまでは一体で現れてたけど、二年前に現れたときは三体だったわ。私達も五人でやっと退けたのだけどね」
最後にリヴァイアサンが言ってくる。
「貴方とガディがこの場を去ってすぐの事だったわぁ、突然八体のゴバオンが現れたよぉ」
その激戦の最中に僕達が戻って来たというわけだ。一体でも大変なのに一気に八体も現れてしまえば苦戦するのも仕方ないだろうと思えるし。
「だけど……」っと、再びサラマンダーの女性が……
「ナナマラナよ、呼びにくかったらナナナで構わない」
後から知った事だけど、ここにいる五人は兄妹らしく一番上がリヴァイアサンのシーシーラーシさんで、二番目がヒュドラのキリナキュリナさん。
三番目がワイバーンのサンナサンナァさんで四番目が竜王のカルバルディアス。
そして五番目のナナマラナさん。
……何でこんなに呼びにくいんだろうと思う。
そんなナナナさんは何故か厳しい視線を僕に向けて言ってくる。
「今まではゴバオンの対応策が見つからないままだった。そんな時『導きの剣』が抜かれた反応があったから下界を見たら貴方がいたわ」
ちなみに、シーラさん(リヴァイアサン)の持つ水の鏡で僕の様子を見ていたのだとか。
下の国もそうだけど、どうやらこの異世界では僕のプライバシーは皆無のようだ。
それでもナナナさんの言葉は続く。
「最初はいつものなんちゃって勇者かと思ったけど、まさかあんな剣で私達を傷つけるなんて思わなかった」
っと、少々悔しそうに軽く俯いた……まま、ボソッと声を出した。
「さっきはありがとう、助かったわ」
どさくさ紛れ感満載だったけど、そう言って頬を染めた後にそっぽを向くナナナさん。ツンデレ要素があるのだろうか?
その様子を見ていたガディがニヤリと笑って声を出す。
「なんだぁナナナ、お前の方から礼を言うなんて珍しいじゃないか」
その言葉にナナナさんはツンと顔を上げて言い返す。
「ふんっ! きちんと礼の言える妹を褒め称えるといいわ」
ツンデレ濃いめだった。
それでもまぁ、無事にゴバオンを倒せたんだからいいんじゃないのかなと。まぁ、かなり風景が変わったのは致し方ないのかなと思うけれど。
「気にする必要は無いわ、後で整備しておくから」
っと、キリキュリさん(ヒュドラ)。
下の国で言うところの『世界の屋根』は彼女の領地だからすぐに対応出来るらしい。
すると、ガディが表情を引き締めて胡座のまま姿勢を伸ばす。そして真剣な眼差しを僕に向けて言ってきた。
「これからの戦いは激戦になってくるだろう。俺はできる限り国の者を傷つけたり死なせたりしたくない。だからカイト、お前の力を貸してくれ」
その力の籠った言葉に、眼差しに、抗う事など出来なかった。いや、最初から抗うつもりなんてありもしない。
下の王様は自らの欲望の為に僕を利用しているのは知っていた。僕にモンスターを倒させ隣国に責めいりやすくしてたのも知っていた。
さらに、バランさん達は山脈の途中から僕だけに戦わせるようになった。多分、寒そうにしていたのは演技も入っていたと思うし。
それに、勇者なんて言われてたけ元々が生贄の僕なもんだから
よくよく考えてみても酷いところに召喚されたもんだと言わざるを得ない。
なのにこの人達は……
そうして僕は一旦俯いて目を瞑り、ゆっくりと顔を上げて円形に座る竜達を見回す。そして、ガディに視線を固定して声を出す。
「僕で良かったら、お願いします」
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