#77 自主性モンスターの本質




 俺の部屋でベッドを背もたれにして並んで座り、話し始めた。



「今日は柏木アカネやアクア先輩に絡まれてるところ助けてくれて、ありがとうございました」


「それくらいいつものことじゃない。気にしなくていいわよ?」


「いえ、今まで何度も助けて貰ってましたけど、今回はマジで精神的に追い詰められてたからホント助かりました」


「やっぱりそうだったのね。泣きそうな顔してるんだもん。マゴイチのあんな顔見たの初めてだったから、只事じゃないと思って直ぐに避難させたのよ。でも、助けることが出来てホント良かったわ」うふふ


 アリサ先輩はそう言って微笑み、俺の手を取って自分の膝に乗せると手を重ねた。



「それで、ずっと聞きたかったことがあるんです」


「うん?」


「俺、一度告白断ってるから聞きづらくて、でも今はもう恋人だし聞いておこうと思って」


「うん、何でも聞いて頂戴」


「入学式の日に告白してくれた時、一目惚れだって言ってたじゃないですか。 それで俺が断ったのに、今までずっと俺のこと好きで居てくれたわけですよね? 一目惚れってそんなに我慢強く好きでいられるのかな?って不思議で」


「そうね・・・」


「疑ってるとかそういうのじゃないんですけど、一目惚れって結局は容姿だけでしょ?本当に好かれてるのか不安というか、俺にも他に何か無いのかな?って疑問というか」


「うーん、言われてみればそうよね。私だってマゴイチと同じように自分の容姿のせいで振り回されてきたから、そう思う気持ちは分かるつもりよ。 でも正直に言うと、ずっと夢中になって追いかけて来たから、マゴイチのドコが好きとかなんでこんなに夢中になってるのか、考えたこと無かったわね」


「やっぱりそうでしたか・・・そんな気がしてましたけど」


「だけど、今、言われてから改めて考えてみると、確かに最初は一目惚れね。 でも、顔に惚れたと言うよりも、眼つきかしら?」


「眼つきですか?」


「うん。 初めて会った入学式の校門で生意気そうな新入生の男の子に注意したら、ふてくされながら自転車降りて、「ナニこの子?」ってイラっとしたんだけど、真っすぐ目を見て謝ってくれたでしょ?その時の眼がニラまれた訳でも無いのになんていうか「文句あんのか、殺すぞ!」とでも言ってる様な殺気じみて見えたのよね。 それで「この子は間違いなく強い!こんな子が年下でしかもウチの学校に!?」って衝撃で、本能的に「こんな男性は他に居ない!私にはこの男しか考えられないわ!」って、直観みたいなものかしら?」


「マジっすか・・・確かに、あの時は内心でブーブー文句垂れながら頭下げましたけど、殺そうとまでは思いませんよ」


「うふふ、そうね。今ならあれは逆で、マゴイチなりの謝罪の気持ちが籠ってたって分かるわよ。マゴイチ、生意気ばかり言ってても根は優しいもん。反省の気持ちがあるからこそ、目を見て真剣に謝ろうとしてくれたのよね」


「まぁ、とーちゃんとかーちゃんの躾の賜物っすね」


「それでね、最初は一目惚れだったけど、次は、執着ね。 だって、私の告白断るなんて思わなかったの。「なんでこの子断るの!?やっぱり生意気ね!」って頭に血が昇ってたわね」


「なるほど・・・道理で告白の後もしつこく追いかけまわしてきた訳っすね」


「しょうがないじゃない、逃げるんだもん。 逃げられたら追いかけるのが本能よ、マゴイチだってそうでしょ?」


「いや、俺にはそんな本能無いっす」


「あらそうなの?マゴイチもまだまだね」


「それで他には?」


「そうね、後はメッセージのやり取りとかお喋りとかしてる内に、マゴイチのことをちょっとづつ知るようになって、見た目はイケメンなのに中身が全然そんな感じじゃないことが分かって来て、親近感を感じる様になったのかな。もっとお喋りしたい、もっと色々知りたいって夢中になってて、その頃には楽しくて仕方なかったわね」


「俺に振られたことで頭に来たのに、それは引き摺らなかったんです?」


「諦めようとかそういう気は全く無かったわね。むしろ燃えたわよ。絶対に恋人にしてみせるわよ!って、マゴイチに恋人になることを認めさせるのは、最初から規定事項だったわね」


「そこまで思い込めるのも凄いっすね」


「思い込みじゃないわよ?結果を決めてたのよ。 どんな結果になるか決めずにダラダラ進んでも望んだ通りにはならないこともあるでしょ?どうでも良い事ならそれでも良いけど、マゴイチとのことは絶対に譲れなかったからね」


「・・・・」


 アリサ先輩の強さの本質は、コレなんじゃないかと思う。

 体格的には平均的な女子高生と変わらないのに、長年独学で鍛錬を積み、格闘すれば男の俺よりも強く、指定校推薦を獲得しようと生徒会長に立候補して、その役目を全うし誰にも文句を言わせずに指定校推薦の内定を勝ち取り、そして、俺を恋人にすると決めれば、何よりも俺を優先して自分の人生を全て捧げるとまで言ってしまう、この決意とそれを実現させるだけの行動力と持続力、と言うか忍耐力。正しく自主性モンスターの本質、ここに有りだ。


「あとは、そうね、一緒に居る時間が凄く居心地が良くて、楽しくて、何度も「こんな時間をこの先もずっと過ごしたい」って思ったの。 でも、私が高校卒業したら今までみたいには一緒に居る時間も減っちゃうでしょ?だから卒業するまでには絶対に決めるつもりだったわ。 でも昨日までは、まさか今日そうなるとは考えてなかったけど、元カノの子たちと話してて、「この子たちはみんなまだマゴイチのことが忘れられないのね」って思ったら、急に不安になって、焦っちゃったのよね」


「アリサちゃんでも焦るんですか? いつも堂々と構えてる様に見えるんですけど」


「そうよ、焦ったわよ。 マゴイチの魅力を理解してるのは私だけじゃない。元カノたちはマゴイチの魅力が分かってるから諦められないんだって思ったら、また私以外の誰かを選ぶんじゃないかって」


「そうだったんですね・・・でも、もうフラフラはしないんで、大丈夫っす」


「うふふ、もうそんなこと心配してないわよ?私がフラフラなんてさせないんだから」


「色々話してくれて、ありがとうございます。 なんかスッキリしました。それにちょっぴり自信が付いたかも。 何せ西高のヒーロー優木アリサにそこまで認められたんだから、いつまでもふがいないままじゃバチ当たりそうだし」


「スッキリ出来たのなら良かったわ」うふふ


「しかし、今にして思えば、一目惚れしたからってその日のウチに告白しちゃうのって、凄いっすよね。しかもあれが人生で初めての告白なんすよね?俺も今日人生で初めての告白したけど、告白出来るまで滅茶苦茶グズってましたから」


「私、結構セッカチだからね!」


「セッカチの一言で片付いちゃうんだ・・・あ、そろそろ送って行きます。遅くまですみませんでした」



 俺がそう言うと、アリサ先輩は笑顔のまま、さも当たり前の様に制服の上に俺のジャージを羽織った。完全に借りパクする気だ。

 


 外は既に暗くなってて、いつもの様に自転車に乗ってアリサ先輩の家まで送って行った。


 アリサ先輩はガレージに自分の自転車を停めると、「マゴイチ待って!」と言って自転車に乗っている俺の首を引っ張るように下げてから、首に両手を回して抱き着いてきた。



「大好きよ、マゴイチ」


 アリサ先輩は俺の耳元でそう囁いてから、俺の左頬にチュっとキスした。



 ビックリしてアリサ先輩の顔を見つめると、目を瞑ってタコ顔のキス待ちフェイス・・・


 俺はアリサ先輩の腰に手を回して恐る恐るアリサ先輩の唇に自分の唇を近づけ、一瞬だけ触れさせ直ぐに離すと、アリサ先輩は過去に見たことが無い程のダラしない顔で「ぐふふふ」と不敵に笑い、口からヨダレを垂らした。


 滅茶苦茶恥ずかしくなった俺は、「じゃ!帰ります! 明日の学校祭はゆっくりしましょうね!」と言って逃げる様にペダルを漕いだ。


 チラリと後ろを振り返ると、いつも送っている時と同じように、暗闇の中で家の灯りに照らされたアリサ先輩はその場に立ったまま俺を見送ってくれていた。



 帰り道、「はじめてのチュウ」を口ずさみながら、のんびりとペダルを漕いで帰った。




__________



 8部、終わり。

 次回9部スタート。










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