#75 負けない幼馴染
アフロの要らない一言は、普段からエンターテインメント的な演出に並々ならぬ拘りを見せているアリサ先輩の逆鱗に触れた。
「アフロ!誰も今すぐ結婚するなんて言ってないでしょ!そこは察しなさいよ!折角のドラマチックなシーンが台無しじゃないの!ココでハグからのキスでお姫様だっこで退場すれば大盛り上がりだったのに!!!」
そ、そんなことまで企ててたのかよ・・・
このギャラリーの中で流石にそれはイヤすぎる。
「え?そうなの?てっきり直ぐの話かと思ったから、どうやって結婚するんだろ?って不思議だったんだよね。 っていうか、結婚まで待つんならそれまでに別れるパターンもあるんじゃね?」
「アァァァフゥゥゥロォォォ!!!」
怒髪天のアリサ先輩は、腕相撲では見せなかった怒りMAXの表情でアフロを捕まえようと追いかけるが、アフロは家庭科室の中を縦横無尽に逃げ回った。
「待て!待てアリサ!勝負しよう!勝負!」
「ナニ言ってんのバカアフロ!今日はもう許さないから!」
「腕相撲しよ!ウチだけ参加してないし!ウチと勝負しよ!そのクッキー賭けて!」
王者であるアリサ先輩に挑むということは、かなり不利な勝負であることはバカなアフロでも分かっているハズだ。
そこを敢えて挑むからには、アフロにはナニか策があるのかもしれない。
心技体全て備わった絶対的王者のアリサ先輩に対して、アフロには予測が付かないトリッキーさを感じる。
なるほど。
ぶっちゃけ、この二人の対決には興味あるぞ。
「段女(ダンジョン)と西高で勝負しよ!ウチが段女の代表でアリサが西高の代表!」
学校同士の代表対決と聞いて、アリサ先輩は動きを止めた。
「面白いじゃない。 受けて立つわ!掛かって来なさい!バカアフロ!」
「おっけー。 あ、ちょっと準備するから待ってね」
アフロはそう言うと、料理部の部員から黒の油性マジックを借り、アンナちゃんからも手鏡を借りて何やら自分の顔に細工を始めた。
1~2分でアフロの準備が終わると、レフリー兼司会者の部長がアナウンスを始める。
「それではエキシビジョンマッチを始めます!」
「青コ~ナ~、段田~女子~がくえ~んだいひょ~、セクシ~アフ~ロ~!」
セクシーアフロって、超ダサいリングネームだな。流石アフロだ。
アフロは選手紹介されても、瞬きもせずに澄ました表情のまま一言も発せずに中央の料理机の前に立った。
油性マジックで顔に細工していたハズなのだが、今の所その形跡は見られない。
「赤コ~ナ~、段田~に~し~こ~こ~だいひょ~、お~じゃ!ユ~キ~アリ~サ~!」
アリサ先輩は選手紹介をされると、ジャージのファスナーを降ろしてバサっと脱いで、机の上で丁寧に畳んでから俺に向かって「マゴイチ、直ぐに終わらせるから預かってて頂戴」と言って渡して来た。
「いや、これ思いっきり『西尾』って名札ついてるんすけど」
「・・・」
アリサ先輩は俺のツッコミが聞こえているはずなのに、まるで試合に集中しているかの
二人が調理机を挟んで向かい合う。
こうして、向き合う二人の表情を見ていると、夏休みに俺んちで二人の陰毛を見たことが遠い昔の出来事の様に思えて、懐かしさすら感じる。
アフロの後ろにはアンナちゃんとアズサさんがセコンドとして付いた。
アリサ先輩のセコンドは超合体モードの俺とテンザンだ。
ダンジョン3馬鹿トリオ VS 西高最狂コンビ
いつも仲良く遊んでいた俺たちだが、この時ばかりは仲良しグループのままでは居られない。
『私たちにだって譲れないプライドってものがあるんだ』
メンバーからそんな決意が聞こえてきそうな表情が見て取れる。
「両者、右手を組んで」
レフリーの部長が声を掛けると、二人はイスに座り右腕を組む。
部長が両手でその組んだ手を包み込み、二人に対して「準備OK?」とアイコンタクトで確認する。
二人が無言で頷くと、部長が声を張った。
「レディ・・・ゴー!」
静かなスタートだった。
アリサ先輩もアフロも冷静な表情のまま右腕に力を込めている様だ。
意外な展開に誰もが声を出さずに息を呑む。
10秒程経ち、このまま膠着状態が続くと思われたが、先に動いたのはアフロだった。
アフロがゆっくりと
だが、閉じたはずなのに目は開いたままだ。
瞼を閉じたのに閉じていない。
ナニを言っているのか分からないだろうが、要は瞼の上にマジックで目玉を書いていたという訳だ。
もっとトリッキーな細工を期待していたのに、インパクトとしては弱い。
俺は少しばかりガッカリしたのだが、アリサ先輩は違ったようだ。
大きく崩れることは無かったが、眉がピクピク動いて2つの鼻孔が思いっきり拡がっている。
これは必死に笑うのを耐えているのだろう。
アクア先輩の驚異的パワーですらアリサ先輩の眉1つ動かすことが出来なかったというのに、やはりアフロは只者じゃないということだろうか?それとも、アリサ先輩の笑いの沸点が低すぎただけだというのだろうか?
俺が脳内でそんなことを分析している内に、アリサ先輩は落ち着きを取り戻し始めた。
なんとか耐えきったアリサ先輩は、再び澄ました表情でアフロの出方を様子見するかのように動かなくなった。
だがしかし、その瞬間を待っていたかの様に、アフロが再び動いた。
瞼を閉じたまま口の両サイドの口角を吊り上げ、歯を見せるようにニカっと笑った。
それを見た瞬間、アリサ先輩と俺は同時に噴き出した。
アフロの前歯2本が黒かったのだ。
ブサイクさでは定評のあるアフロの天然アフロヘア&紛い物の目玉&前歯2本黒くした組み合わせは、まるで『大事な前歯を2本も失っているのに負けずに明るく健気に生きているかの様な陽気でエキゾチックな笑顔』で、その笑顔に俺たち西高最狂コンビの腹筋は簡単に崩壊した。
当然、アフロはその隙を見逃さなかった。
「よいしょっと」
「勝者!セクシーアフロ!」
「ヒィ!ヒィ! なんで、そんなに、えがお、なの、ヒィ!」
「うぇ~い♪ ウチの勝ち~♪ アンアン!アズサ!踊るよ!」
腹筋崩壊でお腹を押さえて笑い苦しむ俺たち西高最狂コンビとは対照的に、楽しそうに変なおじさんのダンスを踊るダンジョン3馬鹿トリオ。
因みに、俺と超合体しているテンザンは、アフロの歯抜けヅラに邪悪な何かを感じ取ったのか、「ガルゥゥ」と威嚇していた。
こうして大盛り上がりの中、西高学校祭1日目が終わった。
置いてけぼりのギャラリーや料理部の面々を他所に、俺たちの笑い声はいつまでも家庭科室に響き渡っていた。
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今年1年、ご贔屓にして頂きまして、ありがとうございました。
来年も、どうぞよろしくお願い致します。
良いお年を、お過ごし下さい。
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