#40 初代元カノの憂鬱



 そして、アンナちゃんからのお悩み相談は「学校に友達居なくてツマラナイから、2学期が憂鬱」というもの。


「アッコ先輩居るけど学年違うからほとんど校内じゃ顔会わせないし、アンナ、教室だと陰キャで通してるから誰も近寄って来ないし」


「うーん・・・」


 だったら自分から話しかければ?とか、陰キャ同士で友達作れば?とか色々思うけど、多分アンナちゃんにとっての学校の教室って、小6の時に二股のことでみんなから責められた辛い思い出があって、普段通りに振舞ったり自分から積極的に動くのが怖いエリアなんだろうな。


「教室でクラスメイトと話すの、怖い?」


「正直言って、怖いかな」


「俺も、高校入学した頃はちょっと怖かったね。 廊下とか教室とかドコ行ってもみんな俺から距離取る様に振舞われたし、思い切ってこっちから超フレンドリーに挨拶したらトラウマレベルでスルーされてさ、アレはマジで焦ったね。俺ってばい菌扱いされてるのか?とすら思ったし」


「でも今は友達とか居て普通に過ごせてるんでしょ?」


「そうだね。 隣の席の子と頑張って話せる様になって、そこから広がる様にクラスメイトも普通に接してくれるようになったね」


「隣の子かぁ。どんな話から始めたの?」


「名前聞いて出身中学聞いて、そしたらその子が元北中だって教えてくれて、それで他の元北中の子とかも会話に加わって来て俺が北中で暴れた事件の話になって、盛り上がったから「スマホの連絡先教えて」って言ったら、今度はクラスのみんなが集まって来て、みんなと連絡先交換することになって、それからは普通だね」


「それって、マゴイチくんだからこその展開じゃん。マゴイチくんってイケメンのくせに『歩くネタの宝庫』だからみんなが興味津々になってるわけだし」


 いや、『歩くネタの宝庫』と言えば、俺よりも優木会長のが上をいくだろう。


「でも、別にクラスじゅうのみんなと仲良くなる必要は無いんでしょ? 隣の席の子一人だけでも良いから仲良くなったら?」


「そうだね・・・ちょっと頑張ってみようかな」


「うん。それと、部活にも入ったら? 毎日ある部活だと面倒だけど、文化系は週イチとか週ニとかの緩い部活もあるでしょ?クラスに拘らないでも部活で友達作るのも良いと思うし」


「部活かぁ。でもマゴイチくんの料理部はちょっと面白そうだよね」


「うん、面白いよ。料理してお喋りしながら試食する活動がメインだから、みんなお喋り好きで面白いし」


「ウチの学校もそういう部活あるかな。放課後少しだけ見学して回ろっかな」


「そうしなよ」


「うん、わかった。 明日から少しづつ頑張ってみるね。話聞いてくれてありがとね」


「こちらこそ、色々相談に乗ってくれてありがとう」



 長いこと硬いベンチに座って喋ってて、お尻が痛くなってきたからそろそろ歩こうかと言うことで、二人が通っていた近所の小学校まで散歩することにした。



 テンザンとタナハシをそれぞれリードに繋げて、公園を出てのんびり歩いていると、アンナちゃんが思い出したかのように話し始めた。



「そういえば1つ気になったんだけど、中3の時に付き合ってた彼女が元北中でアズサって子だって言ってたでしょ? その子の苗字って戸田?」


「そうだけど、知ってるの? あ、そういえばアズサさんって西高落ちてダンジョンに行ったとか聞いたな」


「多分それだね、同じクラスに戸田アズサって子居るよ」


「マジか。同じクラスとはまた何と言うか・・・。どんな感じにしてる?」


「うーん、至って普通かな。 派手な感じは全然無いし、アンナみたいに陰キャって感じでも無いし」


「話したことはあるの?」


「全く無いよ。 そもそもアンナ、話せる相手全然居ないし」


「それはまたごめん。 にしても、まだチビデブブサイクと付き合ってるのかなぁ」


「流石にそこまでは分かんない」


「まぁそうだよね」



 アズサさんの近況が少しだけ気にはなったが、別に今のアンナちゃんとの様に仲直りしたいとも思わないし、アズサさんに関してこれ以上は質問するのは止めた。




 小学校では、俺がテンザンとタナハシ相手に走り回って遊んであげて、アンナちゃんは遊具に座ってその様子をゲラゲラ笑いながら眺めて居た。

 30分程走り回ると、俺の方がバテバテになってしまいアンナちゃんの所に戻ると、いつの間にか買ってきていたスポーツドリンクをアンナちゃんが渡してくれたので、遠慮なくゴクゴク頂いて休憩した。



 しばらく休むと汗が引いて来たので、「お昼過ぎてるし、そろそろ帰ろうか」とアンナちゃんを自宅まで送って行くことにして、小学校を出て再び二匹と二人でのんびり歩いた。


 アンナちゃんは今日の俺との相談事や公園や小学校でのテンザン達と遊んだことで色々思うことが有った様で、帰り道も沢山話してくれた。



「小学校の頃、周りからの目とか気にしないでツマラナイ見栄も張らずに、今みたいに本音でマゴイチくんと話せば良かった。そうすれば、マゴイチくんともっと仲良くなれて、もしかしたら今でも恋人同士だったかもしれないし」


「それは俺も同意かなぁ。 俺も格好付けてクール気取らずに本音出してれば、今頃俺も童貞じゃなかったかもなぁ」


「また!そういうところがデリカシーがないの!マゴイチくんは奥手になるか本音さらけ過ぎるかで極端過ぎるの!あと胸見過ぎ!そういう視線全部相手気付くからね!」


「なるほど・・・」


 確かに、仲直りして以降のアンナちゃんに対しては本音オープンにしてたけど、今日は特に普段ならアフロにしか話さない様なシモネタも沢山話してたな。 アンナちゃんから見れば、普段と今日とでギャップを大きく感じるのも無理ないか。

 あと、おっぱいへの視線は改善無理だな。そういうさがだし。


「でも、今日マゴイチくんと二人で遊んで、沢山喋って話聞いたら、なんか昔のアンナのこと思い出した。 あの頃ことずっと自分で否定して自己嫌悪して来たけど、今のアホっぽく振舞ってるマゴイチくん見てると、あの頃のアンナがポジティブだった所だけはそう悪く無いかもって思えたかな。 また調子にのって天狗にならないくらいには少し積極的になって自分を出してみたいって思えたよ」


「前向きになれたのなら良かったよ。頑張ってね、応援してる」


「うん、ありがと。マゴイチくんも料理部頑張ってね、アンナも応援してるし」


「あいあいさ」


「あ、それと、学校始まってもたまに一緒に散歩しようね。テンザンが遊んでくれてタナハシ大喜びしてるし」


「おっけー」




 アンナちゃんのお家に着いて「じゃあまたね~」と別れると、アンナちゃんは俺たちが見えなくなるまでニコニコ笑顔で手を振ってくれていた。

 俺とテンザンは、時折振り返りアンナちゃんに向かって手を振り返しながら歩いた。


 しばらくすると、背中から聞こえるタナハシの寂しそうな遠吠えがいつまでも耳に残っていた。






 ______________



 4部終わり。

 次回、5部スタート。




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