#13 癒され、牙をもがれたイケメン
料理部での活動を本格的に開始すると、料理部のゆるい雰囲気は俺の荒んでいた心を温かく包み込んでくれた。
元カノ達の裏切りや優木会長への敗北、更には諏訪先生の教師の立場を忘れた熱い視線に、他のクラスの女子生徒達からのメモ攻撃や、アフロの容赦無い金的攻撃などが、如何に俺の心をささくれさせ、無意識にストレスという名のダメージを蓄積させていたかがよく分かった。
人はこうやって休息することも必要なんだな。
戦いばかりの日々だと、10代という限りある青春の時間を、無駄に浪費してしまうんだな。
もしかしたら、俺を裏切っていった元カノたちも、青春の無駄使いをしないようにと自由に生きただけなのかもしれないな。
料理部への入部、そしてアクア先輩との出会いは、俺にこのような心境の変化をもたらした。
そんなゆるゆる部活動を続けていたが6月も後半になると流石西高、自主性を重んじる波が料理部にも押し寄せて来た。
「そろそろ1年生も自分たちでメニューを考えて、レシピ調べるところから調理まで自分たちで計画立ててやってみようか」(部長)
「え?俺まだやっとの皮剥き出来るレベルの仮性包茎チェリーだというのに・・・・アクア先輩たしゅけてぇ~」(俺)
「マゴイチ君ならきっとだいじょうぶだよ! 今まで練習してきた皮剥きを活かせばきっとだいじょうぶだからね?」(アクア)
両手に拳を作って「がんばれ!」のポーズで励ましてくれるアクア先輩。名前の通り正しく女神だ。
「アクア先輩・・・分かったよ!俺、アクア先輩の期待に応えられる様にがんばるっす!立派に皮剥いてズル剥けになって、立派な料理部部員になるっす!」(俺)
「わたしも応援してるからね!がんばろーね!」(アクア)
「マゴイチ君、すっかりアクア先輩に飼いならされちゃってるね」(笹山)
「うん。中学のころはゴリゴリ体育会系であんなに尖がってたのに、牙抜かれて狂犬からすっかりトイプードル並みの室内犬だね。死ぬほど似合ってなかったエプロン姿も、最近違和感なくなっちゃったし」(長山)
そして、メニューやレシピについても、アクア先輩に相談した。
「いざ、好きな物作れって言われると、何を作れば良いのやら・・・」
「何でも良いんだよぉ? 作ってみたいものあればレシピとか調べてみて、それから決めればいーんだしね?」
「そうっすね・・・俺、ビーフストロガノフとかジャンバラヤとかパタタス・ブラバスとか作ってみたいっす!」
「あのね、初めてでそれはちょっとハードル高すぎると思うよ? 名前がカッコイイとか思って選んでるでしょ? ハンバーグとかカレーとかもっと簡単でメジャーなのにしたらどーかな?」
「メジャーな料理っすか・・・ウチで一番メジャーなのは、ご飯に玉子とネギとワサビと醤油かけたヤツっすね。アフロなんてそれだけで3杯は御代わりするっすよ」
「それは料理じゃないよ?っていうかアフロってだぁれ?」
「アフロは、ダンジョンに生息するセクシーブスっす」
アフロの事はどうでもいいのでそれくらいにして、俺はスマホを使ってハンバーグの事を調べた。
そして、コレだ!というのを見つけたので、再びアクア先輩に相談する。
「アクア先輩!俺、このハンバーグ、作ってみたいっす!」
「うん? ロコモコ風ハンバーグ?」
「そうっす!なんか名前が面白くないっすか?」
「マゴイチ君・・・やっぱり名前で決めちゃうんだね」
「男なら即断即決っす!俺、ロコモコ風ハンバーグ作ったら是非アクア先輩に食べて欲しいっす!」
「うん、楽しみにしてるね。材料の用意とかで分からないことがあったら遠慮なく言ってね。私に出来る事あれば協力するからね」
ココで俺はピコーン!と閃いた。
「アクア先輩!俺一人だとスーパーで材料選ぶのに迷いそうだから、一緒に買い出しに行ってくれませんか?」
「うーん、そうだねー、お肉だけでも色々種類あるし迷っちゃうよね。 よし、じゃぁ今度の週末土曜日に一緒に買い出しにいこっか?」
「はい!ありがとーございマ~ス!」
ふふふ。
アクア先輩ともっとお近づきになりたくて誘ってみたが、上手く乗ってくれたな。
コレはデートであってデートでは無い。
部活動の一環としての買い出しだ。
だけど、買い出しだけで済むわけないよな?
だからデートであってデートでは無い。
何言ってるか意味不明だが、ちょっと格好良く茅場さん風に言ってみたかっただけなんだ。
でも、休日に女の子と二人でお出かけなんて、何年ぶりだろうな。
アフロは女の子にカウントしてないから、中1以来じゃないか?
アクア先輩と週末の約束を取り付けると、俺はウキウキ気分が隠し切れずに教室でもちょっぴり浮かれていた。
「マゴイチ君、なんか良いことあったの? なんだか嬉しそうな顔してるよ?」
「そうかなぁ?でもそうかも。中学の時と違って、最近は充実した毎日だからかもね。ぐふふふ」
「そういえばマゴイチ君って最近雰囲気が優しくなったよね。5月の頃まではお喋りしてても隙がないイケメンって感じで、私も緊張して上手く話せなくてすぐ嚙んじゃってたけど、今のマゴイチ君だと凄く話しやすいよ」
そう言ってくれたのは、このクラスで最初にお喋りするようになった隣の席の沼田さんだ。
「あの頃は、優木会長との噂とか下駄箱のメモ攻撃とか色々あって俺もギスギスしてたかも。 でも料理部入ったら、そういうのもすっかり気にならなくなっちゃったなぁ」
「へー、料理部ってそんなに楽しいんだ」
「うん、めっちゃ楽しいよ。みんなぽっちゃりしてて優しい人ばかりなんだよね」
「そうなんだぁ。良かったね」
そんな話をしていると、最近では1年8組の教室に来てもすっかり誰も驚かなくなった優木会長がやってきた。
「マゴイチ!今度の土曜日空いてる?」
「今度の土曜は無理ですよ。俺、大事な用事があるんで」
「どうしてよ!折角チケット手に入れたからマゴイチ誘って試合見に行こうと思ったのに!」
「試合ってなんのですか?」
「KKPよ!プ・ロ・レ・ス!KKPが隣の市の市民体育館に来るのよ!」
KKPというのはプロレス団体の名前で、優木会長が言うには、推しのイケメンレスラーがそのKKP所属らしくて、自室にポスターを貼ってるくらい好きなんだとか。
ぶっちゃけプロレスも興味をそそられるが、今の俺にはアクア先輩とのお出かけのが最重要ミッションだ。 優木会長の折角のお誘いだが、悪いけど他を当たって貰おう。
「で、どうかしら?プロレス行く?一緒に行ってくれるならKKPのTシャツ用意するよ!二人でお揃いのTシャツで行きたいのよ!」
「プロレスは凄く興味ありますけど、お揃いTシャツはノーセンキューっす。それに土曜は本当に外せない用事なんですよ。すみませんが、別の友達でも誘って下さい」
「仕方ないわね。その分は今度埋め合わせしてもらうわよ」
「まぁ暇でしたら。っていうか、優木会長って受験生ですよね?なんか全力で遊んでませんか?」
「ふふふふふ、なんの為に生徒会長になったと思ってるの? 勿論推薦よ!地元の私大に指定校推薦で既にツーカウントよ!」
めっちゃドヤ顔。
でも例えが分かりにくいな。プロレスのスリーカウントの既にツーカウント目って言いたいのか。
「へー」
流石自主性モンスター。
6月のこの時期に学校側と既に指定校推薦の密約を取り付けてるってわけか。
でも、ツーカウントだと、お約束でロープに逃げるよな。
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