#04 イケメン中3時代



 中学3年の夏になると部活は引退した。そして高校受験に備えて学習塾に通い始めた。

 塾では、志望高校と学力でその生徒の学習内容が決められており、更に同じ志望校や学力の近い生徒2~3人でグループが分けられ、それぞれのグループに一人の先生が付く形で授業が行われていた。俺は、北中に通う女子生徒とペアを組む形で授業を受けていた。


 そのペアになった子の名前は『アズサさん』

 アズサさんは、派手でも地味でも無く、どちらかというと真面目そうな雰囲気だが、スタイルは若干ふくよかさがありつつも胸は豊満で、顔はとても整っており、同じ中学3年でもどこか包容力を感じるような可愛い女の子だった。 性格に関しては授業中の様子を見る限りは、積極的に質問する方では無いけど、相手から話しかけられると笑顔で応対してくれるタイプで、俺も数学や英語に関してアズサさんに質問したり相談したりしてて、その内にアズサさんの方からもよく俺に勉強のことで相談してくれるようになっていた。

 そのアズサさんの方から「西尾君と勉強していると私ももっと頑張ろうって気持ちになれるの。一緒の高校に入ってこれからもずっと仲良くしたいです。私を西尾君の彼女にして下さい」と告白されて、迷うことなく即答でOKした。


 アズサさんとは学校が違うのでこの時期は塾のある日しか会うことは出来なかったが、お互い受験生だし志望校は同じ高校だったので、頑張って合格すれば高校からはずっと一緒に過せるだろうと、お互い励まし合って受験勉強に精を出した。

 とは言え、授業前の空き時間を塾の自習ルームで二人で勉強しながら過ごしたり、塾が終わった後はアズサさんの家まで送る途中でマックに寄ってお喋りしたりしていた。


 そんなアズサさんとの受験勉強中心の中々大変な日々を送っていたある日、塾がある平日に「たまにはサプライズで北中まで迎えに行って、一緒に塾に行くか」と少しでも二人での時間を過ごしたいと考え、放課後授業が終わると自転車に乗って北中へ向かった。


 北中の校門で堂々と待っていても目立ってしまうので、近所のタバコ屋の陰で隠れて校門からアズサさんが出てくるのを待っていた。

 出てくる人出て来る人、特に女子生徒からの視線を感じながら待っていると、漸くアズサさんが出て来た。知らない男子と手を繋ぎながら。


「学校でも手を繋いじゃうとか、どんだけイチャイチャアピールしたいんだよ!頭イカレてんな!」と浮気されていることよりも、そっちの事の方にビックリしてしまった。


 相手の男子を観察すると、身長はアズサさんよりも低く体重は俺よりも有りそうだった。つまりチビでデブだ。 顔に関しては、ニタァと笑った時に見える歯並びの悪さが印象的なブサイク顔だった。


 容姿に関して言えば、自意識過剰とかでは無く間違いなく俺のが勝っていると思った。

 ということは、性格か?それともテクニックか?

 そう思い至ると「俺は未だにキスすら経験が無いんだ・・・テクニックで負けるのは仕方ないじゃないか!」と漸く怒りが沸き上がり、その浮気相手の男子に向かって全力ダッシュで突進し、無言でドロップキックを喰らわせ、吹き飛んで尻餅付いてるソイツを蹴り続けた。勿論容赦なくトゥキックだ。


 他校の生徒(俺)が校門で一方的に大暴れしていたせいで当然大騒ぎになってしまい、校舎から駆けつけて来た職員5人に取り押さえられ、北中の校舎へ連行された。

 連行される際に、タバコ屋に自転車とカバンが置いたままなので、忘れずに回収するように職員にお願いをしておいた。

 アズサさんに関しては、俺が「アズサさんを迎えに来た」と主張した為、俺と一緒に連行された。 浮気相手の男子は、引きつけを起こすほど号泣していて、ブサイクな顔が更にブサイクになったまま放置されていた。



 連行された職員室では、散々お説教されたが「本当は浮気したアズサさんを蹴り飛ばしたかったが、女の子に暴力は振るえないから代わりに浮気相手のブサイク君を蹴り飛ばした」と嘘泣きしながら説明すると、「だからって男子相手でも暴力はいかんぞ!勿論、ブサイクだからって暴力を振るっても良い訳じゃないからな!」と言われ、(北中の先生でも浮気相手の男子はブサイクだって認めるんだ)と思うとクスっと笑えてしまい、嘘泣きがバレて更にお説教された。


 1時間もしない内に俺の通う西中から担任が迎えに来たが、俺が担任の顔を見た途端「今度の彼女にもまた浮気されたよぉ~うえぇ~ん」と再び嘘泣きで悲しみを訴えると、担任は大きく溜め息を吐いてから「帰るぞ」と一言だけ言って俺を回収した。

 帰りの途中、担任が中華料理屋に連れて行ってくれたので、腹が減っていた俺は中華そばの他に炒飯と餃子と春巻きと回鍋肉を遠慮なく注文すると、担任は再び大きな溜め息を吐いていた。


 因みにアズサさんは取り調べ中はずっとエグエグ泣いてて何言ってるのが全然聞き取れなくて、事情聴取していた職員からも「え?なに?なんて言ってるのかわからんぞ?」と何度も聞き返されていて、取り調べが全く進まず、俺が帰った後も居残りさせられていた。


 アズサさんはその日以降塾に来ることはなくなり、俺は一人でひたすら受験勉強に打ち込んだ。

 俺の方は志望校に無事合格し、後になって解ったことだが、アズサさんは予定通り同じ高校の入試を受験していたが落ちてしまい、私立の滑り止めに進学していた。

 また、北中の校門で俺が暴れた事件は北中では有名な話となっていて、「西中の狂犬が北中狩りにやってきた」だの「3年のブサイクが調子にのって西中にケンカ売って西中の狂犬が一人で仕返しに来た」だの色々な憶測が飛び交ったらしいが、今ではすっかり「西中には手を出すな」というのが北中での共通認識になっているそうだ。


 これらの北中情報は、後日高校に入学して同じクラスになった北中出身の近藤君が、俺がその西中の狂犬本人だと知ると色々教えてくれた。

 とりあえず俺からは、「狂犬ってのは大げさに噂が広まって付けられただけだし、暴力は滅多に振るわん。唯一彼女に浮気された時だけだ」と話し、アズサさんに浮気された件も事細かく説明した。


 近藤君は「なるほど。つまりマゴイチくんは被害者であり、あのブサイク間男とゆる股ビッチの自業自得と言う訳ですな!あいつら普段からウザかったんだよね。これは早速拡散せねば!」と言って、元北中ネットワークで拡散していた。


 因みに俺の方だが、北中で色々噂が流れても直接俺が何か言われている訳では無かったので特に被害はなかったが、やはり中3のこの年もバレンタインのチョコはゼロだった。


__________


ここまで勿体振る話でも無いので、一気に公開しました。

明日から1日1話になります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る