古き者 新しき者
【名も無き孤児院】地下研究施設にて。
「――――ここまでが、私たちの知っている情報と、対抗策です」
無数の筆跡痕が刻まれた古びた机に、真新しい資料が広げられていた。
それを広げ、解説をしているのはリーネであり、それを聞いているのはザインだった。ザインは一言も口を挟むことなく、長く続いたリーネの解説を黙って聞いていた。
「呆れたな」
そして全ての説明を聞き終えた後、ザインは小さく感想を漏らした。
「見当外れでしたか?」
「完成度に驚いている。【ノア】も万能では無い。よくここまで調べたな」
「時間がないとはいえ、間違えるわけにはいきませんでした。協力者もいましたから」
リーネは安心したように小さく息をついた。実際、ウル達が活動開始してから最も忙しくしているのは彼女だ。ウルやエシェルも彼女を手伝うために駆け回ったが、なかなかどうして休む暇もないほど忙しなかった。
「ラウターラ学園の禁書庫は大変だったわね。エシェルのおかげでたすかったけど。」
「もう二度としたくない……!何で私の入る書庫いっつも頭おかしいんだ……」
エシェルがブルブルとわななきはじめた。トラウマになったらしい。
「何かトラウマを発症しているが」
「エシェルは強い子だから大丈夫だ」
「それで、これ以上何の情報を望む」
ウルは少女の頭を撫でながらザインに向かって頷く。
「いくつかあるが、最優先は
「分かっているのでは?」
「確信がほしい」
「良いだろう」
ザインは部屋の奥の棚から、古びた紙を一枚取り出した。丸められ収納されたそれを机に広げると、ザイン以外の全員が息を飲む声が聞こえた。
そこに書かれたのは一枚の絵図だ。黄金色に輝いた、巨人に似た何か。翼を広げ、まさしく神々しく描かれたそれは、太陽神ゼウラディアの姿に他ならない。ただしそれは、神殿で描かれるような信仰心を促す畏敬の宗教画ではなかった。細かな部分に幾つもの文章が描き込まれ、検討が痕跡が無数に見られた。
「これは……」
食い入るように広げられた資料を見ていたリーネは不意に顔を上げた。ザインは彼女の不安を肯定するように頷いた。
「そうだ。
「……尋ねてなんなのですが、本当にそんな事が出来るのですか?」
「この世に存在する以上、壊れぬものは無い……一つは【魔断】だ」
リーネの問いに、ザインは即答した。
その言葉に聞き覚えの無い者はこの場にはいない。
なんだかんだと長い付き合いになった勇者ディズの剣技の名だ。
「アレが?」
「一切を断つ剣。
「そんなやべえ技だったのアレ……」
凄まじい剣技であるというのは実体験として重々承知していたが、想像以上に恐ろしい思想のもとで編み出されていたようだ。そう考えると神の断片である竜に対して有効だった理由も納得がいく。
「現状、ユーリという例外を除いて、なんとかその域に到達している者はディズのみだ。ウル、お前は、純粋に練度が足りん」
「そりゃ一欠片も否定できん」
「窮地による成長は往々にして起こりうるが、それに期待しては話にならん」
故に、とザインは自分の持ち出した資料を指さした。
「……これは」
「ゼウラディアの機能の一つにある安全機能、神や精霊の力すら問わず、あらゆる力を無効化し破壊する
彼が広げた資料の端に描かれた絵図、神官の制服を身に纏った男が祈りを捧げ、その周囲に真っ黒な闇が燃え上がるようにして纏わり付いていた。それを指さし、ザインは頷く。
「【天愚】、太陽神から掠めてるであろう魔王から、これを奪え。」
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「ううううううううらああああああああああああ!!!」
破砕音と崩壊音が連続して響き続ける。巨大人形の作られた臓腑の中で、ウルと魔王は戦いを続けている。火花が散り、幾つもの配管が弾け飛び、得体の知れない液体や蒸気が噴き出す。
ダヴィネが用意した鎧兜がなければ、視界すらも定かですらかなかったろう。混沌とした状況下で、ウルは槍を突き刺したブラックの姿を正確に捉えていた。
「【愚星】」
彼がウルの槍を引っつかんで、破壊しようとする動作もよく見えた。ウルは即座に槍を引き抜き、彼の身体を蹴り飛ばした。彼の身体は暗闇に包まれる。数秒後に再び闇の中からまた元気よく出てくることだろう。
死なない。だが、無尽蔵ではない。
ノアの情報、そしてザインの情報から導き出された結論だ。天愚による再生は無尽蔵ではない。そもそも
そして竜と同じように、急所も、心臓も存在しているはずだ。
ならば―――
「死ぬまで殺す!!!」
自分の内側でのたうつ力に呼びかける。
「【其は死生の流転謳う、白き姫華】」
竜殺しを握りしめる右腕を変異させる。漆黒の大槍を変異した右腕が飲み込む。憤怒の大罪竜との戦いで見せた。魔槍を再び顕現させる。同時に、
「【其は災禍に抗う、勇猛なる黒焔】」
左手に掴んだ白の竜牙槍に、黒い炎が纏わり付く。その顎を変貌させ、黒と白の牙へと形を変えた。竜を模したに過ぎなかった大槍は、強欲竜との戦いで見せた凶悪なる大槍に変貌を遂げた。
「ハッハハハハハハ!!元気が良いねえウル坊!!こっちも若返っちまうよ!!」
同時に、愚星の闇から再びブラックは再誕した。先程ウルが抉った心臓も、腸も、全てが元通りだ。それどころか、彼の周囲に纏わり付く闇の総量は明らかに上昇している。猛るブラックの意思に呼応するかのようだった。
「狙いは分かったよ!!良いぜえ!?俺に勝てたら【天愚】はくれてやるよ!!他の竜の魂もまるっと譲渡してやるさ!!!」
二人は同時に地面に着陸する。
「だーがーなーあ?」
巨大な人形兵器の腹の位置、人形兵器のエネルギー生成炉だった。凄まじい熱と異臭、大罪竜スロウスの腐敗物を活用した膨大なエネルギーは、巨大な質量の人形を突き動かして尚、周囲を灼熱に晒すほどの力を保っていた。
「まず、やるってんなら
魔王は黒い毛皮の外套を投げ捨てる。外套は熱に晒されて炎に吞まれて燃え朽ちた。同時に、懐から奇妙なモノを取り出した。ぱっと見で、ウルにはそれが何なのか判別が付かなかった。ドームでコースケが見せてくれた、小型の魔導銃にも見えた。
この場ではあまりにも弱々しく見えた。だが、
「【其は安寧を願う慈悲の微睡み】」
次の瞬間、彼の腕が異様な音と共に変異する。ウルがしたのと同じだった。竜の魂による肉体の変異を、武器にまで一時的に届かせる異端の技。禍々しい巨大な銃を構え、彼は凶悪に嗤う。
「――てめえが殺されて、全部奪われる覚悟もしておけよ?ルーキーィ?」
ウルは肺一杯に、焼けるように熱い空気を吸い込むと、一気に前へと踏み出した
「必要なもの全部おいてってもらうぞ、ロートル」
斯くして二つの邪悪は喰らい合う。
その果ての結末は定かではないが、世界に果てしない災禍を残す事だけは確かだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【達成不可能任務・
変更
【達成不可能任務・灰■勅命・
【終焉災害/愚天魔王討伐戦開始】
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