生産都市ってどんなとこ?②


 竜吞ウーガ大食堂


 リーネ達の開発した食料の試食会もそれから進んだ。が、しかし、どれにしても最終的に得られた感想は「まあ、食べれるけど……」「癖が強い」「俺は好き」というような、まあややイマイチと言って良い代物だった。都市住まいと比べてずっと雑多な味に慣れている彼らでこの評判なら、舌の肥えてる連中が口にした瞬間眉をひそめて首を横にふるような出来のものもあっただろう。


 実際、食品加工に携わっているグルフィンなどは「こんなものヒトが食べるものではなぁい!!」とぶち切れながら品種改良や料理研究に従事している。(比較的、「マシ」ないし「独特だがクセになる」という評価を貰ってるのは彼が手がけた品だった)


 リーネもいきなり大絶賛がもらえるほど侮っているわけではなかった。この評判を次の糧としよう、と、感想の幾つかを纏めていると、皆と一緒に試食会に来ていた名無しの子供達がリーネに近づいてきた。彼らは目をキラキラさせながら尋ねてきた。


「ねえねえ、リーネさん。【生産都市】ってどんなところなの!?」

「さあ」

「ええーいい加減ー」


 がっかりとした顔をされたが、こればかりはこう言う他ないのだ。リーネはメモを取る手を止めて、彼らに向き直る。


「都度説明してるけど、【生産都市】は本当に、高位の神官でも立ち入れない、秘中の秘なのよ。大連盟からも独立してる部分もあるから、第一位シンラであっても口出しできない事もあるのよ」

「な、なんか、すっげーとこってのはわかるけど?」

「まあ、確かに銀級の依頼クエストですら、【生産都市】関連のものは殆ど無かったなあ。あっても間接的な援助ばっかだった」


 話しているウチに、大人の名無し達も興味深げに集まってきた。リーネは話を続ける。


「勿論、だからといってあらゆる特権が許されてるわけじゃ無いけどね。そんなことをすれば、食糧生産を司る生産都市が世界を支配してしまうし」


 とはいえ、かなり複雑なバランスで維持されているのは確かだった。そして、そのバランスが崩れて、生産都市に依存する都市群が、生産都市もろともに滅びかけると言ったケースも、過去の歴史を紐解けば確かに存在している。

 本当に、危ういバランスでなりたっているのだ。


「なるほど……いや、ご免、なるほどって言ったけど、あんまピンと来てない」

「良いわよ。私も似たようなものだし。その都市の管理物によって生産都市の文化そのものが全く違ってくる、なんて言われてもいるの。“こういうもの”と当てはめない方が懸命ね」

「……なんつーか、そんなとこに危険人物シズク突っ込んで大丈夫なのか?」

「…………流石に弁えてるでしょう。劇物シズクも」


 ……大丈夫よね?と、リーネは祈った。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 【生産都市ホーラウ】来賓室にて


「…………ウル」

「…………なんだ」

「かえりたい」

「俺もだ」


 ウルはエシェルをなだめながら、シズクと生産都市代表者との交渉を黙って眺めていた。


 生産都市から「品種改造した家畜をまるごと譲ってもらう」という結構な無茶を頼みに来たウル達一行は、ラクレツィアの案内で生産都市を訪ねていた。彼女曰く「私であっても直接命令して融通させる事は出来ません。全てはあなた方の交渉次第であることは覚悟しなさい」と忠告を受け、タフな交渉になること自体は覚悟していた。

 そしてその警告と、事前に覚悟していたとおり、交渉は酷く複雑なものとなった。ウルとエシェルにはシズクの交渉を眺めることしか出来なかった。


 だがそれは、彼女が卓越した話術を使えるとか、そういう話では無く、


「……********!!!」

「まあ」

「++++``!!***…………***!!!」

「そうだったのです、うふふ」

「****************!!!!


「あれ、会話通用してるのか?」

「わからない」

「まさかとは思うが適当に相づち打ってるだけじゃねえだろうなシズク」

「わからない……!」


 何言ってんだか分からないのである。

 ウルは、確かに人類の最先端、英知の結集である生産都市に脚を踏み入れたはずなのだが、何故か都市の中は凄まじい密林であり、そこで働く神官達は、何故か異様なる格好をしていた。上半身が裸体で腰蓑を着けて、仮面を装着し、槍を構えて、未知の言語で会話をしている。

 最初は本気で怪しげな盗賊達に生産都市が乗っ取られでもしたのかと勘違いしたものだったが、なんと彼らは本当にこの生産都市で働く従業員であり、高名なる魔術師や、精霊を従える神官でもあった。


 何故そんな彼らがそんな格好をしているのかは全くの不明である。


 そしてそんな彼らを前に何故か会話を成立させているシズクはもっと意味が不明だ。


「生産都市の従業員は、頭が良すぎる所為で、時折おかしな方角にアクセルを吹かせる者達もいるという話はラクレツィア様から聞いたことがありますが」

「限度がある。限度が」


 カルカラの説明でも理解が出来ない。いや、あるいはウル達の思考では全く想像がつかないような、とてつもない高尚な思想と理由によって彼らがあの格好をしているという可能性も無くは無いが――――いや、だとしても、今、部屋の窓の外で木の上によじ登りながら猿たちと同じような姿勢で「ホーホーホァーアア!!!」みたいに叫んでるアレは絶対違うだろ!高尚な思想とかないだろ!!野性に帰ってるだけだって!!


 などと、ウルが考えていると、不意に「わかりました」とシズクが頷いて、ウル達のところに戻ってきた。彼女はにこやかな笑みを浮かべている。少なくとも交渉が不発に終わっただとか、そういう顔では無かった。


「シズク、どうなったんだ!」

「はい。ウル様、エシェル様、カルカラ様」

「ああ」

「うん」

「なんでしょうか」

「これから、果たし合いを行うこととなりました」

「「「何故!?」」」


 果たし合いをすることになった。

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