三竜⑤ やりたい放題


 ロックは実際に目で見て全てを判断しているわけではない。


 当然の話ではある。彼に肉眼はない。彼が見ているのは全体の魔力のカタチであり、大気中に漂う魔力の変化だ。シズクが行う音の反響を利用したソナーにも近いが、それよりも更に鮮明に、ロックは周囲の状況を関知している。


『AAAAAAAAARRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 その、優れたる感知能力でもって、ロックは白王陣がたたき込まれた水竜達の変化をつぶさに観察していた。一瞬たりとも見逃すまいとして、その変貌を観た。膨大な質量を持ちながら、実体を持たない。粘魔とも似て非なるその希有な特性を持つ水竜の真相に迫った。


『…………なるほどの?』


 そして、その真相の断片に、彼は気がついた。


《簡潔に》


 攻撃を受けても尚、続く水竜達の猛攻を凌ぐジースターから即座に通信が来た。ロックは自らが感知した情報をそっくりそのまま、全体の通信に伝達した。


『“水竜の魔眼は一つではない!!この水の中全てが異常に小さな魔眼で出来ておる”!」


 リーネの莫大な破壊の魔術が出現したとき、ロックは水竜全体が、巨大なる炎の岩石を回避するように蠢いたのを観た。その時は全体で一つの生物のようにも見えたが、違う。無数の気配が水中にて蠢いていた。直接的な危機に対して、潜むことが出来ずに沸いて出た膨大な数の、小さな小さな魔眼が、逃げ惑い、その後再びつながるのを視た。


「互いが互いを見て!!繋がり!!そして巨大な水となり、竜に化けとるんじゃ!!』

《なるほど》


 説明を聞いたジースターは納得したように頷いた。特にコレと言った反論は無かった。ジースターの推測とも合致したのだろう。そして、


『…………』

《…………》

『つまり……割とどうしようもないということじゃの!?』

《地獄だな》


 そう、この情報から得られる速攻の打開策は、ない。

 敵が、この水のどこかに潜んで、隠れているのではなく、この水そのものが、核であり本体であるという事実は知れたが、量があまりにも膨大だ。しかも、まとめて一気に攻撃しようとすると、先ほどのリーネの攻撃に対応したように、回避する。


 質量は膨大なくせに、大ざっぱではない。性質が悪かった。


《――――だが、回避したという情報は、収穫だ》


 ジースターは、切り替えるように息をついた。


《回避しなければならないと言うことは、喰らうと不味いと言うことだ》


 つまり、このあまりにつかみ所の無い水竜は、絶対無敵の存在ではない。先ほどからのロックの攻撃に対しても、まるで効果が無かったわけでは無いのだ。おそらく、異様に細かく魔眼同士が別たれていたため、剣等で捉えることが出来ず、回避されていただけなのだ。

 で、あるならば、


《捉え、まとめて、吹き飛ばす【天衣模倣:天魔接続】》


 ジースターを中心に、膨大な魔力が集い始める。


『どうする気じゃ?!』

「奇々怪々だが、水の性質を有しているというのは紛れもない事実だろう。ならば、全体をまとめて凍り付かせる。逃げられなくすれば良い」

『なるほど、ごり押しじゃの!!……じゃが』


 その意図をロックは理解した。しかし、それと同時に、


『AAAAAAAAAAAAAAAAAARRRRRRRRRRRR!!!!!』


 水竜達が一気にその数を増産させた。最早、足下の湖全てが水竜の形状に変化し、それらが全て、ジースターへとその顎を開けていた。


『反応クッソはっやいの!!?』

《済まないが、護ってくれ》


 ジースターの救援要請にロックは納得する。何せ、ほぼ湖のような範囲の水竜を凍り付かせようというのだ。天魔の力を模倣すると言っても、ジースター自身があのグレーレのような大魔術師になったわけでもない。

 一瞬で全てを凍り付かせることなんて出来ないのだろう。ならば、守るが自分の役目だ。


『やらいでか!!!頼む!!!エシェル!!!』



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 一夜城内部


「分かってる!【ミラルフィーネ!!!】」


 ロックの通信を受けて、エシェルは新たに鏡による転移術を起動させる。その瞬間、一切の間を置かず、鏡から風と水の竜達の猛攻が始まるが、グレーレの支援によって護衛に回る自動術式がその侵入を拒んだ。

 だが、完璧ではない。徐々に水竜もこちらの防御を学び始めている。自動術式の守りを回避するように、回り込むような動きが増えてきた。エシェルは悲鳴がこぼれそうになる。

 本当に、怖い。陽喰らいの儀の頃よりずっと自分は強くなったが、あのときよりも遙かに、眼前に迫るような死がエシェルの首筋を撫でていた。

 しかし、それでも負けるわけには行かなかった。この場所に立ち向かうと決めたのは、誰であろう自分自身なのだから。


「5番から7番!!転送!!」


 外の空間につなげた転移の鏡、【会鏡】へと、【封鏡】を送り込む。自分自身で取り込んだものを選別し、封じた代物だ。この地獄で、どのような脅威が待ち受けているかを想定し、あらゆる物資を種別に分けて突っ込んである。

 今、ロックに送り込んだのは――――


「ダヴィネの兵器セットだ!ロック、受け取れ!!!」




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ―――お前ら、俺のことマジでなんだと思ってんだ???


 戦いに赴く前、大罪迷宮グリードに行くことが決定した後、【歩ム者】一同は天才鍛冶師、ダヴィネの元に通い詰めることとなった。間違いなく死線へと飛び込むことになる以上、ダヴィネの腕がどうしたって必要だった。

 の、だが、あまりにも色々と注文をつけすぎた所為で、ダヴィネはしょっちゅうキレていた。特にかなりの頻度で難解極まる注文をつけるリーネと、面白がって好き放題言うロックに対しては、ダヴィネはだいぶぶち切れていた。


 ―――とりあえずやりたい放題注文すりゃいいって話じゃねえんだぞボケェ!?

 ―――できんのカの?

 ―――できらぁ!!!


 が、出来た。

 【歩ム者】がつけたあらゆる無茶ぶり注文に対して、彼は完璧な仕事をやり遂げたのだ。

 あの男は本当に、正真正銘の大天才であった。


『【骨芯変化!!!】』


 ロックはエシェルが送ってきた鏡から落下してきた物資の全てを変貌させた骨で拾い集め、更に自身の身体を変化させる。骨には無数の合金による障壁がまとわりつく。手足が四つずつ増量し、その手全てに二メートル超の巨大な竜殺しが握られた。

 

『カカカ!!!ええのう!!最高じゃああの天才は!!!』


 そして腹には、その巨大化した体躯にも見合うほどの竜牙槍が顎を開き、魔導核を渦巻かせる。四足の機械兵器。人形ゴーレムとは似て非なる怪物。生物の死体と、機械の融合体。


『そっちだってやりたい放題なんじゃ!!こっちだってやることやらせてもらうわい!カッカカカ!!』


 そのおぞましき様相をみて、それが死霊兵であるなどと誰一人として思わないだろう。その邪悪さが、ロックは心底気に入っていた。


『【顎・連結開放!!!】』


 巨大なる竜殺し、それらがすべて、ケダモノの顎のように大きく開かれる。獣の咆哮の代わりに、内蔵された巨大な魔導核が唸り声をあげる。膨大なエネルギーが凝縮し、可動部が変形し、それぞれの竜牙槍と連なって、一つの巨大な大砲へと変わる。放出された光熱をまるで刃のように振り回しながら、巨大なる死霊兵は、ジースターを狙おうとした水竜をなぎ倒す。


『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』 

『【竜牙咆哮剣!!!】なんてのお!!カッカッカカッカカカカカカカカカ!!!!!』


 大罪迷宮の深層にて出現した巨大兵器は、この地獄を楽しむように哄笑した。

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