王宮の森にて③
*****
「ひ、ひいいいいっ!!」
夜着の準備をしてマルティナの
見てはいけないものを見てしまった。
「マ、マルティナ様、なにを……。ま、まさか!」
メリーはごくりと
「これが何か分かったの? メリー」
マルティナは
「まさかマルティナ様がそこまで
「? それは何の話かしら?」
マルティナは小鍋を混ぜながら首を傾げた。
「何の話って。ですから毒を作っておられるのでしょう?」
「毒?」
「エリザベート様に飲ませる毒を
「……」
「ですが相手はスタンリー
「何を言っているの?」
「え?」
メリーはきょとんと聞き返した。
「毒など煎じるはずがないでしょう?」
「え? でもその小鍋で作っているのは……」
「これは
「蠟で髪を? そ、そんなことをしたらごわごわになって、てかてか白光りしますよ!」
「やっぱりそう思う? 一度
「や、やめて下さい!! せっかくの綺麗な黒髪が台無しになります!!」
「でもやってみれば案外きっちりまとまって、簡単にほどけなくなるかもしれないわ」
「別に今でもきっちりまとまってほどけてないではないですか」
「それがね、束の中心を引き抜かれたら簡単にほどけてしまうのよ。どこを引っ張ってもほどけないように、かちかちに固めるべきだと思うのよ」
「マルティナ様の髪を引き抜く人なんていますでしょうか?」
「それは分からないわ。でも用心はすべきだと思うの。味方だと思っていた人が
「誰のことを言っているのか分かりませんが、そんな攻撃をしかけてどうするのですか?」
「分からないわ。何の得があるのかしら? どうしてそんなことをするの?」
「私が聞いているのですが……」
「でも相手に得があろうがなかろうが、私は
なぜか頰を赤らめるマルティナが
この
「ともかく、蠟で髪を固めるのはやめてください。お願いします」
メリーに言われて仕方なく、マルティナは小鍋を置いた。
「さあ、お疲れでしょうから、もう夜着に
マルティナはメリーに手伝ってもらいながら、
「それにしても王様はいったいどういうつもりでいらっしゃるのでしょうか? マルティナ様のことを気に入らないと言ったり、急に散歩にお連れになったり……」
みんなには、庭を散歩しながらガザの災害
「気に入らない……。そうね。そんなことをおっしゃったのだったわ」
「もうマルティナ様を解任しようとお考えではないのでしょうか?」
蠟で固められずに済んだ長い黒髪を梳きながらメリーは聞き返した。
「どうかしら。時々……何をお考えなのか分からなくなるの」
勤勉で真面目で、養成院にいた
「王様と何かあったのですか? マルティナ様」
マルティナは
「あのね、メリー。誰にも言わないでくれる? ここだけの話よ」
「? はい。もちろん誰にも言いませんよ。何ですか?」
珍しく口ごもるマルティナに、メリーは息をひそめて尋ねた。
「自分でもこんな気持ちになるなんて、信じられないのだけど……」
「!!」
メリーはまさか、と期待を高めた。いや、職業王妃としてあってはならないことなのだが、
長年そばにいても色気の
「ああ、でもやっぱり陛下に対してのこんな気持ちを人に言うべきではないわね」
「な、なんですかっ!?
メリーは前のめりになって尋ねた。
「いいえ。この気持ちは私の心だけに
「私とマルティナ様の仲ではないですか! なにがなんでも言ってくださいませ!!」
メリーは摑みかからんばかりにマルティナに詰め寄った。
そしてマルティナは観念したように答えた。
「陛下が……」
「王様が!?」
「……時々……少し怖いの……」
「……」
メリーは、しばし固まったあと
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