孤独な森のひきこもり魔女、王太子妃として溺愛される

夕鷺かのう/ビーズログ文庫

プロローグ


 むかし、むかし。今から二百年ほど前のこと。

 西の大国レヴェナントの王様とおきさき様のもとに、愛らしい王子様が生まれました。

 この国では当時、やんごとない身分の家にあかぼうが生まれると、高名なじょたちをおうたげに招くのが流行でした。

 こころくしでうんとおもてなしする代わりに、祝福のほうをかけてもらうためです。王様とお妃様は、作法に従い国中の魔女たちを呼び寄せました。

 しかしたった一人、――いにしえの大魔女モイライ一族のメーディアにだけは、招待状を出しませんでした。

 なぜって?

 メーディアは、それは美しく強い魔女でしたが、それはそれは男ぐせが悪かったのです。

 毎日のようにこいびとをとっかえひっかえ、泣かせた男は数知れず。挙げ句の果ては国内に『メーディアがい者の会』ができるようなありさまで、『そんな悪評持ちの魔女に、生まれたばかりの王子がとんでもないえいきょうを受けでもしたら……』という国王夫妻の心配は、ごくもっともなものでしょう。

 けれどそんな事情、もちろんメーディアにとっては知ったことではありません。国をあげてのせいだいなパーティーに、自分だけ席が用意されなかったメーディアはカンカンです。

 空飛ぶほうきにまたがってお祝いの宴に乗り込んできたメーディアは、おびえてブルブルふるえる王様とお妃様を見つけるなり、やみ色のかみいかりに逆巻かせ、毒々しいむらさきひとみをぎらりと底光りさせて、血のように赤いくちびるで告げました。


『よくもまあ、あたくしだけのけものにしてくれたね。お返しに、二度とあたくしのことを無視できないように、お前たちにのろいをかけてやる。そうさな、――』


 いろられた長いつめが、王子様のゆりかごをまがまがしく示しました。


『お前たちの血筋の男はみな、あたくしたちモイライ一族の魔女を一目見たしゅんかんに、問答無用で、身をがすような激しいこいに落ちるだろう! これから未来えいごう子々孫々にわたり、一人残らずね!』


 おそろしい呪いの言葉をさけぶと、メーディアは高笑いを残して飛び去っていきました。

 メーディアの力はたいそう強く、他のだれも魔法を解くことができません。

 以来、仕方なくレヴェナント王室は、半永久的にモイライ一族を王宮に出禁にしたということです――



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