どうもこちら厄介カプ厨です、今日も俺のクラスの幼なじみカップルが尊いです〜推しカプに近づこうとする間男共を食い止め続け、気づいたら俺に対するクラスの女子からの好感度が何故か高い件〜

あすとりあ

短編

 俺は白門雪哉しらかどゆきや、高校一年生だ。

 昔から、大抵のことはそれなり以上にできるのだがどうしてもできないものもあった。

 それは、「友達」だ。

 コミュ症の俺は人と会話をすることはもちろん、特に相手が女子の場合、目があっただけでも緊張してしまい不本意に睨んでしまうのだ。

 

 そんな俺も高校に入学してはや二ヶ月。

 現在絶賛ぼっちを貫いている俺には声を大にして言えない趣味がある。

 その趣味とは、同じクラスの幼なじみカップル(俺の脳内ではカップルということになっている)のイチャイチャを後方から眺めることだ!

 どうやら俺みたいなやつのことをとある界隈では「カプ厨」と呼ぶらしい。




「説明しよう!!『カプ厨』とは『カップル厨』の略で、えーと……まあ簡単に言うと異性関係なしになんでもかんでもカップルにしたがる人のことを言うのである!」


「よーっす……、っておい。誰に向かって喋ってんだお前。ていうか頭に『厄介』をつけるのを忘れるな。この迷惑厄介カプ厨め」


「『厄介』は自分でも認めているとはいえ、『迷惑』とかいう頼んでもいないおまけ付きとは、とんだご挨拶だな我が親友ともよ」


 そしてそういうメタい話をするんじゃない。

 万が一干されそうになった時はお前一人で逝くんだな我が馬鹿ともよ。


「おいお前、なんか最低なこと考えてないか?」


「い、イヤダナー、俺たちこんなに仲良しなのにそんなこと考えるわけないじゃないか!」


「うげっ、気持ちわる」


「んだと!やんのかごらぁ!」


 朝から軽快なツッコミで茶番を仕掛けてくるこの男は中多賀和樹なかたがかずき

 俺がこのクラスで唯一趣味のことを共有している人間であり、唯一普通に会話をすることができる相手だ。


 え、友達いるじゃねぇかって?

 違う、こいつは馬鹿しんゆうだ。

 あくまでコミュ障の発動対象は人間であり、馬鹿には効果がない。


 入学当初、いつも一人でいる俺に何故か興味を持ったらしく、コミュ力馬鹿のあいつは休み時間になるたびに俺に話しかけ続けた。

 俺は陽キャと関わり合いになるのはごめんだったので、「毎回適当に返事してりゃそのうち話しかけて来なくなるだろ」と思っていたが、この考えが実に楽観的であったことを最近では激しく後悔している。

 あいつは俺が人と話すのが苦手だとだんだん理解し始めてくると、さらに楽しそうに俺からすれば心底興味無い世間話を次から次へと繰り広げてくるのだ。

 



**




 ある日、それまでは自発的に喋り続けていた和樹が、その日は俺に話題を振ってきた。


「なあ、白門君はなんか趣味ある?」


 チャンスだと思った。

 ここで、「クラスメイトのカプ厨」という普通の人からしたらドン引きの趣味を答えれば、さすがのこいつも俺と距離をとるのではないかと考えたからだ。


「く、クラスメイトで推しカップルの妄想をすること……です」


 あー、完全に陰キャ丸出しの返答の仕方になってしまった。

 でも、一応聴こえているはずだ。

 これでこいつとも今日でおさらばか。

 ふっ、お前と過ごす時間、つまらないことばかりではなかったぜ……。


 一足先に妄想の歓声の中で絶望的にダサいウイニングランを決めていた俺を現実に引き戻したのは、中多賀が放った一言によるものだった。


「東雲と西条のコンビ、いいよな〜」


「なっ……、お前、今なんと言った……?」


「東雲と西条の二人がいいよなって……、それがどうかしたのか?」


「『しの×さい』は正義、『しの×さい』は神、『しの×さい』しか勝たん、……」


「おうわかったわかった!一旦落ち着け!」


 ふう、推しカプを「いいよな〜」の一言で語られて、少々取り乱してしまったようだ。


 ここで『しの×さい』が何なのかわからない人のために説明しよう。

 『しの×さい』とは俺のクラスメイトの東雲乃蒼しののめのあ西条千夜音さいじょうちよねという幼なじみの男女を指すいわゆる愛称の様なものである。

 (「×かける」はよくアニメとか漫画のキャラのカップリングを作るときにつけるやつ)


「で、結局、白門は東雲と西条の二人を眺めるのが趣味ってことでいいのか?」


 そうか、そういえばそういう話だったな。


「まあ、めちゃくちゃ、本当に本当に簡潔に言えばそうなるな」


「いや、どうやってもこれ以上難しい話にはならねぇよ。ていうかお前、普通に話せてるじゃん」


「あ」


 指摘されて初めて気づいた。

 オタク特有の、自分の好きなものについて熱く語りたくなってしまうという習性がコミュ障を上書きしたようだ。


「よし、せっかく白門が自分の趣味について語ってくれたんだ。ここは一つ、俺の内緒の趣味も聞かせてやろうではないか」


 中多賀が突然言い出した。


「俺はカップルの修羅場とNTR寝取られを見るのが好きだ!」


「……は?」


「何だ、聞こえなかったのか?ならもう一回……」


「いや、大丈夫しっかり聞こえている。理解するのに少々時間がかかっただけだ」


 ふむ……。こいつなかなか最低クズな野郎だな。

 ドン引きさせるつもりで話した俺の趣味を助走なしで軽々と跳び越えていきやがる。


「そうそう、最近は西条がこの間のクラスマッチで抜群のスタイルで学年中で大人気になってな、他クラスからも大勢の男共が目を光らせてるんだよ。西条が誰かとくっついた時の東雲の反応を想像するのが最近の俺のトレンドだな」


「遺言はそれだけか……」


「へ?遺言?」


 前言撤回、こいつはとんでもないクズだ。

 人類の敵、いや生命の敵だ。

 

 俺は立ち上がると、やや腰を落とし右の手で握り拳を作った。


「おい、待て待て待て、話し合おう。話せばわか……」


 中多賀の言葉が最後まで言い切られることはなかった。

 そしてこの星の平和は守られた……。


「おい!ほんとに殴るやつがあるか!」


「手加減はしてやっただろ。それともまだ欲しいのか?なら今度はもう少し強めに……」


「だから待てって。それより、ちょっと教室の外を見てみろ」


 言われて俺はその方向に視線を向ける。

 授業間の10分だけの短い休み時間であるにも関わらずそこには何人もの男の集団があった。

 そしてそいつらの視線はもれなく全て西条さんの方に向かっていた。


「なるほど、あれがそうか」


「先週あたりからずっとあんな感じだったが、逆に白門は今まで気づいてなかったのか?」


「10分しかない貴重な時間を推し意外のために割くなど言語道断なり」


「あ、はい、そっすか。……じゃなくて!いいのか?あれ、放っておいて」


「まあ、よくないな」


 見ているだけに留まっているうちは別にいいと思うが(というか実際俺もそうだ)が、夢中になるあまり、教室の扉を塞いだり、少々目に余る騒ぎ方をしている奴らもちらほら見受けられる。

 何より俺はな……、「同担拒否」なんだよ!!(※多分同担じゃない)


 俺は心を決めると、すっと席を立った。


「おい、どこ行くんだよ?まさかほんとに文句つけ行くんじゃないだろうな!」


 馬鹿がなんか言ってるが、すでに俺の耳には届いていない。


 俺は手始めに、扉を塞いでいる三人組の前に立った。

 

 ……ところまではよかったのだが、肝心なことを忘れていた。

 (あ、そういや俺、コミュ障じゃん)

 原点回帰。

 どうやら本当の馬鹿は俺だったのかもしれない。


「何だ、お前。邪魔だから用がないならそこどいてくれよ」


 三人のうちの一人が俺に向かって話しかけてきた。

 しかも何で喧嘩腰なんだよ!こえぇよ!

 しかし、ここで引き下がっては二度と推しに顔向けできない……。


 俺は精一杯の勇気を振り絞り、こう言おうと決めた。

 「トイレに行きたいからちょっとそこ開けてくれないかな?」


 ダメだァ!めちゃくちゃ逃げ越しじゃねぇか俺。

 コミュ障にはこれが限界なんです……


「おい、なんとか言えよ!」


「うるせぇ!今考えてんだよ!」


「え?」


「あ」


「…………」


 教室が一瞬にして静まり返った。


 (うわぁ、やっちまったぁ!頭の中で一人ノリツッコミしてたせいで、つい脊髄反射でツッコミ入れちゃったぁ!)


 これは急いで弁明をしなければ……。


「「「ご、ごめんなさーい!!」」」


「あ、ちょっと、待って!


「「「何で追いかけてくるんだよぉ!」」」


 なんで逃げるんだよあいつら……。

 

 うわぁ、どうしようどうしよう。

 俺、今ので全員からヤバいやつだと認識された気がする。

 気がするどころか、もはや確信しかない。

 教室の外にいた観衆たちも、俺を見るや否や顔を引き攣らせながら自分の教室へと戻っていく。


 (終わった……)


 俺は肩を落とし仕方なく中多賀が待つ、自分の席へと戻った。


「お前、やるなぁ!あいつらが扉を塞いでたせいで、佐藤さとうが教室から出られないのを見て注意しようとしたんだろ?」


 佐藤というのはクラスメイトの女子のことだが、俺はそんな話を全く知らない。

 しかし、ことから、俺は中多賀の意図することを察した。


「まあな」


 コミュ障にはこう返すので精一杯だけどな。


「何だそういうことか〜」

「最初びっくりしたけど、めちゃくちゃいいやつじゃん」

「確かにああいうのってなかなか言いづらいよね〜」

「雪哉君カッコいい!私のイケメン王子様!」


 教室内は一気に俺に対する賛辞で溢れかえる。

 しかも、主に女子。

 

 ……ん?ちょっと待て、最後にふざけた歓声を送ってきた馬鹿はどこのどいつだ?


「おい、中多賀……何か言い残すことはあるか?」


「お前の睨んで顔、めちゃくちゃ怖かったぜ!」


「よし、死にたいようだな」


「まあまあ、ちょっとぐらいふざけてもいいじゃねえか。むしろお前は俺に感謝するべきだと思うぜ」


 まあ、そう言われると確かにそうなのだが……、それをこいつに言われるのは癪だ。


「だがまあ礼は言っておく」


「そうかそうか。なら特別に俺のことを和樹と呼ぶことを許可してやろう。だから俺も雪哉って呼んでいい?」


「善処する」


「そこははっきりといいぞって言ってくれよ!」


「男同士で名前呼びをすることに特別感を出そうとしてくるんじゃねぇよ、気持ち悪い」


「ずっと思ってたがお前、今日初めて喋ったってのに、とんでもない毒舌っぷりだな」


「馬鹿に払う敬意などない」


「あ、てめ!やっぱ俺のこと見下してやがんな!」


 


 **




 まあそんなことがあって、中多賀は俺にとって「ただの馬鹿」から「そこそこマシな馬鹿しんゆう」になったというわけだ。

 ちなみに、俺が脅かしたことで少しだけ観衆が減ったが、二、三日してすぐにそれまでの騒々しさを取り戻した。


 最近の俺の日課は、推しカプを眺めることは相変わらず、そこに間男どもの監視も加わった。

 そういえば、中多賀のやつが他のクラスメイトと話している時、当然俺はぼっちなわけだが、そんな俺にこの間あの時の佐藤が話しかけてきた。




「白門くん、ちょっと遅くなっちゃったけどこの前はありがとう。クッキー焼いてきたんだ、これ、よかったら食べて……って、あのぅ白門くん?」


 あ、ヤッベ、話しかけられてるの全然気付かなかったわ〜。

 せっかくあの馬鹿がいないから今日はじっくり推しカプの尊い成分を摂取しようと思ったのに。

 って、こいつは確か佐藤?

 なんか俺に用でもあるのか?

 

「え、えーと、俺に何か用ですか?」


「えっとね何してるのかなって」


「あの二人、見てた」


 そう言って俺は推しカプの方を指さした。

 推しに指さしなど、なんと無礼な行為、しかし俺如きがあの二人を本名で呼ぶのはもっと重罪……。


「そっか……」


 え、何で落ち込んでるの?

 俺なんか変なこと言いました?


「そうだよね。あの二人とっても可愛いし、白門くんもきっとああいう子が……」


「え、何か言った?」


 特に後半、声が小さすぎて全然聞こえなかった。


「ううん、なんでもないよ!それだけだから!」


 佐藤はそう言うと、友達の元へと戻っていった。

 落ち込んでる、かと思えば急に明るく振る舞ったり、女心というものは本当に難しい。

 それに、あの子なんだか妙なことを言っていたような気がする……。

 (まあ、気のせいか!)


 最終的に俺はそう結論付け、今日も推し活に励むのであった。




 この時の佐藤との会話がきっかけで、俺は推しと予想外の関わり方をしてしまい、例の馬鹿にブチギレることになるのだが、話が長くなってしまったので、今日のところはとりあえずこの辺で。



ーーーーーーーー


短編です!

もしよければ☆一つでもいいので、評価をつけていってくださるととても嬉しいです!よろしくお願いします!


PS:☆下さった方々、ありがとうございます!初の短編なので是非感想を頂けたら幸いです。よろしくお願いします。


女子高生に大人気のカフェの通称王子様系イケメン店員の正体がどこにでもいるただの陰キャ男子高校生の俺だってバレたら生きていけない〜あまり目立ちたくないので美少女はお断りさせていただきます〜


↑現在毎日更新中の新作です。覗いていただけたら嬉しいです。

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どうもこちら厄介カプ厨です、今日も俺のクラスの幼なじみカップルが尊いです〜推しカプに近づこうとする間男共を食い止め続け、気づいたら俺に対するクラスの女子からの好感度が何故か高い件〜 あすとりあ @Astlia

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