第35話

「パパ!マキさん」


ジョアンくんは伯爵様達が去った後ライリーさん達を連れて戻ってきた。


「あれ?」


そして何事もない銭湯をみて首を傾げた。


「マキさん、大丈夫ですか!」


「あっはい、皆さんのおかげで何事もなく帰って頂きました」


「それならいいのですが…」


ライリーさん達が心配そうな顔を向ける。


「大丈夫ですよ、ここでは喧嘩や揉め事はダメって領主様が言ってくれてるんですよね?」


「そ、それは…」


ライリーさんが言いにくそうに目を逸らした。


「え?もしかしてダメになったんですか?」


強気に出たのにまさかダメだったとか不安になる。


「いえ!領主様が王都に申請を出してまして必ず受理されるはずですが、まだ王都からの返答が届いてないので…」


その前に揉め事を起こすとよろしくないみたいだ。


「すみません、でもあの人達横暴すぎますよ!受理されてなくても入って欲しくないわ」


「みんな領主様のような貴族ばかりではないので、むしろブルード伯爵のような人の方が多いですから気をつけてください」


「はい…」


「しばらくはやはり護衛をつけますね」


「よろしくお願いします」


私はライリーさんに頭を下げた。


それからしばらくは貴族など来ることもなく平和で忙しい毎日を送っていた。



「んー、今日はなんかお客さんの出入りが少ないなー」


番台に立ってお客さんの数を数えた。


ここに来てからお客さんは増える一方だったのに最近なんだか減ってきたような気がする。


「みんな飽きちゃったのかな?」


銭湯の良さにみんなが気がついてくれていたのかと思っていただけに少し悲しかった。


「マキちゃん」


「あっマルコスさんこんにちは、あれ?ジョアンくんは?」


いつも一緒に来るのに今日はマルコスさん一人だった。


「いや、今日は入りに来たんじゃないんだ…」


マルコスさんは眉を下げて申し訳なさそうな顔をする。


「どうしたんですか?ジョアンくんに何か?」


「いや、元気だよ。今日もここに来たいって言ってたんだが…」


ならどうして?


「それが、上司からの命令でまるふくの湯に行っては行けないと言われて、もし行ったら仕事を辞めてもらうしかないと言われたんだ」


「えー!なにそれ!パワハラじゃないですか!」


「ぱわ?」


マルコスさんは聞きなれない言葉に首を傾げる。


「まだ小さいジョアンもいるし仕事を辞める訳には行かないんだ…すまない」


「マルコスさん…そんな気にしないでください!また上司の機嫌が戻ったらいつでも来てくださいね!」


マルコスさんは悲しそうに笑うが返事をしないでまた頭を下げて帰っていった。


「なんだ?今日はやけに空いてるな」


「あっゲンさんいらっしゃいませ」


「ん、なんか元気ないなどうした?」


ゲンさんがお金を出しながら私の顔を見つめてきた。


「なんでもないですよ!それよりも空いてますからゆっくり長湯しててってくださいね」


「おう!」


ゲンさんの様子はいつもと変わらない。


他にもまだお客さんは来ているからマルコスさんの上司という人がたまたまそんな事を言っただけなのかな…


でもなんか嫌な予感がする。


言いようのない不安はこの後的中することになった。

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