第32話
衝撃的な話をおいて、私は銭湯の補充と最終確認をする。
兵士さん達が手伝ってくれてからいつもよりかなり早く支度が終わるようになった。
おじいちゃん達にお昼を持っていき、その後に兵士さん達にもご飯を出す。
チケット交換で食事をたくさん貰ってもここで消費出来るので助かっている。
しかし人数が多くて家の中で食べれないのが問題だった。
兵士さん達は大丈夫だと外で立ちながら食べていたが、やはりゆっくり座って食べられた方がいいに決まっている。
ブルーシートでも敷こうかと思っていたらこれまた常連客になりつつある人がテーブルを持ってきてくれた。
「これを作ってみたんだがチケット交換出来るか?」
それは横に細長いテーブルで一人がけのカウンターのようだった。
「どうしたんですかこれ?」
それをみて驚きながらも木の温もりに撫でてしまう。
「薪を取りにいったらいい木があってな、なんかテーブルが欲しいって言ってたから磨いてきたんだよ」
「凄くいい!ちょっと待っててね」
私は急いでお母さんを呼びに行った。
「なーに?」
お母さんを引っ張りながら連れてくるとテーブルをみてさすがに驚いていた。
「あら、バルドルさんこんにちわ」
「イズミさんどうも」
バルドルさんをみてお母さんが挨拶をする。
「挨拶はいいからコレ見てよ。バルドルさんがテーブル作ってきてくれたの」
「テーブル?あーこの長いの?」
「家の裏の壁のところにおけば兵士さん達が食べるのにいいんじゃない?」
「そうね、バルドルさんありがとうございます」
「いやいや…ってもしかしてタダ働き!?」
「お母さん!バルドルさんはこれをチケット交換に使えないかって言ってるのよ」
「あー、なるほどね。いいんじゃない、これなら買ったらかなりいい値段しそうね」
「バルドルさん売るならどのくらい?」
「そうだな、まぁそんなに手間もかかってないしな。5000エーンぐらいでどうだ?」
「「えっ」」
私とお母さんは絶句する。
「た、高いか?なら…4000エーンでどうだ!」
「いや、安すぎるでしょ!2万くらいするんじゃない?」
「そんなにしねーよ、木を切って削っただけだからな」
「そう?じゃあ5000エーンでお願いします」
「おお!これでフルーツ牛乳が10杯飲めるぞ!」
バルドルさんは嬉しそうにチケットを受け取った。
兵士さん達にテーブルを運んでもらい椅子は家にあるものや箱で代用した。
「なんか横に並んで食うのは変な感じだな」
「テーブルを用意してもらって文句言うなよ!」
ライリーさんの言葉に兵士さん達は口を噤む。
「カウンターならササッと食べれますし、休憩にも使えますね」
私もたまに使おうと考えていた。
カウンターテーブルは以外に使いやすく、兵士さん達以外にもお客さん達の休憩場所として使われることになった。
徐々にまるふくの湯がこの世界でも必要とされ馴染みのお店になっていく事が本当に嬉しかった。
「フー…」
今日も最後は人のいなくなった銭湯で最後の湯に入る。
広い銭湯に一人でのびのびとつかり目を閉じた。
賑やかな人の声が響く銭湯も好きだがこの一人の時間も大好きだった。
「異世界か…どうなるかと思ったけど、案外悪くないわね」
私はゆっくりと肩まで沈むと目を閉じた。
ようやく慣れてきた暮らしに…ひと騒動おきるとはこの時には全く思っていなかった。
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