第26話



こうして私達は料金を何か一品を持ってくる事で半額にして銭湯を開店する事にした。


しかしいきなり一品と言ってもお客さんには分からないだろうから最初の日だけオープン価格で500エーンで子供は200エーンにした。


来るお客さんにはその都度説明をしてチラシを配る事にする。

チラシは家にたまっていたいらない紙やチラシの裏を再利用する。

貴重な品になるかもしれないのでこれからは節約していかなければならない。


初日の客足は良好、初めて入る人が多いのでライリーさん達兵士さんに手伝ってもらいしばらくは銭湯中で案内役をしてもらうことにした。


女の湯の方はジムさんのメイドさん達が応援に来てくれた。


どうも応援は人気だったようで日替わりで交代で来てくれるらしい。


「あー!銭湯って最高ね!」


「気持ちよかったー」


「僕あんなに熱いお湯はじめて!」


脱衣所では上がってきたお客さんが頬を赤らめ湯気を発しながら笑顔で話している。


それをニコニコと眺めながらコーヒー牛乳を勧めた。


「火照った体にコーヒー牛乳はいかがですか?少し高いですが美味しいですよ」


「コーヒー牛乳?えーと250エーンか…飲み物がそんなに高いの?」


「すみません、でも味は保証しますよ。あとは麦茶50エーンもあります」


「どうする?」


お父さんと一緒に入っていた子供はコーヒー牛乳に興味津々で凝視している。


「少し高いが、明日のご飯を節約すればいいか」


お父さんはコーヒー牛乳と麦茶を一つずつ買ってくれた。


「ありがとうございます!」


私は瓶に入ったコーヒー牛乳とコップに並々と注いだ麦茶を渡した。


「そいつは蓋を開けて飲むんだぞ」


ライリーさんが開け方を教えてあげてくれた。


子供はチビっと飲んで美味しさにごくごくと喉を鳴らす。


「お父さん!飲んでみて!すごく美味しー」


子供に言われてお父さんも少しもらうと美味しさにたくさん飲んでしまい子供に怒られていた。


「ふふふ」


なんだか懐かしい光景に嬉しくなる。


「にゃーん」


番台の机の上には招き猫のまるとふくもしっかりと配置についていた。


「なんか嬉しいね」


二匹の喉を撫でると二匹はひと鳴きして前足で顔を洗う。


「かわいい…触ってもいいの?」


先程の男の子がふくをみながらソワソワとしていた。


「大丈夫だよ、でも優しく撫でてあげてね」


「うん!うわぁ、ふわふわだー」


ふくは大人しく撫でられている。

子供も私の言うことを守って優しくふくの頭を撫でていた。


「それは魔物じゃないのか、噛んだりしない?」


大人しいまるとふくを見ながらもお父さんが心配そうに子供のそばに寄り添っていた。


「魔物!?まさかこれは猫って言う可愛い動物です」


「動物…?って魔物の事だろ」


お父さんの言葉にライリーさん達も頷いている。


「まさかこの世界に動物はいないの?」


「この猫と言うのに似た魔物はいるがもう少し大きくて牙が生えてるな。それにもっと凶暴で人を襲う」


「え…そんな恐ろしいものがいるの、まさかライオンとか」


「ライオンも聞いた事がないな」


聞いてみるとここでは魔物=動物のような扱いらしい。


魔物は人と共存出来る種もいれば肉として飼ったり、狩ったりする種もいるそうだ。


だいたい野生だと思っておけばいいらしい。

街の中には入ってこないし森の奥にでも行かない限り遭遇はしないようだ。


それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。


「ふくちゃんとまるちゃんは大人しい魔物ですね」


「愛玩動物って言うのかな…いるだけで癒されるし、この子達は私達の家族だよ」


そう言って二匹の頭を撫でると満足そうにしっぽをパタパタと振っていた。

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