第25話
「いらっしゃいませー」
私は番台に座ってお客さんに笑顔で挨拶をした。
ジムさん達この街の領主様の家族をおもてなししてから数日後、本格的にこのまるふくの湯が異世界で開店した。
あの日お父さん達はジムさんに薪の確保やこの街でどんなものが手に入るのか聞いて何がこの国でもまかなえるのか確認をしたようだ。
何故だか電気、ガス、水はこの家の中なら問題なく使えた。
しかも凄かったのは銭湯の備品。
シャンプーとリンス、ボディーソープがなくなったらどうしようかと思ったが…次の日になると何故か満杯に戻っていたのだ。
そこで外に持ち出して使ってみるとその量が戻ることはなかった。
どうやら銭湯という空間なら無限に使える…どういう原理なのかわからずにみんなで首を傾げていると…
「良かったじゃない、タダで使えて」
お母さんの一言で家族みんな深く考えるのはやめた。
シャンプーやリンスを売り出してもいいんじゃないかと私が提案するとお父さん達がそればダメだと首をふる。
「人としてそういう事はやっちゃいかん。あれは銭湯で使われるからそこにあるんだ」
おじいちゃんにもそう思うと言われてしまい、私は小さくなって肩をすぼめた。
「銭湯で使えるだけで十分。ありがたく感謝しましょ」
お母さんに慰められた。
確かにこれ以上欲でも出してシャンプーがなくなったりでもしたら大変だ。
私達は銭湯の物はここでだけ使うようにしようと決めた。
料金はジムさんから最初に2000エーンぐらいだろうと提案される。
それが円に直すとどの程度か分からない私達は街で売られる野菜を目安に値段を聞いた。
「この芋なら1個50エーンです。街の定食が300~500エーンくらいかと」
「コーヒー牛乳はいくら位になると思いますか?」
「あれはかなり高級品ですね!一杯500エーンでもいいと思います」
「んー、何となくエーンと円は同じくらいの価値かもしれないな、気持ち円が高いのかもしれない」
呼び方も似てるしこの世界に来てる先の異世界の人が決めたのかもしれない。
「でもさ、コーヒー牛乳500円って高いよね。それに銭湯が2000円なんて」
考えられない値段に驚愕する。
「もう少し安くしたいわね、じゃないとお金ない人は来れないわよ」
私達もここでの生活がある。ある程度金額を貰わないといけないのはわかるがさすがに高すぎる。
悩んでいるとジムさんが声をかけてきた。
「気持ちはありがたいですがあまり安くされますと街の価値も変わってしまいます。銭湯とはそれだけの価値があるものとお考えください」
そう言われてしまうと考え無しに安くしてしまうのもダメなのかも…しかし…
私達の考えは同等めぐりをした。
「じゃあ最初に言った通り物々交換にしましょ。値段は1000エーンであとは薪でも料理でもお野菜でも持ってきてくれたらその分そこから値引きするの」
「それなら…街の人達は助かるかも知れません」
「お金が払える人は金にしてもらいましょうよ」
「そうだね。やっぱり無理して銭湯に入って欲しくないもんね!で、子供は半額」
「子供は半額?」
ジムさんがどういう意味かと聞き返す。
「そのままですよ、子供料金は大人の半分の500エーンです」
「それは…」
「これは譲れません。私達のいた場所では常識です」
少し強気に言うとジムさんはそれならと承諾してくれた。
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