第22話
私は番台に立つと男湯の方を覗き込んだ。
するとちょっどお父さんがいたので声をかける。
「お父さん、私達先に上がって家で休んでるね。リザちゃんが疲れて寝ちゃったのよ」
「わかった、ジムさん達に伝えておくよ」
お父さんが浴槽へと入っていくのを確認して私は今度こそお茶を飲もうと家へと戻る。
「おかえり、みんなはまだ入ってた?」
お母さんが振り返り確認してくると、その手には私の湯呑みをしっかりと握っていた。
「言ってきた、向こうはまだ出てきてなかったよ」
「男の人は長風呂だからね~」
お母さんがのんびりとお茶をすすった。
私はお湯を沸かす間にリザちゃんの様子を見てくることにした。
「お母さん、お湯沸いたら止めてね」
「はーい?」
お母さん達は話が弾んでいるのか振り向かずに返事をしてきた。
私は怖いから一度火を止めてリザちゃんの様子を見に行くことにした。
階段を登るとまる達が鳴く声が聞こえる。
部屋へと急ぐと中ではリザちゃんが目覚めてベッドの上でまるとふくを笑顔で撫でていた。
二匹は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らして寝転んでいる。
「リザちゃん起きたのね、もう少し寝ててもいいよ」
私が声をかけるとハッとして手を止めてしまった。
「こ、ここは…どこ?」
「ここは私の部屋だよ。リザちゃんが寝ちゃったから急遽休ませてたの」
「それは…ありがとうございます」
リザちゃんは眉を下げて頭も下げた。
そしてどうしたらいいのかとキョロキョロとしている。
「下にエミリアさん達がいるよ、一緒に行く?」
「えっと…」
下にお母さんが居ると聞いてほっとすると立ち上がりながら部屋の様子を見ていた。
その顔は銭湯に入った時の様に目が輝いている。
「何か気になる?見てもいいよ」
私は視線の先にあった机を指さした。
「べ、別に気になってなんか…」
リザちゃんはパァと顔を輝かせた後に気にならないと済ました顔をした。
「プッ…まぁ好きにしていいよ」
「銭湯の許可の為にちょっと確認させてもらうわ!」
「はい、どーぞ」
私は場所をゆずって机を明け渡した。
リザちゃんは机に向かうと置いてあったノートとシャーペンを掴む。
「これは何かしら?」
ペラペラとめくり紙を撫でたりして何かと確認していた。
「これは字を書く物なんだよ」
違うノートを取り出してサラサラとまるとふくの絵を描いて下に名前を書いた。
「すごい!」
喜ぶリザちゃんにノートを破って絵を渡した。
「良かったらどうぞ」
「いいの!?」
「何枚もあるからね、欲しいならノートもあげるよ」
使ってないノートを一冊リザちゃんに渡した。
しかしリザちゃんはそれを掴んで神妙な顔をしている。
そして真剣な顔を向けた。
「こんな高価な物をそんな簡単に貰えないわ」
「高価…いや五冊セットの安い物なんだけどな」
「そんな綺麗な紙は見た事無いもの」
そうか、この世界だとこういう物は高価になるのか…
ならどうしようかと迷っていると
「でもこれは破いてしまったから頂こうかしら」
私が落書きした紙を大事そうに握りしめた。
「この子達も可愛いし、これはなんて生き物なの?」
「え!猫をしらないの?」
「見た事ないわ、でもすごく可愛い」
また頭を撫でて笑顔を見せる。
「この茶色で縞模様の子がまるで三色模様の子がふくって言うのよ」
「まるにふく…ねこって可愛いな」
リザちゃんはお湯につかった時のように笑った。
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