第21話

「さぁ水分も取ったから、今度は髪を乾かそうね」


私はリザちゃんを鏡の前に座らせて備え付けのドライヤーを手に取った。


エミリアさんの方はお母さんが教えながら侍女がやるようだ。


「エミリア様今日は一段とお髪が綺麗ですね」


乾かしながら侍女の人がエミリアさんの髪を触って驚いている。


「ええ、ここの〝リンス〟を使ったからよ」


「それを使えばエミリア様のように美しくなれるのかしら」


「もちろん」


エミリアさんが自信満々に答えた。


「いや、それはエミリア様の器量がいいからですよー」


しかしお母さんが笑って否定する。


「だって長年入ってる私やマキは変わらないもんね」


「そんな事ないです!イズミは肌ツヤが良くてマキもとても可愛いらしいわ」


エミリアさんは冗談ではなく本当にそう思ってくれているようで私達は苦笑いする。


「ありがとうございます。じゃあ銭湯に入れば肌が良くなるって宣伝しておいてください」


私は恥ずかしさを隠すためにそんなことを言った。


「もちろんそう言うつもりですわ」


エミリアさんはそう言ってくれたが肝心のリザちゃんはと顔を覗き込む。


リザちゃんはドライヤーにうっとりとして話をあまり聞いていなかったようだ。


髪にクシを通して軽くひとつに結いてあげた。


「はい、出来たよ」


少し眠そうなリザちゃんは髪をみて口を和らげた。


「かわいい、ありがとう」


そう言って軽く欠伸をしそうになる。


「あら、リザ大丈夫?」


うつらうつらするリザちゃんを心配そうにエミリアさんが支えた。


「なんか…気持ちよくて」


「あら、あの人はまだみたいだしどうしましょ」


「よかったらうちで休んで行きますか?」


「お願い出来ますか?」


私がそう提案するとすまなそうにエミリアさんが軽く頭を下げた。


リザちゃんは一番若い私がおんぶして自宅へと連れていった。


エミリアさん達は居間に案内して私はリザちゃんを自分の部屋のベッドに寝かせる事にした。


「にゃーん」


するとまるとふくがリザちゃんの隣に来てクンクンと匂いを嗅いでいる。


「寝てるから起こさないでね」


二匹に声をかけると嗅ぐのに満足したのかベッドで横になった。


二匹が付き添って寝てくれるようで扉を少し開けて私は部屋を出た。


下に戻るとお母さん達はお茶を飲みながら話をしていた。


「本当にびっくりしました。リザがあんなに素直になって」


「きっと銭湯のお湯で固まっていた心が解されたのねー」


「それにしてもこのお野菜美味しいですね!」


侍女も一緒にテーブルに座りお茶受けに出されたお漬物をパクパクと食べている。


「私も失礼して」


エミリアさんが爪楊枝を手に持ってキュウリの漬物を一つ刺した。


エミリアさんが持つとお漬物も豪華に見えるから不思議だ。


私も自分のお茶を入れて席に座わろうとすると


「あっマキはライリーさん達に家に居るの伝えてきてよ」


「えー!お茶入れたのにー」


せっかくのお茶がぬるくなってしまうと文句を言うと、お母さんはにっこりと自信満々に笑った。


「心配ないわ、私が熱いうちに飲んでおくから」


何が心配ないんだが…


私は諦めて男湯に伝言を伝えに向かった。

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