第6話

「お待たせしましたー!お風呂の準備が出来ましたよ」


私は部屋でお母さんと話をしながら待っていたジムさんに声をかけた。


お母さんは驚いで時計を見ると残念そうに立ち上がる。


「あら、もう用意できたのね」


「これは、イズミさんとのお話が楽しくあっという間に時間が経ってしまいました」


「そうですか?なら良かったです。またいつでも遊びに来てくださいね」


「ありがとうございます、こんどは妻も連れてきます」


ジムさんと楽しそうに次に会う約束をすると銭湯へと連れていった。


「領主様!どうぞこちらに靴を!」


銭湯の表に出ると顔を黒く汚したライリーさんがジムさんを出迎えた。


ジムさんは顔をひくつかせて汚い顔で生き生きといているライリーさんを上から下まで見つめた。


「君は何をしているんだ?」


「いや、銭湯の手伝いを…やってみると奥が深く面白くて…すみません」


ライリーさんはハッとして顔の汚れを落とした。


「まぁいいでしょう。それでまたここに靴を置けばいいのかな?」


靴を脱いでライリーさんに続いたので軽く靴を揃えておく。


中に入るとうちの銭湯の湯の匂いがぷーんと香った。


私は番頭に立って中の様子をうかがった。

中ではお父さんがジムさんに銭湯の入り方を教えていた。


「ライリーさんも一緒に入ったらどうだい?」


お父さんがライリーさんの汚れ具合にそう提案すると慌てて首をふる。


「いえ!領主様と一緒に湯に入るなど出来ません!」


「そうなんですか…」


お父さんは逆に驚いた顔をした。


「銭湯は上下関係なくみんな平等な場なんですが…残念です」


そう言うとジムさんは少し考えた後にライリーさんに顔を向けた。


「ここではそれがルールらしい、ライリー一緒に入ってみよう」


「えっ!!」


ライリーさんは困った子供のようにあたふたしていたがジムさんに促されて諦めたように頷いた。


「こちらに服を置いといてくださいね、貴重品がありましたらこちらのボックスに閉まってください」


そう言って鍵付きロッカーを見せた。


「ここは?」


「鍵が付いてるから勝手に開けられないようになってるんですよ」


「ほぉ…」


ジムさんは興味深げに扉を開けたり閉めたりしている。


「高価な物や盗まれて困る物を入れるんです」


お父さんがジムさんが付けている高そうな装飾品を指さした。


ジムさんは装飾品を外すとロッカーに入れて鍵を回した。


「そこ鍵は手首につけられるので自分でしっかりと持っていてください」


「では領主様私がお預かりします」


ライリーさんが手を差し出して鍵を受け取ろうとするとジムさんは少し考えて鍵を自分の手首につけた。


「いや、これは私が持っていよう」


なんだか嬉しそうに鍵を見つめている。


「そうですか…」


逆にライリーさんは残念そうに差し出した手を提げた。


「ライリーさんも貴重品預ければいいじゃないですか」


私が番台から声をかけるとライリーさんは悲しそうに首を振る。


「いえ、私は貴重品を持っていませんので…あるのは槍くらいです」


「プッ!」


私は思わず笑ってしまった。


よく親子で銭湯に来る子供と同じような反応におかしくなってしまった。


「次に来る時は貴重品を持ってきます!」


変な決意に私はご自由に…と苦笑した。

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