第4話

私達は家に着くと鍵を開けて中へと案内する。


「あっ!靴は脱いでください!」


ブーツのまま入ろうとする人にお母さんが声をあげた。


「す、すみません!」


大人しそうな母に怒られて鎧の人が慌ててブーツを脱ぐ姿に思わず吹き出してしまった。


お母さんは家に戻って来たことで少し自分のペースを取り戻したようだった。


家の中をお母さんがジムさんに案内する。


ジムさんは興味深く家の物をじっくりと眺めて時折お母さんやお父さんにこれは何かと聞いていた。


一通りみて武器や変なものは無いと確認したのかジムさんがフーっと息を吐いた。


「危険な物は無いようですが…見たことも無いものが多いですね」


「そうなんですか?」


お母さんは呑気にお茶を用意してジムさん達に振る舞った。


「これは!?」


「粗茶ですがどうぞ」


「お母さん、お水出たの?」


「あっそう言えば普通に使えたわ」


お母さんは今気がついたようでハッとしている。


私は電気を付けてみるとパラパラと明かりが付いた。


「どうなってんだ…?」


外に出て電線の様子を確認して見ると空中に電線が刺さっているように見えた。


「なんかここの空間だけ切り取られてる感じがしない?」


家の周りだけ違う空間にあるような雰囲気だった。


「家ごとここにあるだけでもわけがわからんのに、もう何があっても不思議じゃないな」


お父さんは疲れたのか頭を抱えて考えるのを放棄していた。


「よかったー、なら料理は出来るわね」


お母さんののんびりとした喜ぶ声に肩の力が抜けた。


私達の様子にジムさんは申し訳なさそうに声をかけてくる。


「お取り込みのところすみませんが、隣の御屋敷も拝見しても?」


「ああ、すみません。隣は銭湯なんですよ」


「せんとう?」


「お風呂の事です。こちらの人は銭湯には入りませんか?」


「せんとうはわかりませんが風呂ならあります。庶民は毎日入るなんて贅沢は出来ませんがね」


「えー!毎日お風呂に入らないんですか!?」


私はそんなの無理と大声をあげた。


「体を拭いたりですませますね」


「お風呂って気持ちいいのにね」


なんかお風呂の良さを知らないなんてもったいないと思ってしまった。


「そうだ!お父さんジムさんに銭湯に入ってもらおうよ!そしたら私達が敵意はないってわかって貰えるんじゃない?」


「せんとう…確かに少し気になりますね。それにちゃんと調べて見ないと…ヨウジさんお願い出来ますか?」


ジムさんは私の言葉に入ってみたいと言ってきた。


「でも、ここで湧かせるのか?」


「だって電気も水も使えるなら大丈夫でしょ!」


「ちょっと様子を見てくるから待っててくれますか?」


ジムさんが頷くとお父さんとおじいちゃんがボイラー室へと向かおうとするとジムさんが声をかける。


「あっ、すみませんが一応人を付けても大丈夫ですか?」


最初に私達のところに来た鎧の人を前に出した。


「ライリーと申します。この街の騎士です」


「ライリーです。先程は失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」


ライリーさんは深く父とおじいちゃんに頭を下げた。


「いや!大丈夫ですから顔をあげて下さい。ついてくるのはいいんですが…中は熱いですよ」


「そのくらい我慢します!」


ライリーさんは大丈夫だと着いてくることになった。


父とおじいちゃんは顔を見合わせて困った顔をするがまぁ大丈夫かとライリーさんを連れて中へと移動する。


私とお母さんは入口を開けて脱衣所と浴槽の準備をすることにした。


「ここも土足禁止です。靴はここに…って入りませんね…」


下駄箱があるがブーツが入れるような大きさでは無い。

仕方ないので床に並べて置いて貰うことにした。


私達が慣れた様子で脱衣所の準備をしているとジムさんが興味深く声をかける。


「ここは何をする場所ですか?」


「ここで服を脱いで浴槽に行きます。こっちは女性用で母が行った方が男性用になります」


そう言うとジムさん達は慌てて男性用に移動した。


女性はこの中にいないようなので今回は男性用だけを用意することにした。


私は浴槽からボイラー室に向かって父たちに声をかける。


「どう、使えそう?」


「おお、大丈夫そうだが火を炊かないといけないからすぐには入れんぞ」


「だよねー」


私は扉を閉めるとお母さんの元に向かってお湯がわかせることを伝えた。


「ジムさん、入れるんですが準備に時間がかかるんですがどうしますか?」


「どのくらいかかるのでしょう?」


「えっと…六時間もあれば大丈夫だと思います」


「六時間…半日ほどですね。ではその頃にまたうかがいますが、兵士は残すことになりますが…」


「わかりました…」


私達は物々しく残される兵士さん達を見つめた。

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