第3話
中へと入ると広い部屋の真ん中に男の人が一人と壁際にまた鎧の人が数人並んでいた。
真ん中に立つ男が領主のようでまるで昔の貴族の様な人が着る服を着ている。
その姿は髪は茶色く、瞳はブルーで外国人のようだ、言葉が通じるか不安になっていると…
「初めまして、私はこの街の領主のジム・クラークと申します」
流暢な日本語で話し出した。
しかも笑顔を見せて手を差し出してきた、その姿に敵意は感じられずに少し安堵する。
「あっ、すみません。私は福田 湧治で妻の泉、父の温男に娘のマキです」
「ユウジにイズミ、アツオにマキ…あまり聞きなれない名前ですね」
ジムさんは顔を顰めながらも父と握手を交わした。
「すみません、我々も何がなんだか…朝起きたらここにいつの間にかいたのです」
父の言葉に部屋にいた人達がざわついた。
「そうですか、もしかしたら妖精のイタズラにあったのかもしれませんね」
「「妖精!?」」
ふざけているのかと思ったがジムさんの顔は真剣な表情だった。
詳しく話を聞いてみるとこの国では時折いきなり見知らぬ土地に連れていかれたりする事があるらしくそれを妖精のイタズラと呼ぶらしい。
話を聞いて半信半疑だが今の状況を考えるとあながち間違えでもないのかもしれないと思ってしまった。
出なきゃここに家ごと来た理由もどうやって動かしたのかもわからない。
「それで…帰れたりは…」
お父さんが恐る恐る聞くとジムさんはすまなそうな顔をして首を振った。
「今まで妖精のイタズラになってそのまま帰ったという人は聞いた事がありませんね…希望を捨てずに自分の土地を探して旅立った人はいるらしいですがその後の消息などはわかっていません」
「そんな…」
私は絶望から肩を落とした。
「皆さんの危険性が無いことを証明出来たら街でできる限りの保護と支援はします。なので今度はそちらの状況を話して貰えますか?」
保護と聞いて父は私達の顔を見渡してわかったと頷いた。
「どうすれば敵意は無いと証明出来ますか?」
「あの現れた屋敷を見せて頂けますか?」
「わかりました、案内します」
父が素直に頷くと部屋にはホッとした雰囲気が漂った。
どうやら私達女性がいた事もありあまり警戒はされていなかったようだが、屋敷をすぐに見せると言ったことでその信憑性がましたようだった。
ジムさんが準備をする間私達は少しその部屋で待たされる。
その間終始無言で私達は座っていた…今後の事を考えると不安しかなかった。
もうあそこには帰れないのか、友人達にはもう二度と会えないのか…
色んな事が頭を駆け巡りじんわりと目に涙がたまる。
すると父と母がその手をそっと掴んでくれた、そしておじいちゃんが肩に手を置いた。
「お前のことはじいちゃん達が絶対に守ってやる」
おじいちゃんの力強い手の温もりに体にじんわりと血が通う感じがした。
いつの間にか手が凄く冷たくなっていたみたいだ。
「うん、家族でこれただけよかった。みんなと一緒なら何とかなるよね」
私達は手を繋ぎあった。
するとジムさんが用意が出来たとまた外へと促される。
するとそこには大きな馬と馬車が用意されていた…
「お乗りください」
燕尾服の白髪の男性が手を差し出した。
「え?え?」
私とお母さんは迷ってお父さんを見た。
「これに乗るんですか?」
「はい、何か問題でも?」
ジムさんも中々乗ろうとしない私達に声をかける。
「いや、馬車なんて乗ったことがなくて…ちょっと怖いな」
お父さんは馬をみて顔を青くしている。
どうも大きな動物が苦手みたいだった。
「乗らんと先に進まんだろ」
するとおじいちゃんがドカドカと馬車に乗り込んだ。
「ほれ早くしろ」
お父さんに手招きするとお父さんは仕方ないと諦めて馬車に乗り込んだ。
お父さんがお母さんと私の手を掴んでみんなで馬車に乗った。
ジムさんは違う馬車に乗るようでこの馬車に乗ったのは私達だけだった。
「このまま崖に落とされたりしないよね…」
私は思わず不穏なことを言ってしまった。
みんなは黙ってお互いの顔色を見ている…するとがたっ!と馬車が石か何かを踏んで大きく揺れた!
「「ぎゃあ!」」
私とお母さんはお互い抱き合って叫び声をあげてしまった。
「なんか踏んだだけだ、た、多分大丈夫だ!」
お父さんが不安げに私達を落ち着かせようと声をかけるが、何となく落ち着かなく私達は馬車に揺られていた。
行きより長く感じた時間は過ぎて私達の家へと着くと馬車が止まった。
地面に降りるとフーっと深く息を吐く。
「すみません、乗り心地が悪かったでしょうか?」
ジムさんが降りてきて申し訳なさそうにする。
「あっ!いえ大丈夫です。このまま崖に落とされたりするのかなーなんて心配しちゃって」
冗談めかして言うとジムさんは驚いた顔をした。
「そんな事は絶対にしませんから安心してください。妖精のイタズラで現れた方に危害を加えると災いがおきると言われてますから安全がわかれば皆丁重におもてなししますよ」
ジムさんがニッコリと安心させるように笑うが私は笑顔を返せないでいる。
じゃあ安全が確認出来なかったら?
しかしそれを聞く勇気はなかった…
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