夜に活発になり、昼は寂れる町

!~よたみてい書

ルォシーとアダム

 ベンチの上で横たわっていた黒髪女性は、ゆっくりとまぶたを開き、


(……ん。あれ、わたし寝ちゃってた?)


 そして、身をゆっくり起こし、正面をぼんやりと見つめ続け、


(……ん? ここは、一体どこ? 公園?)


 黒髪女性の周辺には草木がしげっている広場が広がっていた。


 また、砂地になっている場所では子供がはしゃぎ回っていて、それを遠くから大人の女性が見守っている。


 そして、黒髪女性の近くに座っていた金髪の男性は、安堵の表情を彼女に向けながら、


「あっ、起きましたか!? 良かったー」


「哎呀!?【わぁっ!?】」


 黒髪女性は目を見開きながら金髪男性の方に振り向く。


 金髪男性も少し驚きながら、


「WoW!?{おわっ!?}」


「誰ですか!? もしかして、わたしをここに連れてきたのはお兄さんですか!? えっ、まさか誘拐ですか!?」


「違う違う! なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ!」


「それは、人気ひとけのない場所で、道徳的によくないことをするために決まってるでしょう!?」


「その道徳的によくないことをするなら、なんで人の目がある公園に連れてきてるんだよ! 矛盾してるじゃないか!」


 黒髪女性はしばらく黙り込み、周囲を見渡す。


 そして、不安そうな表情で語気を強めながら、


「今の公園の人通り、多いとは言えないじゃない!」


「確かにそうだけど! でも、まったく居ないってわけじゃないし」


「いやあぁぁ! 襲われるー! だれか助け――」


「お願いだよ、俺の話を聞いてくれ! 家に帰ろうとしていたら、道端で倒れている女性を見つけたんだよ! つまり、お姉さんが倒れてたから、一旦安全な場所に運んできたんだよ。それで、静かで日陰のベンチがいいかなーって」


「……それって、病気やケガだったら、わたし手遅れになってない?」


「確かに。……あぁ、なんていうことだ。俺は一体なにをやってるんだ……」


 金髪男性は頭を抱えながら取り乱す。


 黒髪女性は強張った笑みを作りながら、


「あーはいはい、分かりましたよ。お兄さんが悪い人じゃないってのは理解しましたから、落ち着きましょう、ね?」


「あ、うん。……本当に申し訳ない。選択を誤ってしまったよ」


「いいからいいから! ほら、お兄さんのおかげでわたし元気に目覚めたんだし、気にしないでよ!」


「いや、でもそれは結果論だから……」


 黒髪女性は腕を組みながら遠くを見つめ、


「うーん、今日のわたしどこか体調悪かったのかなぁ? わたしは今日健康的だったと思うんだけど、体のほうは静かな悲鳴を上げていたのかな? うーん、不覚! ……あっ、そういえばまだ名前を名乗ってなかったね。わたしはルォシーだよ」


「俺はリアム」


「あ、やっぱり?」


 リアムと名乗った金髪男性は首をかしげながら、


「やっぱりってのは?」


 ルォシーと名乗った黒髪女性は視線をリアムの頭頂部と腰を往復させて、


「どう見てもこの国の人って雰囲気じゃなかったから……」


「だよね。というか、ルォシーさんもこの国の言葉じゃないのを口にしていたような?」


「うーん、正解! 鋭い推測力と記憶力だね。あ、わたしのことは呼び捨てで大丈夫だよ」


「そう? なら俺も呼び捨てしていいからね。それでルォシーはもう体の方はもう大丈夫そうかな?」


 ルォシーはベンチから立ち上がり、両腕を上に伸ばし、


「うん、リアムのおかげで大丈夫だよ。ありがとね」


「そっか、それならよかった」


「うん。それで、今度はわたしがリアムの事を助けてあげたいな。なにかしてほしいことある?」


「そんな気を遣わなくていいよ。貸し借りとか無用だから」


 リアムは横に置いていた鞄の中身を確認し、背負いながら、


「よし、じゃあそろそろ俺は帰るよ。意識を失う前に助けを呼ぶ練習しときなよー!」


 リアムはベンチから立ち上がり、ルォシーに振り向き軽く手を振りながら遠ざかっていった。


 ルォシーはリアムの後ろをついていき、


「そんなこと言われても、借りを作るのはイヤ! リアム、なにか困りごととかはない?」


「困りごと? ……ルォシーには関係ないから、大丈夫だよ。それじゃ!」


「待って! 今回のお礼をさせて!」


「うーん、気持ちだけで十分だよ! 俺が好きでやっただけだし。それじゃ、元気で!」


「待って! わたしの気持ちも考えて! なにか恩返しさせて!」


「いらないよ!」


「軽くでいいからなにか――」


「俺、もう帰るから! ほら、暗くなるよ!」


「わたしの気持ちが暗くなるから、なにかお礼――」


 リアムはルォシーから逃げるように小走りを続け、


「ついて来ないで!」


「どうして逃げるの!?」


 リアムは無言を貫いたまま駆け続けていく。


 また、ルォシーも真剣な表情を作りながら移動速度を上げていった。

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