パフェを作る(冒険者仲間との再会)
「えっ。パフェって自分で作る事が出来るんですか?」
私が驚いて声をあげると、ファルシアは楽しそうに笑った。
「そうよ―リリーちゃん。今度うちでパフェ作りましょう。たくさん作ってお客にふるまうから、リリーちゃんも一緒に作ってついでに食べて行って」
ファルシアのお店はお酒が出てくる高級店だ。
大人の男性向けというお店で、パフェをたくさん並べて食べる人が居るのだろうか?
私は心配になった。
「あの……、材料が無駄になったりしませんか?」
「そこは心配いらないわ。甘いものが好きな男性って意外と多いのよ」
「そうなんですね! パフェはともかく美味しいですもんね。美味しい物には男女差なんて関係ありませんよね!」
「男女関係ない奴がやってる店だしな」
パフェの説得力に私が頷いていると、後ろからミカゲの呆れたような声が聞こえた。
「そうですね。性別を超越した美しさ……」
「リリーは甘いものとファルシアの前ではちょっとあほになるよな」
「素晴らしいものの前では人は無力です」
「怪しい宗教に入ったりしてないだろうな」
ミカゲが疑わしそうに言い、私は無罪を表すために首を思いっきり振った。
「あらあら、ミカゲは私とリリーちゃんのデートが気に入らないのかしら」
「それは気に入らないであってる」
「ふふふ。じゃあ特別にミカゲも招待してあげるわ。懐かしい人もくるからそのままお酒も飲んで行ったらどうかしら」
ファルシアの言葉に、ミカゲは虚を突かれた顔をした。
「お前のそいうところ……」
「好きでしょ?」
ファルシアがにやりと笑い、ミカゲは苦い顔をしてそれには答えなかった。
「うわー……うわー……」
「なんだか張り切っちゃったわ」
ファルシアが並べてくれた材料が、キラキラと輝いて見える。
指定の昼過ぎにミカゲと共にファルシアの店に行くと、大きなテーブルに既に準備がされていた。
色とりどりのフルーツ、クッキー、ゼリー、ムース、そして驚くべきことにアイスが3種類もある。
全てが板の氷の上に並んでいて、非常に高級感がある。
グラスは可愛いワイングラスが何個も用意されていて、見ているだけでもうわくわくする。
「こんな氷……高かったんじゃないですか?」
「今日は手伝いが居るから。ねえちょっと、グラッグ!」
ファルシアが呼びかけると、体格のいい大きな男の人が店の奥から現れた。短い髪で服を着ていても見える筋肉が、いかにも冒険者と言う感じだ。
グラッグはミカゲを見ると、その印象通りに大きな声で笑った。
「おーミカゲ! 久しぶりじゃないか! 呪いが解けたってまじかよ! 良かった心配していたんだ」
「……やっぱりお前か、グラッグ」
ちょっと嫌そうに顔をしかめつつも、ミカゲの声は嬉しそうだった。
「お知り合いなんですか?」
「ああ、冒険者仲間だ。……だった、かな」
最後は苦笑してミカゲが付け足すと、突然ミカゲは私の事を抱き寄せ手を前に出した。
パチッと音がして、あたりが一瞬明るくなる。何が起こったのかわからなくて目をぱちぱちと瞬くと、グラッグは呆れたように笑った。
「なにが冒険者仲間だっただよ。今もだろ!」
「……ああもう。リリーも居るんだぞ危ないじゃないか」
「お前があれぐらいでやられるなら、なまりすぎだろ」
「グラッグこそ、あんなぬるい攻撃じゃすぐにやられるぞ」
二人は軽口を言いあい、にやりと笑った。
「ちょっと! 店で攻撃魔法を使うのは禁止よ!」
ファルシアが厳しい声で注意したが、二人は気にした素振りもなく言い放つ。
「どうせ壊れないだろこの店」
「何かあればここに逃げるのが一番安全なぐらいだよな」
パリン、と音がして二人の壁の後ろでグラスが割れた。
……全く見えなかったけれどファルシアが投げたように腕が前に出ているから、もしかしたら投げたのかもしれない。
冒険者同士の高度なやり取りに戦慄していると、三人ははっと私に気が付いたようにこちらを見て、謝ってきた。
「ごめんなさいねリリーちゃん! 馬鹿二人と一緒に居たら私まで馬鹿になってしまったわ! 恐ろしい話ね」
「わーリリー、びっくりしたよな! ごめん全然争ってないし安全だしファルシアは少し怖いしグラッグは見た目が怖いけど大丈夫だから!」
「ああ、初対面なのに申し訳ない。少しふざけてしまった。これからよろしくお願いします可愛いお嬢様」
グラッグは思いもよらない優雅な仕草で私に手を差し伸べた。恐る恐る手をとると、優しく握られ微笑まれた。
「……駄目だぞグラッグ」
「リリーちゃん。グラッグはこんな見た目で紳士的なギャップを狙っている策士よ。しかも魔術使いなの! この筋肉は無駄についているのよ!」
「無駄じゃない。魔術師に当然筋肉だって必要だ」
二人が楽しそうに言いあっているのをみて、思い当たる。
「この板の氷って、もしかして」
「そうよ! この男が出したから無料よ! リリーちゃんも何かあれば言って。いつでも派遣するから」
こんな大きな板で綺麗な四角い氷を出せるのは相当な技量だ。冷やして作る色々を思い浮かべ、魅力的な提案に思わずぼんやりしてしまう。
「代金はミカゲに請求するから大丈夫だ。安心していつでも言ってくれお嬢様」
「……久しぶりに会ったけれど、頼み事でもあるんだろどうせ」
ミカゲが半眼で抗議すると、悪びれずグラッグは笑った。
「それはあるけどな! 今日は久しぶりの再会とパフェを楽しもうじゃないか!」
「まあ、そうだな!」
「呪いが解けたミカゲの祝いも兼ねて!」
素敵な提案に、私は心が弾んだ。
ミカゲの仲間はミカゲの事が大好きそうで、軽口に私も入れて貰えてなんだか仲間になったみたいだった。
パフェは夢のように美味しく、大半は客ではなくグラッグのお腹に納まった。
*****
今年もカクヨムコンに参加させて頂く事にしました!
長編を連載しているので、是非読んでいただけると嬉しいです。
『黒聖女は今生では騙されずに一人で生きていく!…でも呪われた公爵様と結婚する事になってしまってます』
というタイトルです。
毎日更新予定。完結まで書いてあります。(ラストは書いたものの迷っていますが…!)
よろしくお願いいたします。
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