第27話 人生のスピード

一昨日更新し忘れてしまっていたので、昨日2話更新予定でしたが出来ていませんでした

今日2話更新しますので、よろしくお願いします!

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「なんだかミカゲさんと知り合ってから人生のスピードが速くて動揺しています」


 なんだかまだ夢の中に居るようなふわふわした気持ちで、お茶の湯気を見つめる。


 あれからファルシアと不動産屋に行って、物件を確認に行った。

 ファルシアのお店から本当にすぐ近くの売り物件で、私の手持ちの半分ぐらいで買えるという事だった。次は商業ギルドに連れて行かれる予定だ。

 ここで開業届諸々の手続きを行うらしい。


 ファルシアは冒険者の時も手続等の仕事はすべてやっていたみたいで書類仕事も大得意だという。

 ミカゲは手数料が高いと笑っていたけれど。


 仕事も早く、行動力がある。

 見習いたい人だ。


「リリーもそうかもしれないけど、俺もそうだ」

「ミカゲさんは、そんなに変わりましたか? どっちかというとゆっくりできていて欲しかったので、びっくりです」

「うーん。リリーのおかげでゆっくりはしている。でも、人生についての決断がなんだか多い」

「ええ。そんな場面ありました?」

「そうなんだよ。不思議なんだけどな」


 ミカゲはなんだか嬉しそうに笑った。


「明日も、私は決断の連続になりそうです……」

「店の手続きは、ファルシアに任せておけば間違いないから……多分」

「なんで、多分なんですか?」

「あいつ、結構あくどいからなあ……。まあ仕事は問題ないから、リリーには優しいだろきっと」

「全体的にひっかかりますね。でも、素敵な人ですよね本当に」


 はきはきした話し方に、綺麗な身のこなし。そして、仕事に対する自信。どれをとっても、憧れざるを得ないものだ。


「リリーはファルシアの事気に入ったのな」

「はい。佇まいも素敵ですし、それに、とってもいい匂いですし……」

「匂い……あれは本当危険だな気をつけろ。なんだあれ呪いのアイテムとかじゃないだろうなまじで。……でも、気が合ったのなら良かった。来週から夜はファルシアのところに行ってくれ」」


 急な提案に慌ててしまう。

 まさか、見限られたのだろうか。


「あ、あの。まだ契約は終わってなくて、私、ポーションも作りますし、まだ研究はこれからですけど特級のポーションも作れるように頑張りますので……」


 殆ど泣きそうになりながら言い募ると、ミカゲは不思議そうに首を傾げて私の頭を撫でた。


「なんでそんな顔するんだ。後地味に特級ってなんだよ。聞いたことないぞ」

「契約が打ち切られるのかと……。特級はミカゲさんが冒険者に戻った時に便利かなと思って、まだ、全然できてませんけど」

「打ち切るはずないだろ。こんな好条件ないんだから。それに特級なんてできたら、俺だけじゃなく色々なところから押しかけられるぞ」


 そういって安心させるように、ミカゲはいたずらっぽく笑った。

 そうなんだろうか。契約が続くならお金なら倍払っても全然良い。

 そんなこと言ったら引かれそうだけれど。


「頑張りますね!」

「やりすぎない程度に期待してる。居ない間の事は、ファルシアにはもう頼んである。……あと、リリーの家族についてだけど、しばらく来ないらしいから、家を空けていても大丈夫だ」

「……アンジュに、会ったんですか?」


 思いもよらない言葉に、声が震えそうになるのをこらえる。悟られないように出来ただろうか。

 さり気なくミカゲの方を見ると、気にした様子もなく不思議そうな顔をしている。


「アンジュ? それは妹の名前か? リリーが居ないときに言付があったんだ」

「そうだったんですね……」


 来たのはアンジュではなかったようだ。アンジュの相手の貴族の下働きのものだろうか。アンジュとミカゲが会ったわけではなかった事に、息を吐く。


 まだ、大丈夫だ。


 そして、自分が思った以上にアンジュに会うことに、緊張をしていたことに気が付いた。あんなに居なくなって悲しかった家族なのに。

 アンジュに会った途端、卑屈な自分に戻る事も怖かった。先延ばしになっただけだけれど、安心する。


 薬屋を開いた場合、また助け合いと称して頻繁に来るだろう。

 私はため息をついた。


「それで、二週間程度、ギルドの依頼を受けることになったんだ」


 さり気ない口調でミカゲが続けた言葉の、その内容に驚いてアンジュの事が一気に飛んでしまった。


「え! ギルドの依頼ですか? あの、大丈夫ですか」


 ミカゲはギルドの依頼が嫌で、私の依頼を受けてくれたのではないだろうか。

 そんな気持ちを読み取ったのか、ミカゲはまっすぐと私の事を見た。


「リリーと一緒に居て、今の生活はすごく楽しい。でも、やっぱり冒険者としてやらなきゃいけない事はあるんだ。……秘密だけど、リリーの為でもある」

「私の為?」

「今回の依頼……すごくいい魔物素材が取れるんだ!」

「わー! すごい! ……って、誤魔化されそうになったけど、駄目ですよ。意味がわかりません」


 ミカゲはそっぽ向いてとぼけた顔をした。


「まあでも、俺は実際この生活が気に入ってるんだ。ギルドから逃げたかったのは本当だし、リリーには感謝してる」

「ええと、気に入ってるなら、良かったです」

「そう。だから依頼のある期間分は、契約終了を先延ばしにしてくれると嬉しい。リリーが嫌なら期間分返金ももちろんできるけど」

「いえいえ! 私もミカゲさんが居てとても楽しいので! 契約ならそのままのが断然いいです!」

「じゃあ、まとまったな」


 まとまったのだろうか。

 取りあえず雇い主として、期間中に契約が履行できない事への許可を出したからいいのかな?

 ちょっと首を傾げてしまう。


「それって、依頼は危なくないんですか?」


 ミカゲは初めてあった時ぼろぼろだった。依頼帰りだと言っていたので、怪我が恐い。もっと最悪な事も……。そう考えてしまい、頭を振る。


「俺ぐらいならそんな危険な事はないだろう」

「急に自信ありげですね」


 ミカゲの偉そうな言い方に笑ってしまう。ミカゲは不安を払う天才かもしれない。


「……後、俺の為の依頼でもあるんだ。二週間もあれば、終わるから。……できたら、その、待っててほしい」

「えっ。あの、……私、待ってますね」


 人を待つなんて、初めての事だ。


 寂しいと同時に、なにか温かい気持ちになる。

 契約上の事だとしても、信頼関係が出来ていると思っていいのではないだろうか。

 かなりの前進だ。


 私は嬉しくなって、ミカゲの手を掴んだ。


「お土産、期待してます!」

「おう。驚くようなのを用意しておいてやるよ!」


 図々しい私のセリフにも、ミカゲは満面の笑みで返してくれた。

 これだけで十分な程に。

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