第23話 【SIDE:ミカゲ】初恋の相手
ミカゲはため息をついて、順を追って説明することにした。
その前にと、酒を頼む。
このところの生活の変化を話すには、酒が入った方がいい。渡された酒は、ミカゲがいつも飲んでいた度数の強いものだ。喉がかっとなる感じが懐かしい。
そして、リリーと出会ったこと。ギルドを通して雇われたこと。呪いを言い当てられたこと。ポーションを作ってもらったこと。
自分でも信じられないここ最近の話を、言葉を選びながら話した、
ミカゲの話を、息を詰めるように聞いていたファルシアは、ミカゲの顔をまじまじと見た。
「なんだか、全体的に信じられない話だな……。ああもう。今日はもう店じまいにしよう店主は頭が痛いよ」
ファルシアも、ミカゲと同じ酒を飲みながらため息をついた。
「すまない。なあ、リリーは天使なのかな?」
「お前頭どうした。別の呪いにかかったのか?」
「いやだって、ぼろぼろの俺に話しかけて、しかもギルドに使われてて可愛そうだからと雇ってくれたんだぞ?」
「確かにそれはすごい。というかさー、お前お金持ちなんだから、可愛い女の子から金とるなよなー」
「いや、それは……。その時は、まだギルドの方と離れるわけにはいかなかったから。金もとらずに雇われたら、契約を認めないだろうし」
ポーションを失うわけにはいかなかった。
あの時点では。
「まあそれはそうだけど、リリーちゃんにとっては所詮お金で雇った男だなーペット代わりに置いてやってる程度かもなー」
「やめろ! あと、どさくさでリリーちゃんとか呼ぶな図々しい」
「お前言い方ひどくないかー? リリーちゃんもこんな粗暴な男は嫌だよねー」
見た事もないリリーに同意を求めるように首を傾げるファルシアに殺意が生まれる。
当然図星だからだ。
「それは今後挽回する予定だ。問題ない。俺だって伊達にSランクじゃないし」
「そもそも何でSランクって言わないの? 少しはアピールになるかもよ」
「それは、その、リリーが見る目が変わるかもしれないと思って、嫌だったんだ……。今はそんなはずないってわかってるんだけど、言いにくくなってしまって。リリーは驚くほど世間知らずだから、アピールと言ってもSランク自体良くわかってない気もするし。本人がまずとんでもないし」
「まあ、ランクで寄ってくる人は居るよね。特にミカゲは顔も整ってるし。顔でもなく、肩書でもなく、それでも優しくしてくれる人なんて貴重なのはわかるけどねー」
「そうだろう? お前もわかるよな!」
「でも、今やただの嘘つきに近くなってるけど……」
「ううう。言わないでくれ……」
ミカゲがぐぐっと酒をあおると、ファルシアは呆れたようにため息をついた。
「今まで女の子なんて、まったく興味なかったのにねえ。仕方ないなー遅い初恋って奴なのかなー」
「初恋っていうのやめろ」
「それでミカゲ君は一体何の相談に来たのかなー。天使へののろけだったら温厚な俺もさすがに怒るよー」
「のろけたいけど、それは後だ。あのな、リリーは、家族から冷遇されてたんだ」
「ええ! 天才なのに? 逆に天才だから嫉妬されたとか?」
「嫉妬とか以前だな……。リリーは生活を切り詰めてずっと送金させられてた。それなのに、妹が貴族に囲われて、家族ごと引っ越したらしいんだよな」
「あー貴族かあ。金持ちと権力で舞い上がったのかもな。金持ちが居れば、姉の送金はもう必要ないから切り捨てたのか。やばいな」
「他にできることがないからと、勉強と家事だけさせられてきたらしいんだぞ。両親は何故か妹だけ可愛がっていたんだ。それだけなら、まだいい。自分から居なくなってくれたのなら、逆に有り難いだろう。だけど、今度はまた急に現れてリリーにたかろうとしている」
「うわーなんだその最低な家族は」
「スラート伯爵ってわかるだろ。妹が愛妾をやってるのが、あいつの所らしい」
「それはまた、趣味が悪いなあ」
「今、あそこが裏で売りさばいているポーションが不足しているらしいんだよな。それでリリーの事を思い出したのかもしれない」
「薬師って貴重だからねー。通常はどこかにお抱えになっちゃうか王城で働いてるから、なかなか見つからないよね。伯爵お抱えの薬師は今トラブルで居ないよー。こき使いすぎて逃げられそうになったところを処分されたんだねー」
「……お前何でも知ってるな。リリーの所に来る前に、ギルドを通して俺がポーションの融通が出来るとスラート伯爵にアピールしたんだ。それで、リリーには会わせずにこっちに交渉に越させる予定だったんだが、リリーに直接来てしまったんだ」
「お前の失敗それ酷くない? 知ってたならもっと対策打てよーリリーちゃんに何心労かけてるんだよー。それに、そんなクズの家族がたかりに来たって大丈夫なのか? 薬師だって伯爵に知れたら、たかりにに来るだけじゃなくて捕まえに来るんじゃないかな」
「大丈夫じゃないから、相談に来た。……あと、俺の失敗は良くわかってるから言わないでくれ」
「お前、本当そういうところ弱いよなー。Sランクってもっとずっと影響力あるんだぞー。それこそ貴族と直接交渉出来るぐらいには」
「え! そうなのか?」
「伯爵ぐらいなら全然。流石に呼び出したりはできないけどな」
「まじかー変な小細工してる場合じゃなかったわ」
「まあな。でも逆に言うとお前を通すとはいえ、あんな後ろ暗い奴にポーションの融通をしたらリリーちゃんの経歴に傷がつくよ。当然お前にもだけど、冒険者なら多少甘いところがあると思う。薬師は、下手すると資格のはく奪もあるから気をつけろよー」
「それは、絶対に避けたい。リリーは薬屋を開きたいそうなんだ」
「それならまずいな。家族に融通させるのも止めた方がいい。でも、貴族と平民じゃ、揉めた時に不利益がありそうだからなあ……なにか策を考えないとな」
「うう。助かる。あと、家族には後悔させてやりたいが、リリーには、知られたくないんだ。これは、俺の気持ちの問題だから。その方向で頼む。……それで、対価は?」
「うーん、そうだなー。色々欲しいものはあるけど……うん。アルティガスの鱗で手を打とう」
そう言って嬉しそうに笑うファルシアが悪魔に見える。
ファルシアは素材マニアなので、他の人が避けて通る手に入りにくいものばかり頼んでくるのだ。
アルティガスもここから1週間はかかる所に生息する竜種で、さらに言うとダンジョンの最下層にしか住んでいない。
でも仕方ない。
自分の気持ちの為に。
「捕ってくるから、俺にも素材として保存魔法をかけてから寄こせ」
魔物素材を喜ぶ彼女の笑顔を思い出し、やる気を出すことにする。
「加工代はとるよ。あ、でも成功報酬でいいからなー。じゃあ、作戦会議だな。うーん、きっとリリーちゃんの為にも、正攻法の方がいいよな」
自信ありげに笑う顔は、いつも頼りになる仲間のファルシアだった。
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