第5話 一緒に住む
「というわけで、条件は決まった」
呼び出しベルで現れたミチルは、ミカゲから条件を聞いて悔しそうに頷いた。
「三ヶ月ね。……上手く落としたわね。わかったわ。それなら契約に関してはギルドも、これ以上立ち入ることはできない。契約書を作りましょう」
契約書という言葉に、私は緊張したまま頷いた。
しかし私の不安をよそに、二人は契約に慣れているようだった。
作成はするすると進み、あっという間に契約書は出来上がった。
契約書に使われている紙は本人の魔力を読み取るもので、契約はかなり拘束力の強いものだった。
これだけで金貨一枚はしそうだ。
最後にギルドのカードで支払いをして、終了だ。
「……ミカゲを三ヶ月雇って家賃も含んでの金貨二十枚とは破格だわ」
「そんなの仕事内容によるだろ」
ミチルが眉を寄せて呟くと、ミカゲは吐き捨てるように言った。あっち行けとばかりに手を振る。
「え! この額じゃ足りませんでしたか?」
人を雇ったことがなかったから知らなかったが、冒険者を雇うのは非常に高いのかもしれない。
私が追加のお金を申し出るべきかあわあわしていると、ミチルが驚いた顔でこちらを見た。
「もしかして、知らないの?」
「やめろ、ミチル」
ミカゲは止めようとしているけれど、正当な報酬じゃないのは良くない。どちらかと言えば高いと思っていたぐらいだったのだ。
「冒険者を雇うのは初めてだったので、破格だとは思ってもみませんでした。申し訳ありませんが、正規の報酬額を教えていただけませんか?」
「リリー、これで正規だ。契約はお互いの条件が合致すれば問題ない。ギルドにだって手数料が入るのだから、損のはずがない。そうだろう?」
私はミチルに向かって聞いたけれど、ミカゲが強い口調でそれを止めた。ミチルは諦めたように、ため息をつく。
「そうね。私が言う事じゃないわ。後は二人で話し合ってちょうだい。ミカゲが戻ってくる三ヶ月後を待っているわ」
そして、事務的な笑顔で綺麗な挨拶をした。
「また何かあったら、すぐに聞いてくださいね。何事もなく契約が満了することを祈っています」
**********
「この後は、とりあえず荷物だな。近くに居ないと護衛もできないから、同じところに住むのが望ましいな。リリーは、定住は決まっていないと言っていたが、今どこに泊まっているんだ?」
「昨日はそこの大通りを入ったところの『コマディア』という宿屋に泊まってました。荷物もまだそこに預かってもらっています。今日はまだ決めてませんが、何もなければそこにしようかなと。ご飯も美味しかったですし」
「……あそこ、冒険者だらけだよな。普通の女の子が一人で泊まる所じゃない気がするけど、なんでそんな所に」
「それはもちろん値段が非常に安かったからです!」
「……今日からは別の所に泊まるぞ。案内する」
苦い顔をしたミカゲを疑問に思いつつも、おすすめの場所があるようなので大人しくついていく。
途中で宿にも寄り荷物も回収する。荷物持ちは仕事に含まれるとミカゲが言い張り、持ってくれた。
そして案内された場所は、城下町の中心にほど近い、つまりはお金持ちばかりが暮らす地域の一軒家だった。
2階建てで、なんと庭までついているその戸建てを前に、私は目を瞬かせた。
「ここって、部屋貸ししてるんですか?」
「なんだ部屋貸しって。どう考えても一軒家だろ」
「なんていうんですか。共同生活的な」
「いや、俺とリリーの二人だけど」
なんて事もないように言うミカゲに、私は慌てる。
「こんな高そうな家、借りられません! 不相応すぎます」
「俺が払うんだから、不相応も相応もないだろ。それは契約の時にも言ったじゃないか」
「それは聞きましたが、まさかこんな高そうな家だとは……昨日までの宿を基準に考えていたので、ギャップに吐き気がします」
「どういう状態だよ。さっきの宿を考えたら何処も天国みたいなものだし。しかも今はリリーも金持ちだろ。この家ぐらいは現金で買って普通に一生暮らせるんじゃないか?」
「……それこそ、不相応です」
遊んで暮らす、という状態が私にはいまいちわからない。
「それよりも普通なら俺と二人、というところに引っかかるんじゃないか?」
何故かミカゲはにやにやとして二人、という単語を口にした。
「二人なら、嬉しいですけど」
私の言葉にミカゲは驚いたようだった。
図々しい発言だっただろうか。
私が首をかしげていると、ミカゲは私の頭に手を置いた。
「……そっか、ならいいや。普段は誰も住んでいないから部屋は掃除が必要だけど、三ヶ月は一緒にここで暮らそう」
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