音楽室の美しい彼女

九重 守

第1話 歌声


 これは他言無用だ。おそらくは、自分だけが知っている秘密。



 昼休み、4時限目の終了を告げるチャイムが鳴るとともに、多くの生徒たちは教室のある校舎から食堂へとむかう。

 けど俺は、食堂へといたる渡り廊下の途中でこっそりと角を曲がり、中庭を通って特別棟に急ぐ。

 階段を駆け上ってゆき、最上階の廊下を奥に進むと、音楽室が見えてくる。


 ~~♪


 あっ、聞こえてきた……!


 足を忍ばせて、雑音を消す。

 扉のそばまでより、耳をすませる。そうすれば、中から歌声が聞こえるのだ。


 ――そう、甘くて美しいけれど、とてもきれいな歌声が。


 これが毎日の楽しみだ。


 数週間前に偶然知ったのだが、今や、昼食の時間をけずってまで足しげくかよう俺は、なかなかのハマりっぷりであろう。


 ――っと、声が聞こえなくなった。


 俺は静かに立ち上がり、この場を去る。

 中をのぞくことはない。どんな子が出てくるかも見たことはない。

 バレたら台無しになる。

 誰にも知られたくないんだ。


 ……そう、これは自分だけが知っている秘密の楽しみだから。



 食堂へとむかうなか、校内放送で曲が流れているのに気づく。

 放送部のお昼の放送であろうか。



 いつか 思いを伝えて

 君の そばにいたいよ

 あの日 出会い

 恋した 場所で

 いつか 思いを伝えて



 それは、青春の甘酸っぱい恋の歌であった。

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