第36話 決着
「ふぅ…………」
俺は深く深呼吸をした。
そして考える。
まずは整理からだ。
なにが起こっているのかもう一度整理してみる。
奴には攻撃が効かない。
そのうえ、その攻撃を吸収して力として蓄え、放つことが可能。
予想だが、あの光り輝く身体にはすべての攻撃をやわらげる柔らかい布団のような役割があるのだと思う。
だからどんな風に攻撃を加えようとダメージは入らない。
「それに…………あの再生能力。異常すぎる。俺の
復活。
たとえ、俺の力で壊したとしてもたったの1つの量子から奴は再生できる。
量子の粒1つ1つにその機能を持たせているのだとしたら大したものだ。
本体を見てみたい。
「それはさておいて。問題はどうやって奴を倒すかだな」
モンスターの方を振り向く。
巨体がじわじわとこちらに向かって来ていた。
「……本当にどうするかな……」
一応、案はある。倒せる可能性がある技は俺は持っている。
だが、使うとすれば最後だ。
危険すぎるが故の諸刃の剣。自滅することもあるかもしれない。
だからその時じゃない。
そんなことをしていると、
「なにぶつぶつと一人でしゃべっているのかな。ふざけているの?」
「…………口に出ていたか。悪いな。あまりにも集中していたもんだから気が付かなかった」
「集中って。さっきまで余裕そうだったのにずいぶんな変わりようだね。やっぱり私たち2人に勝てる人なんていない」
「まあそれはどうだかな。まだ始まってばかりだ。どうなるのか、勝敗は誰にもわからない。わかるとしたら……神ぐらいだ。だからそう簡単に結論づけるなよ」
「馬鹿馬鹿しい。もう結果は決まっているっていうのにさ…………」
迷いがない。
負けるとは一ミリも思っていないようだった。
「舐められたもんだな……」
ここまで馬鹿にされたのも久しぶりだ。
町中で石を投げられるよりも気分が悪い。
こいつには自信がある。絶対に死なない最強のモンスターがいるという自信だ。
だからこそ、その腐った想像を錯覚を……俺が殺してやる。
俺に勝てないと思わせてやる。
意志がかたまる。
「やる気…………みたいだね。今まで貴方ばかりだったし今度は私たちから攻撃してあげるよ。死にたいみたいだし」
「…………」
「やっちゃってよ。あんな……小物、殺してしまいなさい」
女が言う。
すると、竜は動き出した。
大きな翼を広げて宙を舞う。
「…………何がくる」
身構える。
そして、そのまま観察していると、竜の口からブレスが放たれた。
七色に輝くまるで希望のような咆哮だった。
しかし、威力的にみると正反対。当たったら死ぬ。
その確信があるほどだった。
俺は
その場から離れるという選択肢もあったが、使わなかったのはカウンターを狙うためだ。
ここからなら奴の後ろが取れる。そう思って使った。
しかし、
「…………いない!?」
すでにそこにはいなかった。
一瞬のすきに、どこかに消えてしまっていた。
「まさか…………!?」
後ろを振り向く。
そこに奴はいた。
「…………ぐは!」
思い切り翼で振り払われる。
俺の体は持たず、地面に勢いよく落下した。
爆発したような音がその場に響き渡る。
「ほらね、貴方の攻撃どころか考えもこれには通用しない。諦めなよ。私たち相手にあなたはよくやった。そこは認めてあげるからさ。まあ……結局私たちには勝てないんだけど」
「…………うっせぇ……」
重い体を持ち上げて、起き上がる。
頭からは血がダラダラと垂れていた。
俺は一瞬で止血して、もう一度奴を見る。
このままじゃ、あいつには勝てない。
力も完全に封じられている。
負けてしまう。
そこで俺は決心した。
「使うか…………あの力」
あまり推奨できない。危険で、扱いずらい俺が苦手とする力。
そして
この時に使わず、いつ使うというのだ。
「……なになに、まだ作戦でもあったの?」
「ああ、俺のとっておきを見せてやるよ」
俺は
そこにはもういなかった。
「それも…………わかってんだよ」
俺はそれを予測して、同じように
大きくて輝かしい背中が見える。
「
そして、俺は奴の体に触れた。
力を使う。
「ぐ…………」
その瞬間、体がおかしくなるくらいに痛みに襲われる。
痛みだけじゃない。辛くて、気持ち悪い。
力の使いすぎによるものだ。
でも、
「やめてたまるか! 俺は…………守るんだ!」
身が入る。最後は根性。
俺の全神経、全体力をそこに注ぎ込む。
俺の体がどうなろうと構わない。
ただ、この町を……リンを救いたい!
その願いを込めて、俺は力を使い続ける。
そして、
「…………完、了した。終わりだ。これで…………」
びりびりと電気が流れたような音がして、俺は力の行使をやめる。
俺の体はボロボロで動くだけで全身に痛みが走る。
「完了? なにが終わったの。なにも起こっていないけど」
「はは…………面白いのは…………これからだ。……
奴に再び触れる。
そして破壊した。
「え、またそれ!? 意味ないってさっき分かったのに。やっぱり……馬鹿なんだ」
「……馬鹿はどっちかな」
離れた竜の細胞たちは前と同じように復活しようと試みる。
しかし、出来たのは一部分だけだった。
正確にいえば、背中が欠けていた。
「え?」
「……まだだ。これで終わりなわけないだろ」
すると、戻ろうとした竜の体がまた離れ始める。
ない部分も戻すためだろうが、それが仇になった。
戻そうとした瞬間、竜の体の一部が爆発した。
背中だけでなく翼部分もなくなっていた。
「な、なにが…………」
「……チェックメイトだ。もうこいつがもとに戻ることは……ない!」
俺がそう断言した瞬間、また爆発した。
爆発は広がっていくドンドンと消えていく。
足、腕、頭、他にもなにもかもが爆発して消えた。
【レインボードラゴン】は事実上、消滅した。
「どうして…………なにが起こっているの!?」
「…………物凄い慌てようだな」
「なにをしたの!」
「簡単にいえば、奴のなかにあった細胞の組織をおかしくした」
「…………」
「その細胞自体に復活するための要素があるのなら……それを断ち切ってしまえばいい。でも、流石に骨が折れる。この力は…………」
創造の力とは根本的に違う。
あれはただ単に創り出すだけだが、こっちは元々あったものを他のものへと変換する。
だから、その分手間は数倍に上がる。
ほんの少ししか変換しなかったのにもかかわらずこれだ。
ヤバさ加減は他のものと比にならない。
このまま使い続けていたら暴走して、本当に諸刃の剣と化していただろう。
「これで…………本当に終わりだ。お前の……負けだ」
「ま、負け……? 私が…………負け」
女はそう辛そうにいいながら、地面にひざをつく。
俺はそれを見て、一息ついた。
決着はついた。俺の完全なる勝利であった。
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