第35話 あと一歩のところで

「…………」


 俺は無言でこのモンスター【レインボードラゴン】と向かいあう。

 さっき俺の攻撃は無効化された。

 いや、無効化されたのかはわかっていない。

 霧で見えなかったからだ。


 俺の能力自体に耐性があって無効化していたのか。

 もしくは、本当はダメージを受けているが、それがわからないくらいに微量なダメージなのか。


「色々……試してみないとわからないな」


 ただの攻撃じゃダメだ。 

 無限の可能性を試さないと勝てるかわからない。

 こいつはここに来て、初めて来たかもしれない俺の…………天敵だ。


「やる気……? 勝てないと思うけど、頑張ってみたらいいと思うよ。ほら、行って」


 女が指図すると、竜は動き出した。

 ゆっくりとその場を歩き出す。

 こっちに向かってきた。


「じゃあ……早速、試してみるか……」

 

 俺は腕のなかで炎を創り出す。

 量子パーティクルになら創り出せないものなんてない。なんでもできる。


「まずは実験だ」


 俺はそうつぶやいて、炎を奴に向けて放つ。

 熱々の炎をお見舞いする。

 威力は相当強い。ギアルの業火の弓矢フレイムアローを参考にした。

 細長くして速度も上げている。

 

 しかし。


「…………な!」


 メラメラと燃えあがる炎を受けながら竜は全く問題なさそうに動いていた。

 そのままゆっくりと俺の方に向かってくる。

 

「全く……効いていないだと…………」


 これだけの攻撃を食らって無傷。

 どうやら本当になんらかの耐性、もしくはカラクリがあるみたいだ。


「……っく」


 一歩後ずさり、奴から少し離れる。

 そして俺は炎は効かないと判断して、今度は水を創り出した。


「これならどうだ……」


 同じ要領で水を発射する。

 水は炎と違って初めて創ってみたのだが、案外うまく創れたと我ながら思った。

 だが、そんなことはいざ知らず。


「これも……ダメか」


 効いてない。

 気にすらとめていないように思える。

 ただただ、同じ速度で俺の方へずっと向かってくるだけ。

 

 きっと遊んでいるのだ。

 彼女は。……必ず勝てると確信しているからこそ、俺で弄んでいるのだ。

 

「じゃあ…………最後にこれもいっておくか」

 

 氷。氷結を出した。

 それを細かく刻み、あられのような感じにする。

 攻撃が効かないのなら凍らせて、動きをとめてしまえばいい。

 それが出来てしまえば、無力化できたといっても過言ではない。


「くらえ……そして、止まれ!」


 吹雪をその場に生んだ。

 カチカチと氷が形成されていく。

 やがて、竜のその氷に飲まれ、体全体が凍る。

 

「やったか……」

 

 俺がそういった直後。

 カチッ。

 なにかが割れるような音がする。

 嫌な予感がした。


 カチカチ。

 次々と割れていく。

 そして、バリンという音がして、完全に凍りから覚めてしまった。


「マジか…………」


 炎も水も凍りもなにもかも効いていない。

 こいつは…………本物のバケモノだ。


「じゃあ、今度は私の番ね。やっちゃってよ」


 女がそう命令する。

 すると、さっきまでゆっくりと歩くだけだった奴の行動が変わった。

  

「なんだ…………」


 奴は体からなにかを溜め始める。

 俺がエネルギー弾をつくるときのようだった。

 なにが起こっているのかわからず、俺は呆然と立ち尽くしていた。

 すると、その瞬間。


「ギャォオオオオオオンンンンン!」


 奴の口から攻撃が俺に向けて、出てきた。

 竜の咆哮だった。


「速い!?」


 俺は攻撃を見切ることが出来ず、瞬間移動でそれを避ける。

 逃げた場所から見てみると、その攻撃は。


「炎と……水と……氷……」


 3種の攻撃が混じっていた。

 俺がさっき使った3種の攻撃が。


「ほら、わかったでしょ。私たちの最高傑作は攻撃を吸収して蓄えて、それを攻撃として使う事が出来るの。貴方が技を使ったことで、町の被害がさらに広がったね」


「…………」


 周りを見てみると、悲惨になっていた。

 炎は広がっていき、水浸し。

 ギルドの一部分は凍っていて、酷い有様だ。

 早くなんとかしないとマズイことになりそうだ。


「それにしても……攻撃を吸収するなんて……初めて聞いた」


「私たちのモンスターを褒めてもらえるとは嬉しい……とはならないのは残念だよね。そもそもこいつもただのコピーだし」


「コピー!? 一体なにから……」


 本物がある。

 それはつまり、こいつよりも効果が強いモンスターがいるということだ。

 野放しにしてはおけない。


「言わないよ。私に勝ったら教えてあげてもいいけど」


「……じゃあ、絶対に勝つしかないな」


「ふふ、そっちの方こそ諦めが悪いんじゃない?」


「それは……そうかもしれないな」


 俺はやる気を出す。

 炎も水も氷も、なにもかも攻撃が通じない。

 だったら分解セパレートしてしまえばいい。

 俺になら、それができる。


 瞬間移動テレポーテーション

 一瞬にて、奴の裏側にまわる。

 女もこの竜も俺がどこにいるのか気づいていない。


「これで…………チェックメイトだ」


 そして、奴に俺は触れる。

 いつものごとく、体はバラバラに離れて行って、塵のようになり、消えて行った。


「おい、これで俺の勝ちだ。もう……いい加減にしろ」


 俺は女に詰め寄る。

 すると、彼女は言った。


「なに言ってんの? まだ終わってないでしょ。ほら、後ろ」


 女が後ろに指を差す。

 俺は首をゆっくりと傾けて、そっちを向くと。


「…………!? な、なんで…………生きてやがる!?」


 さっき破壊したはずの竜の姿があった。

 全くの無傷に戻っていた。

 たったの一瞬。見なかっただけでこんなことが起こるはずがない。


 俺は無意識に奴の存在を否定していた。

 しかし、目の前のことが事実であって、頭が混乱する。


「残念だけど、これには再生能力もついているんだよね。それも超絶高い再生能力が。どれだけ殴っても、どれだけ切り裂いても、どれだけ分解してもたった一つ破片があればそこから復活できる。だから、貴方の攻撃は通用しないの」


「……………………」


 信じられない。

 そんなことがあっていいのか。

 量子はこの世でもっとも小さい最小の単位だ。

 それぐらいに細かく切り裂いてもそこから復活出来てしまう。

 

「…………いまの俺じゃ……倒せない」


 普通の攻撃は全く効かないうえにこの再生能力。

 俺がいくら働いても攻撃が効かないんじゃ意味がない。

 詰んでいる。


「……いい顔になって来たね。いま、どんな気分?」


「はは、最悪の気分だ」


「ふふ、面白くなってきた」


 少女はそう微笑し、にこやかに言う。

 俺はこれからのことを不安に思いつつも対策を練る。

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