第1話 初めてのパーティー
朝、目が覚める。
酷い夢を見ていたらしく俺の目には涙があった。
悪夢を見るのは久しぶりで少し驚く。
ここ最近は全く見ていなかったというのに、いったいどうしてなんだろう。
なにか節目でもあったのか。いや、特にないはずだ。じゃあ……何故……
……考えても仕方ない。
とりあえず、部屋を出て顔を洗う。
別に特段と凄い家ではない。普通の賃貸の家だ。
一階にはリビングとトイレと風呂。二階には寝室と押し入れがある。
「はぁ……眠い。そういえば……昨日の女の子ちゃんとダンジョンから出れたかな……まあ、大丈夫って言っていたし、なんとかなっているか」
あの時ちゃんと送ればよかったと少し後悔する。
もう少し少女と一緒に居てあげてもよかった気がする。
ちゃんと人と話せたのは数か月ぶりだし。
「まあ、今更後悔したところで……意味はないんだけど」
顔を洗って準備をする。
昨日はそのまま帰って来たせいでまだギルドで換金できていないのだ。
目的の草を添えないとクエスト完了にもならない。
早く行かないと。
そう思って、いつもよりも少しはやめに家を出発することにした。
ドアを開けたところで。
「おはようございます! 朝、早いんですね! もっと遅いのかと思ってました」
「…………は?」
一瞬、頭が空っぽになる。錯覚かと思って目をこすってみるが、本物だった。
少女が元気にドア前にいたのだ。
あのダンジョンの奥にいた少女。
昨日助けた少女がそこにいた。
「どうして……君が……」
「凄い驚いた顔をするんですね!」
「そうじゃなくて……どうしてここにいるのか聞いているんだ」
そう思うのも普通だ。
ギルドならまだしもここは俺の家。
普通の人なら来れるのすらおかしいのだ。
「色々と調べて来たんですよ」
「調べて……来た?」
「はい、いろんな人に聞いて回ったんですよ。本当に大変だったんですからね! 私、最近この町に一人で引っ越して来たばかりなので全然友好関係も結べてなくて、聞くのも苦労でしたよ」
「……マジか」
「マジです!」
どうやら色んな人に聞いて回ったらしい。
そもそも俺の住所を知っている奴なんているのかと疑問がわき出る。
しかし、それを即座に否定した。
俺は周りから嫌われているのだ。
知っているはずがないのだ。
ではいったい何故……
「ていうか、レンさんって知っている人少なすぎるんですよ。私びっくりしちゃいましたよ。あんなに強いのに誰も知っている人いないんですもん! 仕方なくギルド長に聞いちゃいました」
「ギルド長に聞いてきたのか……」
たしかに俺はギルドじゃのけ者扱いで名前も覚えられてないし、ここはギルド長から貸し出してもらっている家だから知っているはずだ。
事実なのだろう。
そこまでするのか。
「どうして……そこまでする? 俺は別に助けただけだろ」
「それが凄いんですよ。助けたって簡単にいいますけど私からするとレンさんは命の恩人なんですよ」
「大げさだな……」
「それに私嬉しかったんです。いままで……そんな経験なかったですから……だから、レンさんを探したんです」
本気で言っているのが伝わってきて、少したじろいでしまう。
「……君が俺の事を探しに来たのはわかったけど、なにしに来たんだ。俺の落とし物でもあったのか。忘れたものはなかった気がするけど」
「違いますよ。なに言ってるんですか」
「じゃあなんだ」
「決まってるじゃないですか。一緒にパーティーを組むんです! ダメ……でしたか……」
「…………」
いきなりすぎる。
恥ずかしそうに言うので、思考が停止してしまう。
「……ダメに決まっているだろう」
思考が通常に戻り、ちゃんとそう伝える。
「えーなんでですか。一緒にクエストにいきましょうよ! 私この町に一人で来たので頼れる人とか全然いないんです。お願いします!」
「…………ダメだ」
「なんでです!?」
「じゃあ逆に聞くが、どうして俺のところに来るんだ。他に当たればいいじゃないか。そもそも君なら俺じゃなくても他の人とパーティーくらい組めるだろう」
「……そりゃ色々ありますけど、一番は私を助けてくれたから、その分私もレンさんを助けようと思ったからです。だから他の人とかはどうでもいいんです。レンさんと組みたいんです!」
「はぁ……正直に言おう。別に要らない」
「え」
「俺は採取クエストしか受けないし、別に人手は必要ない。だからパーティーは組む必要がない」
「え、本当ですか!?」
「本当だ。だから、諦めてさっさと帰れ。というか俺といるなんてことがしれたら君の名誉にも関わるから。そのさっきいった友達とクエストにいくといいよ」
「そ、そんな……」
がっかりした感じをかもし出す。
言い過ぎてしまったかもしれないと少し後悔する。
だが、これも少女のため。
一旦離れようと思い、ドアを少しずつ閉めていると、
「パーティーを組んだ方がいいって言ったのはレンさんなのに……」
「ぐ……たしかにそうだが、それは俺とじゃなくてな、普通の奴らと一緒に組んでくれという意味で……」
「それにまだお礼も出来てないし……私ってやっぱり嫌なんですか。そんなに嫌いですか。私が子供っぽすぎますか……」
「ぐ……」
残念そうにつぶやく少女の顔の俺の心に刺さる。
胸が苦しくなる。
耐えきれない。
「わ、わかった。パーティーを組もう。別に人手が要らないと言っても一応は組んでおいて損はないからな……」
「やったああああ!」
飛び跳ねて、喜ぶ。
そんなにか?と思いつつ、言う。
「……だが、一度だけだぞ。これが俺へのお礼だと思ってくれればいい」
「わかりました。今回だけにします!」
「よろしい」
今回だけということなら仕方がない。
一応俺は彼女の命の恩人ということだし、彼女なりに色々と考えているのだろう。
それにしても。
「ふぅ……組んでしまった……」
こんなこと初めてだ。
パーティーを組むなんて。
きっと俺の評判なんて知らないんだろう。
だから、こんな風にやっているのだ。
「はぁ……一応言っておくぞ。俺と組むってことはある程度ギルドの奴らに嫌われる覚悟をしておいた方がいい」
「? 何故です?」
「それは時期にわかる」
自分で自分のことを語るのは意外と辛い。
彼女には悪いが、これも経験。
身をもって自分がなんてことをしたんだと悔やんでくれ。
そうすれば、次から俺の方にくることはないだろう。
「? まあいいです。早く行きましょう」
「……いや、ちょっと待て。そういえば君の名前を聞いていなかったな」
「あ、ホントですね。言うの忘れてました! レンさんのは聞いていたのに……」
「なんて言うんだ?」
「えっと……私の名前は、リン。リン・レディウスです」
「リン……レディウスか。いい名前だな」
「えへ、そうですか? ありがとうございます」
にこにこと笑顔をふりまく。
ここまでキラキラとしているとまぶしすぎて直視できない。
「……じゃあ、行くぞリン。まずはクエストの受付からだ」
「はい!」
声が大きく、少し目が覚めた。
そして、俺は今日この頃、二人組のパーティーを初めて組んだのだった。
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