SIDE:透子

 久しぶりに一人で帰る。

 夕日に照らされて、影が長く伸びている一人分の影。

 なんとなく、いつも帰る時のる吉井君の定位置を見てしまう。

 もちろん彼はいない。

 なんだろう。この感覚。なんだか、物足りないような。

 と言っても、いつも彼が話して、私はそれに相づちを打つだけなのだけど。

 自分の抱いている気持ちなのに、その正体が判然としない。


 ……寂しいのかしら。

 いいえ、寂しいのとはちょっと違うかも。

 それじゃあ、この気持ちは何?


 その時、ポケットにいれておいたスマホが揺れる。

 なぜか分からないけど、一瞬、吉井君かもと思ってしまう。

 吉井君の寝顔に設定したホーム画面、そこに表示された電話してきた人物の名前に、「はぁ」と思わずため息が出た。

 また、あの件だろうか。これまで顔を合わせて用件を伝えられるたび、はぐらかしてきたけれど、いい加減、それも限界にきているのかもしれない。

 無視したいけれど、そうするわけにもいかない。観念して、付き合う他ない。

 私はスマホ画面をタップし、耳に当てた。


「――はい、透子です。はい……ええ。いつもの場所に、午後七時。いいえ、迎え結構ですから。では失礼します。また後ほど。叔父様」

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