元Sランクおっさん冒険者のポーション作成記〜まずいポーションしかないなら自分で作ればいいじゃない〜
馬場淳太
第1話 かくしておっさんは冒険者をやめる
「もう冒険者なんか辞めてやる!」
「ええっ!」
ロイス王国のフェーレンという町。その町の冒険者ギルドにて一人のおっさん冒険者が引退を宣言した。
「なんでですかロビンさん!」
「なんでもかんでもない! 理由はひとつだ!」
ロビン、と呼ばれたおっさん冒険者はそこで一呼吸おく。周囲もゴクリ、と唾を飲む。
「ポーションが
……………
ロビン・ステッパーはロイク王国冒険者ギルドに所属するSランクおっさん冒険者である。
彼の仕事は攻略し、攻略したダンジョンの階層の地図を作成すること。彼はいわゆる
ダンジョンというのは王国を脅かす魔王という存在の魔力によって作られたものであり、ひとつ攻略するたびに魔王の力が弱まるというものである。
さらにダンジョンの魔物を倒すと、魔石や素材がドロップし、それをギルドに売って生計を立てることもできた。
そのため冒険者たちはこぞってダンジョン攻略につとめ、現在もたくさんの冒険者たちがダンジョンに潜っている。
ロビンはそうしてダンジョンを攻略したり、攻略されたダンジョンの階層をマッピングし、ギルドから報酬をもらっていた。
しかし難易度の高いダンジョンの攻略は、冒険者のやる気に反比例するかの如く捗らなかった。
そのためロビンも忙しくなく、穏やかな日々を過ごしていた。
だがある日を境にその事態は打破される。勇者、という存在が異世界から呼び出されたのだ。
勇者はその圧倒的な力ですぐに階層を更新し、すでにふたつのダンジョンを攻略していた。
従ってロビンは次々と攻略される階層をマッピングすることとなり、忙しい日々を過ごしていた。
さて階層が深くなればなるほど、出てくる魔物の強さも罠の難易度も上がってくる。
階層の序盤であれば全く無傷でいられたロビンも流石にきつくなってくる。なおかつ彼は単独でダンジョンに潜っており、ヒーラーなどに回復してもらうわけにはいかない。
つまりどういうことか。ポーションの使用頻度が増えるということである。
……………
「……ぶっ! あっははははは!」
冒険者たちから笑いが起こる。
「ロビンさん、ポーションが不味いなんて何当たり前のこと言ってんですか!」
「そうですよ! そんなのどんな冒険者だって経験することですよ!」
「その洗礼に耐えて初めて冒険者になれるんですから! もう! 冗談はよしてくださいよ!」
冒険者たちにとってはポーションが不味いことなど当たり前のことである。というかポーションを飲まねば生き延びることなど出来やしないので、なんなら
「ポーションは不味くないよ?」
「この味がクセになる」
「毎朝一本ポーション飲んでます!」
というように、味覚開発までされてしまっている者もいた。
ロビンはダンッ! と机に手をつき、
「冗談じゃない! それでもまだ最初の方のポーションは頑張って飲むこともできたさ! ……でもな、新しく開発されるたびにどんどん不味くなってくのはどういうことだ! 最近じゃ馬の小便にゲロ混ぜたような味するじゃねえか! それを何本も何本も飲まなきゃいけない身にもなってみろ!」
ロビンはよく物を失くす癖があり、それがとてもひどいため冒険者カードを始めとした大切なものは全てギルドに預けている。
そのため彼は知らないのだが、彼は既にSランク冒険者になっていた。
そんな彼のステータスはこんな感じである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ロビン・ステッパー 34歳 男
HP 564/564
MP 358/358
筋力:185
知力:102
素早さ:98
敏捷:92
防御:85
魔防:92
運:78
スキル:隠密S レベルMAX 投石S レベルMAX
物質透視A++ レベルMAX 罠探知S レベルMAX
空間把握A+ レベル9/10 火魔法B++ レベルMAX
加速S レベル7/10 生活魔法EX レベルMAX
暗殺術(対魔物)A+ レベル5/10 解錠S レベルMAX
鑑定S レベルMAX 気配察知S レベルMAX
気配遮断S レベルMAX
――――――――――――――――――――――――――――――――――
対して王国のポーション作成組合が販売するポーションの性能は、
・キュアポーションC:HPを10回復
・キュアポーションC+:HPを15回復
・キュアポーションC++:HPを20回復
・キュアポーションB:HPを25回復
・キュアポーションB+:HPを30回復
・キュアポーションB++:HPを35回復
・キュアポーションA:HPを40回復
・キュアポーションA+:HPを45回復
となっている。
なお、ランクが上がるごとに不味さも上がる。
つまりロビンのHPを半分回復しようと思ったら、ゲロマズのキュアポーションA+を6本も飲まねばならないということだ。
これと同性能かつ、同じ不味さのマナポーションがあるので、ゲロマズポーションを飲む量はさらに増えるというわけである。
「ほらいうじゃないですか『龍の涙はハイレンの手料理に勝る』って」
龍の涙というのは万病に効く薬であり、ハイレンというのは神話に登場する料理が世界一下手な女性のことである。
つまりは「良く効く薬は美味しくない」ということだ。
「たしかにそういうがな、そもそも不味さと回復量の上がり幅が見合ってないんだよ! なんで毎回5倍くらい不味くなるのに回復量は5しか上がらないんだ!」
「いやそんなの知りませんよ! ポーション作成組合に聞いてみたらどうですか!?」
「と・に・か・く! 俺は冒険者をやめる!」
「それは困ります〜!」
受付嬢のリリーが困ったような声を上げる。
それもそうだろう。ただでさえ人気がなく、人手不足のマッパーで、しかも最前線のダンジョンを難なくマッピングしてくる国で一番のマッパーが冒険者をやめるというのだ。
しかもポーションが不味いという理由で。
「いやリリーさん、俺は誰がなんと言おうとやめてやる!」
「待ってください〜、もし冒険者をやめられたらどうやって生計を立てるんですか〜?」
職がなければ生きてはいけない。
それを盾にしてリリーはロビンを引き留めようとする。
しかし、ロビンの決意は固かった。
「今までの貯金がある!」
「そんなの無茶です〜!」
実際のところ、勇者が現れてからのロビンの稼ぎは凄まじいものであり、よほどの豪遊をしない限りはあと数年は稼ぎなしでも暮らしていけるほどの金があった。
「いやいやロビンさん、現実を見ましょうよ」
「そうですよ! それに俺たちだってロビンさんにはいなくなってほしくないです!」
ロビンはマッパーとして一流なだけでなく、先輩としても一流の冒険者だった。
新人冒険者の指導から、中堅冒険者たちのサポートまでなんでもしていた。
なんならギルド職員の愚痴まで聞いていたのだから、本当にギルドになくてはならない存在となっていたのだ。
「いや、それでも俺は、激苦でクソ不味いポーションをこれ以上飲みたくない! すまない!」
こうして、ロビン・ステッパーは冒険者をやめたのだった。
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