一日一首(令和四年十一月)

「倹しい」と「慎ましい」とふ語に気づく吾は古希すぎて冷汗三斗


パーゴラにからまる木通(あけび)の蔓きれば秋の日の差しコーヒー香る


ストーブの火のありがたき文化の日。短歌一首よみ川柳ひねる


パソコンの製版作業でも「誤植」とふ言葉に残る活字の重み


酸ヶ湯にて初積雪との記事見つつバイクマシンで汗流しをり


晩秋の冷えまさる庭に一輪の終(つ)ひの撫子の紅ぞ凜たる


バタバタとふプロペラ音たて晩秋の空をドクターヘリが航(ゆ)くなり


立冬すぎ庭に一輪の山茶花の薄紅(うすべに)や氷雨ににじむ


新聞の投稿欄にならびたる我が柳号の二文字きはだつ


晩秋の庭に真弓の実のゆれて落ち急ぐ陽にひとしきり映ゆ 


認知症の予防に良かれと通ひたるデンタルケアに顎つかれけり


小春日とて臘梅にネットの雪囲ひ 庭は白・黄の残菊にはなやぐ


夕影に板谷楓の緋のはえて我が坪庭は錦秋たけなは


朝陽あび庭木の花梨十個余の黄色き実より甘き香のたつ


妻外出なれど茶を二杯淹れてしまひ晩秋の庭に悄然とをり


かきあげを津軽蕎麦にのせ啜りこめば湯気の向かふに妻の笑顔が


さくさくと酢漬け蓮根を噛むたびに歯に当たる穴の空気の感触


去年(こぞ)の夏に地植ゑせし棕櫚の萎えをりて鉢にて集中治療せむと思ひぬ


落葉まふベランダでのカフェは冬じまひ妻は椅子ふき「また春にね」と


小春日に庭の花梨の堅枝を鋸ひく我が腕まだ七十四歳(しちじふし)


水盤にカサブランカ二輪が咲(ひら)きたりその華麗さと香りはなやぐ


完熟の花梨のジャムとヨーグルト、はつかな渋みに往く秋おしむ


長男より義父逝去せしの報が来ぬ我が身はいかに氷雨をながむ 


林檎かじり「おいしいね!」と妻は荷札ならべ筆圧も強く子らの名を書く


秋陽さす再開発地より重機去りサンガーデンとふ看板かがやく


木枯らしと時雨と雷も弔ふか美幌にねむる御霊やすかれ


冬に備へ蘇鉄の鉢を床の間にうつせば障子越しの陽をうけ潤む 


雨あがりに磨きしガラス戸より陽のさして〈好日居〉には老い二人きり


裏庭で氷雨ににじむ花八手その名に違ひ八手に裂けず


霜月尽みぞれ混じりの空模様にストーブの火を見つつペン執る

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