一日一首(令和三年七月)

初日から <えんじゅの里> は多忙にて老医われを待ちかまへてゐたるや


岩木山を正面に見つつ昼食し気分はすでに津軽衆なり


築二十五年の我が家にもどり修繕など快適な終の棲家となさむ


さ庭にて甘栗を受けに茶を喫す自づと夫婦の会話はづめり


通勤のタクシーの中で短歌よめどついうとうととして霧消せり


運転手もルートも日ごとに異なれど職場には同じ時刻に到着


七夕に友の訃報の届きけり牽牛織女の逢はむ今夜に


医局にてランチとりつつ頼み込み他科診察の快諾を得ぬ


左方なる岩木山ながめ出勤し帰りは疲れて夢のなかなり


真夜中に業務改善のアイデアがふいに湧きたれば急ぎ記せり


二十年ぶりの青森県医師会報にわが縦書き脳はしばしとまどふ 


転勤十日、介護医療院と老健の連携強化を模索し始む


〈東奥日報・明鏡欄〉に随想寄せふるさと回帰のよろこびを記す


笛太鼓!〈えんじゅの里〉は佞武多なり破顔で翁も媼も囃す


あたらしきニッパーにて爪を剪りやれば媼は足より変若(を)ち返りけり


当直医に「看取りになればよろしく」と書き残ししは週末の夕


週末のわれの帰宅に間に合わせ媼は四時に黄泉路へと発ちぬ


黄のクリアブックに「メイドインインドネシア」のタグありて貼りし娘ら偲ぶかな


家中(うちぢう)の灯りをLEDにして皺がよく見ゆるも喜ぶべきならむ


33度の熱波の中を老健と介護医療院を往復するなり


「給料は社会貢献への報酬」と新しき職場の明細書を受く


九十四歳の媼が歌集出し驚けり『薔薇を抱く』とふ表題にもまた


大暑の候、四連休はありがたし.。二度寝をさそふ早暁の風


大暑に入り家にこもりて繙くは老いの痛みに『整形内科』


スモークツリーの隣家へのびたる枝きればその香に大暑の朝もさはやか


自転車のチェイン洗ひて油さし大暑の朝に汗流しをり


百枚の処方箋さへ労せずに電子カルテはペンだこ知らず


雨降れば老健と介護医療院を傘さして往復するさへ遠き道なり


つがる市に台風八号近づかば林檎あやふし舐瓜も西瓜も


ありがたき盆休みなる風習にて〈えんじゅの里〉は三連休なり


むくむくと入道雲のわきたちてしばしのあとに猛烈な雷雨


来春の3G終了を潮時に解約しやう携帯電話は

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