一日一首(令和元年九月)

〈飯坂温泉〉の御守り札に「ボケ除け」も。ありがたくもまた寂しくもあり


随筆の掲載予定が延期となる さればゆつくり推敲すべし


ボケ除けの〈延寿守り〉に見つめられ診察室に霊験あらむ


一年の連載まとめ印刷して綴づりし快心の〈爺医草子〉これ


ひさびさに長男夫婦が帰省して妻も母親の笑顔にもどる


息子らが大阪より持ち来し暑さなるや秋の盛岡に真夏日もどる


長女まで東京より持ち来し暑さなるや秋の盛岡に真夏日もどる


誘はれて娘と燻製つくりけり帆立・蝦・鶏を桜チップで


子らかへり椅子など元に戻したり台風報ずるテレビ見ながら


妻でかけ単身なればハヤシライスを検食しつつ夕食を思案


ドア・窓など開け放ちワンルーム状態に。朝の涼風に一人めざめき


施設長われより若き利用者ふえ喜ぶべきかここ老健に


われよりも若きと年長者らの混じるゆゑ〈敬老の日〉の祝辞に悩む


名月を拝(をろが)み幾度も「ありがたいネ」を繰り返す妻よ汝もありがたし


自宅にて最期を迎ふるが願ひなり汝(なれ)とつくりし庭をめでつつ


敬老の日とて散歩がてらに大福をあまた買ひきて夫婦で祝ふ


父母のため学びし〈老人医療〉なれどやがて我がため妻のためにも


宝くじ当たらば始めむ診療所 深浦といふ過疎のまちにて


ひさびさに「論壇」に掲載、うれしもよ 爺メル友より辛口エール


舞台調ひし‘カルモナ祭り’の無事を祈り〈てるてる坊主〉と挨拶文つくる


秋空に保育園児の声ひびく祭り太鼓は老医の耳にも


わが住むは現代版の庵なり‘青山’の上、昇降機だのみ


マンションの十階までを脚で昇る まさしく歩荷(ぼつか)、足腰鍛錬


雨が降り階段のぼるは濡るるとてエレベーター使ふ 徒歩五日目に


〈青山〉なるマンション十階を徒歩に昇る。養生なれど朝日心地よし


あらかじめボケの検査をせよといふ運転免許更新のはがき


秋曇り 夫婦ふたりのバーベキューをマンション十階のベランダにおいて


親鸞の自然法爾(じねんほうに)の境地なり姑息な知恵棄てありのまま生きむ


晩節を汚すことなく全うせむ祖父が背に見しノブレソブリージュ


秋の宵「夫婦は二世」との言知りて妻の横顔そつと見るなり

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