第三章 竜の落とし子
第12話
「補佐。残念なお知らせです」
マイナはそう言いながら、うきうきとした気持ちでラツェッドのデスク横に立った。
「例のセレストウィングドラゴン、討伐されましたよ」
「……なんだと」
ラツェッドはちょうど自分のデスクでドローンの映像を見ていた。熱源探査によって、セレストウィングドラゴンが潜む森にはすでに複数の賞金稼ぎと思われる人間の姿が確認されている。動物も多く賑やかな森だった。しかし肝心の竜の姿が見当たらない。もしかしたら奴はこの森にはいないのではないかと思いはじめていた時だった。
「なんだと!」
ラツェッドはデスクを叩きつけながら立ち上がる。
「やっぱり我々が非公式に動くってことが無理あったんですよ」飄々とした調子でマイナは言った。「せめて画像のAI解析くらいはするべきでしたね。事務人間に竜の探索はあまりに荷が重すぎました」
「非公式な動きなんかじゃない。だが、公にできない計画であったことは確かだ。だから我々がAI解析システムを公的に利用するためには何らかの理由をでっち上げる必要があったが、その虚偽申請こそ法に触れる行為だ。リスクが大きすぎる」
ならめちゃくちゃ非公式じゃねぇか。っていうかそもそも竜は熱源として反応しないことをこの男は知らなかったんか。マイナは心の中で思っていたが、わざわざ教えてやる必要もないと思っていた。ドローンが自動で飛行し撮影する映像を管理一課職員総出で睨み続け、竜と思われる影を探していた。人の姿が映るたびに、マイナはそれが久悠かどうか確認したい衝動に駆られていた。その人影のうち一つがずっと静止したままなにかを観察している様子も見受けられたが、別に竜を発見したわけではないのでマイナはそれを特に報告していない。
「駆除したのは、タールスタングという賞金稼ぎですね」
なんだ、久悠さんじゃなかったのか。マイナは申請者の名前を読み上げながら落胆した。
「知ってる奴か?」
「いえ」
「セレストウィングドラゴンの価値に目が眩むことなくきっちり仕事をしたようだな。前回のイエローを討伐した奴といい、賞金稼ぎには凝り性が多いようだ」
「それがなにかいけないんですか?」
コクリとラツェッドは頷いた。「今回のような当課の非公式活動の場合に備え――」
やっぱり非公式なんじゃねぇか。
「協力を得られそうな賞金稼ぎをピックアップしておきたい。とはいえ腕のいい奴の把握もしておきたいから、とりあえずこのターなんたらって男はメモしておこう」
「補佐」
「なんだ」
「じゃあ、たとえばまたセレストウィングドラゴンが討伐管理簿にあがってきたら」
「そうだ。今度は我々から直接、一部の賞金稼ぎに捕獲を依頼する」
ラツェッドは、厚いクッションチェアに身体を預けて得意げに言った。
「補佐」
「なんだ」
「くれぐれも気を付けてくださいよ。私、自分の上司が捕まるところなんて見たくないですから」
「違法行為はしないさ。それに希少種保護のためと言えば大体のことは許される。なんの問題もない」
「わかりました」
「他に何か用か?」
「そろそろ各ドラゴンシェルターの監査をする時期です。先方とスケジュールを組みたいので、共有フォルダ上のスケジュールボードを見ながら空いている所にガンガン予定を入れていくので、対応できない日時があれば早めに対応お願いします」
わかったとラツェッドは手を上げた。
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