カミカクシの山

渡 亜衣

忘れたキミを憶えてる

神隠しにあった子を知ってるんです。


――ああ、すみません。こういった場の話題としては、正しくないですね。なかなか難しいな。お見合いをするのは、初めてだから。


貴女が、大学で民俗学を研究されていると、お聞きしまして。

……ふと、話したくなったんです。

それに、この町。俺も昔ここに住んでました。15年ほど前に引っ越したんですが。


今、別の話題を――え?聞きたい?

大変興味がある?

……良かったです。


さて、じゃあ話しますね。初めて人に話すので、拙いところもあるでしょうが、お許し下さい。



「なあ、スイジ山のカミカクシってしってるか?」

そう、横山が言ったのは、1学期の終業式の帰り道でした。横山は、よく一緒に帰っていた友人です。

オカルティックなことが好きなやつだったと思います。今はもう、下の名前も覚えていないのですが。

子供の頃の友人なんて、そんなものです。そう、ですよね?

……話を戻します。


「知らん。何それ?」

そう聞くと、横山は耳打ちしてきました。

「町の外れに、スイジ山ってあるじゃん。そこに行った子供が、行方不明になってるんだって」

その言葉に、俺は違和感を覚えます。

「それ、おかしいぜ。だって俺らの学校に行方不明者なんて居ないじゃん」


すると、横山はニヤニヤと笑いました。

「そこが怖いんだよ。居なくなった奴は、皆の記憶から消えるんだ。最初から存在しなかったことになる。親も友達も、みーんなそいつを忘れちゃうんだ」

顔では平静を装ちつつも、内心不安になりました。

目が覚めて、一階におりると、味噌汁のいい香りがします。母親が朝食を作ってるんです。そんな母に言われる。「あなた、誰?」と。

……怖いですよね。


想像してしまったのを隠して、俺はつまらなそうに言いました。

「あほらし」

「ちぇ。つまんねー。じゃあ、こういう噂はどうだ――」

 後の噂は、隣の市の誘拐犯がこの町に逃げてきているだの、UFOの光を見ただの、どうでもいいものばかりでした。


俺たちは、計画的に持ち帰るべきだった荷物をゆらしながら、帰ります。じりじりとした暑さの下、話す内容は、学校とテレビと、ゲームのこと。

俺がもうすぐ転校してしまうことは、横山も知っていました。

しかし、そのことには、触れてきませんでした。横山は、お盆は祖父母のもとに行くらしく、話せるのは、その日最後だったんです。


「あのさ、今日、スイジ山行ってみようかな」

唐突に、横山が呟きます。横山がそう言うのを、俺は何故か予想していました。そして自分がどう返すかも。

「俺も行くよ」


 俺と横山は、趣味嗜好が一致するわけでもないのに、パズルがくみあわさるように、しっくりきました。居心地が良いのです。そんな横山と、一生会わなくなってしまう。それを寂しく思う気持ちが、俺の中にはありました。それは横山にもあったと思います。

「じゃ、昼飯食べたら、二丁目公園に集合な!」

 俺の返事を聞いた横山は、嬉しそうに言いました。

 

それで、着替えてから、母親のパラパラしないチャーハンを食べて、家をでました。家を出る前に母に声をかけます。

「スイジ山の噂って知ってる?」

母は、不思議そうに首をかしげて言います。

「だいぶ前に園田さんの奥さんが言ってた気がするけど。とにかく、推治山には近づくなって。どうしたの?」

父は転勤族で、家はいわゆる余所者でした。しかし、母はコミュニケーションの鬼で、奥様方の中にとけこんでいました。

どうやら、噂は随分と前からあったようです。


「最近、誘拐とか物騒なニュースも多いし、あんまり危険なところにいかないでよ」

母の顔が険しくなり、何か言われる前に、俺は家をでました。


二丁目公園に到着すると、横山が、菓子パンを食べながら待っていました。

公園から、しばらく山の方に歩きます。田舎の中でも比較的賑わっている町なので、手つかずの黒い山は異様でした。それでも、行ってはいけない場所にいく事実で、心は自然と浮きたちます。

段々と道は狭くなり、民家が疎らになっていきました。対照的に蝉の声だけは、大きくなっていきます。


前を歩いていた横山が急に立ち止まり、俺は鼻を強かに打ちました。

「いった!どうしたんだよ」

「フェンスだ」

そこには、しっかりと施錠されたフェンスがありました。真っ赤な看板がたっていて、大きく白いゴシック体で「立ち入り禁止」と書いてあります。右下に小さく会社名が書いてあったと思います。


「よし、行くか」

今思うとやめておくべきだったのですが、あの頃、俺達は何でもできると思っていたんです。

フェンスは、思いの外しっかりしていています。ここには何かを閉じ込めているのかもしれない。ふと、そういう考えが頭をよぎりました。

「ほっ」

思い切って飛び越えると、見慣れない風景の中に放り出されました。先には細く、薄暗い道がずっと続いていました。


「家から歩いて行けるとこが、こんな風になってるなんてな」

横山も驚いたように、言っています。俺はそこらへんの棒を拾いながら聞きました。

「ほんとに行くのか?」

横山は唾を飲み込んだ後、

「行く」

と短く言いました。

俺は、一本の棒を横山に渡し、進みました。


結論から言うと、山の体験は、楽しかったです。クラスメイトが見たら興奮するような虫が大量にいましたし、一歩進むごとに、新たな発見がありました。大きな倒木に、謎の赤い木の実、不思議な形の花が咲く陽だまり。何より、いつも怖い話をして脅かしてくる横山が、虫におびえているのが、面白かったんです。普段と逆転したみたいで。


「お前、虫なんかこわがるんだな」

「べつにいいじゃんか!なんかシャカシャカ動くし、気持ち悪いの!」

友人の意外な一面を知れて、得意げにしていると、


横山が小声で、

「何か聞こえないか?」

と言い始めました。よく耳をすましてみると、先ほどまで、聞こえなかった音がします。

この音は……

「沢だ!」

そう思い、駆け出しました。沢遊びは、当時の俺にとって魅力的でした。

「横山!早く来いよ!」


「あ、ああ」

すると、横山は少し戸惑うような様子を見せます。

「どうしたんだよ。虫のことは、謝るからさ」

先ほどまでの元気が見えなかったため、俺は少し不安になりました。

「いや、沢の音以外にも聞こえないか?そ、その笑い声、みたいな?」

最初は俺を驚かせようとしているのだと思いましたが、本気で怯えているようです。その時、俺は遠くにアレをみつけました。


「あ!なんかあるぞ!」

遠くのほうに、俺はアレを見つけたんです。そう。アレを。

そのせいで、横山があれをみつけたせいで、笑い声が聞こえるなんて言い出して。いや、俺にも聞こえた?とにかくアレはおかしくて。それの目は、弧をえがいていたんです。とにかく横山が――


え?何を言っているかわからない?

……すみません。アイスコーヒーを飲んでもいいですか。落ち着きたくて。


さて、俺が見つけたのはレリーフでした。それは簡素なつくりで、半円型の厚い石板に、顔だけが浅く彫られていました。その表情は、笑顔です。

――そうですね。子供の描く、ニコちゃんマークの落書きをそのまま彫ったみたいでした。ただ、なんだか見ていると、座りがわるいような、しっくりこない感じがしたんです。


「あ!あれが見えていたからじゃないか?さぶみりなるってあるじゃん?きっとそれだよ。笑っている像を見たから、笑い声が聞こえたんだ」

そう横山に伝えると、横山は自分を無理矢理納得させるように、言いました。

「そうだな!なんか聞き間違えたかも!沢に行こう!」

俺たちは、急かされるように走り出し、沢に向かいました。



「おい!これみろよ!」

横山が、水際のぬかるみを指差します。見てみると、大人の足跡のようなものが、川の向こうまで続いていました。

「なんだ。大人も来てんじゃん」

「思うんだけどさ、スイジ山のカミカクシってこの場所に近づけないために誰かが流したんじゃねーかな?」

横山が真面目な顔をしながら呟きました。横顔に水面の反射の網目が揺れます。彼の、少し長めの髪で、目がよく見えません。すると、俺の視線に気づいたようで、

「川とか沢って危ねーしな。子供が近づかないようにしたんだろ」

そう言って、横山は笑いました。


しばらくそこで遊びます。蛙を捕まえたり、泳いだり。横山も楽しそうにしていて、安心します。

改めて考えると、俺は横山のことを何にも知らなかったんです。横山は、あえて家族についての話は避けているようでした。


でも、その時、横山と一緒にいると、楽しかった。それだけは、真実でした。

「あのさ、横山」

「何だよ?」

「転校しても、また会って遊ぼうぜ」

「……そうだな。遊ぼう」

横山は、照れたようにそっぽを向きました。

ようやく俺は、言いたかったことを言えたんです。


一段落したころには、もう夕方になっていました。

「そろそろ帰るか」

横山がそう言った時、ポツンと雨が落ちてきました。空を見上げると、暗雲が空を覆い、針のような雨が、無数に落ちてきました。山の天気は変わりやすいと言いますが、異常な気がしました。


「やべ、避難するぞ!」

そう言い、俺たちは方向も見ずに岸に駆け出しました。やっと木の下に入りましたが、そこは帰り道とは反対方向の茂みです。

え?

――なぜ反対方向だとわかったかって?


だって奥に、行き道にはなかった『お堂』がありましたから。


ぼろぼろで、半分以上蔦に飲まれたそのお堂は、木造で、扉が外れていました。随分前に放棄されたようです。入口の上には「隹寺」と書いてありました。


雨は強くなってゆき、雷まで鳴り始めました。そろそろ木の葉で防ぐのにも限界があります。

俺達はなし崩し的にお堂に向かいました。


「ふー」

お堂につくと、犬のように雫を振り払います。奥に板戸が見えました。もう一部屋あるようです。お堂の中は思ったより快適で、雨漏り一つありませんでした。


「なあ、なんか、おかしくないか」

そう、横山が言ったのは、少したってからのことでした。

「なにが?」


「この寺の状態だよ。雨漏りをふさいだあとがある」

言われてみれば、おかしな感じがしました。雨漏りしそうな天井はもちろん、壁や窓にいたるまで、内側から板が打ち付けられていたんです。執念深く、何かから見られるのを恐れるように。しかもそれは、

「最近だ……」

釘がまだ新品なのです。人の出入りがあったということでしょう。

隣の市の誘拐犯、捕まってなかったよな、とか、余計なことを思い出します。俺は震える声で、横山に聞きました。


「なあ、さっきの川にあった靴跡って何人分だった?」

「一人だよ!そんで、」

「そんで?」


「行きの足跡しかなかった。」

そうなんです。靴跡のだれかは、一度川を渡ってから、帰っていない。つまり。


「この家の中に、まだ誰かいるかもしれない」

そう、横山が言った瞬間、


「ガタン」


と、音がしました。板戸の向こう、奥のほう部屋から。まるで、正解だとでも言うように。

「ガタン」

もう一度、音が鳴ります。

俺達は、腰が抜け、倒れこみました。

そして、叫びだす寸前、


「た……す……て」

声が聞こえました。俺達は、震えながらも、顔を見あわせます。それは人の、子供の声でした。ほんの少しだけホッとして、ため息をつきます。


その声は「助けて」と言っているようでした。

誰かが、怪我をしてしまって、動けないのかもしれない。


横山も同じように思ったようです。俺達は、奥の部屋に近づきました。

自分の常識という型に当てはめることで、この異常な状況を納得させようとしていたんです。

「……だ、大丈夫ですか?」

二人で、板戸に手をかけました。

少しの抵抗を感じましたが、扉は素直に開き、


目が、合いました。


「ガタン」


ちょうど、雷光が閃き、部屋を照らし出します。

ニンマリと笑みを浮かべた大柄な男と、目が合いました。


「ガタン」

笑う男は、椅子にすわっており、目が合うと前後に激しく動きました。椅子が鳴ります。先ほどから聞こえていた音は、この男が鳴らしていたのです。

「ガタン、ガタン、ガタン、ガタン、ガタン、ガタ、ガタガタガタガタガガガガガガガガ」


それは、もう、うれしそうに。


「ヤバい!」

呆けていた横山に叫び、その手を取ります。そして、後ろをむいて、一目散に駆けだしました。

急いでお堂を抜けます。

なんだあの男は。おかしい。おかしい。

あの笑顔……男は確実に狂っていました。


でも、それより恐ろしいのはその後ろ、部屋の隅の暗がりに「アレ」がいたのです。あの男の精神を壊してしまった、「アレ」が。


「ぺた」


後ろから、子供の足音がします。


悪寒が走りました。

アレが追ってきているのです。

足音は、数を増し、靴音から素足のぺたぺたとした音まで、まるで地鳴りのように鳴り響きます。


「あははははははははははははは」

そして、笑い声が聞こえてきました。乾いた、テレビの録音されたオーディエンスのような笑いでした。思わず、振り返りたくなる衝動に駆られます。

「振り返るな!」

斜め後ろ、握っている手の先から、横山の叫び声がしました。オカルト好きの勘、だったのかもしれません。ただ、それは正しい気がしました。


飛び石を飛んで、川を渡っても、アレは追ってきます。つかず離れず、まるで遊んでいるように。


そうして走っているうちに、あることに気が付きます。

「な、なあ、アレが喋ってる」

横山が言う通り、アレが流暢に話だしたのです。


「おっかあなしてこげなとこに」

「ばかだなかみかくしなんておこるわけないだろ」

「いやだ こわ」

「ばけものが」

「うちにかえし」

「だれが」

「あははははははははははあははははあはははは」


まるで、ラジオの周波数をいじるように、声を変えていきます。その声はどれも、子供の声ばかりでした。

「なんなんだよ!気持ち悪い!」

思わず叫びます。


不思議な形の花を横目に、謎の赤い木の実を揺らし、大きな倒木に転びそうになりながらも走っていくと、急に後ろから横山の声がしました。


「沢に行こう!」

急に明るい声をだした横山に戸惑いました。後ろを見ずに話しかけます。手はこれでもかと、しっかり握ったまま。

「そんな場合じゃないだろ!何言ってんだ!」

「沢に行こう!沢に行こう!遊ぼう」

「なに言って……」

「沢に行こ――」


「違う!アレが真似してるだけだ!」

斜め後ろから横山の声にかぶせる様に横山の声がします。

録音を組み合わせるように、アレは横山の声をだしていました。

ゾッとしました。アレはずっと、山に入った時から俺たちの会話を聞いていたのです。


「違う!アレがアレがアレがあ、ああ、あ、ああはははははは!あはははははははははは!」


その時、

光が見えました。

夕陽が差し込めるフェンスが見えたのです。

長い鬼ごっこは、現実世界では、日が沈むまでの短い出来事のようでした。そこをこえれば大丈夫だと、感じます。山の終わりが、そこにはありました。

「横山、フェンスを越えるぞ!」


そう言い、繋いでいた手をほどきました。フェンスに手をかけます。足を持ち上げてフェンスをこえようとした、その時、


「あ」


後ろから横山の声が聞こえました。まるで、転んだような声でした。

ころ……んだ?


もしかして、横山は、転んでしまったのか?

もしそうなら、助けなければ。

でも、いいのか?

振り向いてしまって。

見てはいけないんだろう?

アレの罠かもしれないんだぞ。

このままいけば、お前は確実ににげられるのに。


そういう思考が頭の中をめぐり、

脳に達する――


――その前に!

俺は振り向き、手をのばしました。

あいつと。横山と。「また、会おう」って約束を、してたんだ。


「た、たけだぁ!」

目の前には、横山のぐしゃぐしゃな泣き顔。

そして、

しっかりとその手をつかんで、グッと

フェンスのこちら側に引っ張ったのです。


その時に、俺の左目に映りました。横山に手をのばす、アレが。

半円形の巨大な体に、笑う顔。

そして

笑っている目や口の中には、


子供たちの顔が、ザクロようにびっしりと詰まっていました。

それが、一斉にニンマリと笑って――


ここで、俺の記憶は途切れます。



そして、目が覚めると、自分の部屋の天井が見えました。

一階におりると、母親が朝食を作っています。温かい味噌汁をかき混ぜる、優しいにおいに溢れていました。そして


「おはよう。もうお昼よ。あんたどんだけ寝んの?」


その時、にわかに不安になり、母に聞きました。

「母さん!横山は……横山君はどうなった!?」

母は、怪訝そうな声をだします。

「横山君?だれのこと?」

思えば、母に横山の話をしたことはありませんでした。それでも、この反応はおかしいのです。

母は、コミュニケーションの鬼で、近所のことは、知り尽くしているのだから。

声が震えます。

「ほ、ほら。横山さん家の息子さんだよ!」

まくし立てる俺に、母は本気で心配そうに、こう言いました。


「横山さん家に息子さんなんて、いないわよ」



これが、神隠しにあった子を知っている、ことの顛末です。俺は結局、すぐに引っ越しました。横山の家には、いけませんでした。

事実を確認するのが、怖かったんです。

アレを映した左目は、徐々に視力が落ちていって、半年で失明しました。


長くなって、すみません。

でも、不思議です。貴女とは、初めて会ったのに、このことを話せるなんて。この話は、誰にも話したことがなかったんですよ。それこそ、親にも友人にも。


俺は、時々思うんです。あの時、両目をうしなってもいいから、

……横山を助けたかったって。



……?

どうされたんですか?

泣いて……?

……

――貴女は優しいんですね。


……違う? 俺に伝えなきゃ、いけないことがある?


はい。

何でしょう?



――――――――――え?




「だから、私が横山なんです」

私は、目の前の男性こと、武田にもう一度、そう伝えた。武田は、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしている。



 喫茶店の磨かれたガラスに映る自分は、ワンピースにカーディガンをはおり、セミロングの黒髪を緩くカールさせている。あの頃の自分とは似ても似つかない。

あの頃、女らしさを強いてくる昔気質の父親に、嫌気がさしていたのだ。そのせいで、男の子のような恰好と口調をしていた。


武田がやっと、口を開く。

「え、でも苗字が違うし、」

「両親が離婚して、今は、母方の苗字なんです。元父が横山。」

「横山さん家には、息子はいないって」

「娘ならいますよ。わたしです。横山 晶です。」

淀みなく答えていくが、武田はまだ半信半疑だ。


「いや、でも」

「あー!もう!まどろっこしい!」

わたしは、しびれをきらした。

「武田!お前の小学3年生の頃の好きな子は美智子ちゃ……」

「うわ!!やめろ!横山、わかったから!」


「また会ったな、武田」


その後、私はあの出来事の顛末を武田に話した。私自身、気になって調べていたのだ。


それからは、小学校の頃の友達のその後とか、他愛ないことを話した


ふと、視線を感じる。武田がしげしげとこちらを見ていた。

「しかし、本当に横山なんだなぁ……」

「何度もそうだって言ってるだろ」

少し後、武田はうつむいた。


「横山……良かった……。」

彼は、ホッとしたように泣いていた。


少し悩んでから、手を握る。

「私は、もう横山じゃないぞ」

顔をあげた武田は、憑き物が落ちたような、小学生の時に見た晴れやかな笑顔をしていた。

「そうだな、晶」

そんな武田を見て、私も笑みがこぼれた。


子供の頃の友達は、大人になったら、疎遠になる。

それは、結構本当で。

でも、そんな時は、また縁を結びなおせばいいだけだ。

私達の、カミカクシされた15年を、これから取り戻していこう。

大丈夫、今度は時間が、たっぷりあるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カミカクシの山 渡 亜衣 @watasi-ai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ