愛されたいだけ -4-
リフトも選択肢にあるので、開放感を選ぶか速さを選ぶかー–––そういった細やかな楽しみも提供している素敵な
階段で上るという選択肢もあるにはあるが、部活動で下半身を
今回用があるのは、道を挟むどの店でもない。
多くの人で
このカフェの壁はクリーム色を
店主は相当マメな性格なのだろう。
「どうもマスター、こんにちは!」
「おや
元気よくドアを開けたのは、制服を身に
「マスター、今日もロングブラックでお願いします!」
ロングブラックとは、ブラックコーヒーのことだ。
この店は、店主がオーストラリアに留学していた経験を基に、メニューの名前も現地仕様にしたかったそうだ。
「ロングブラックですね。砂糖はどのくらい今日は入れますか?」
「えぇ–––っと……」
頭を悩ませながら今日の砂糖の量を考える。
彼がこのカフェに通う理由は、どうやらブラックコーヒーを飲める大人になりたいということらしい。
他の店では砂糖を頼むと子供扱いされるらしいので、この店に通っているらしい。実際、もう彼は三年以上もこの店を愛用してくれている。
親に手を握られてよちよち来ていたあの頃がもはや懐かしい。
「三……あぁ–––いや、五個で」
「おや、思ったより少ないですね」
「挑戦してみようと思って。えへへ」
あまりカフェインや砂糖を
使っている豆も、カフェインを抑えてある特注の豆だ。
マスターのミル
注文し終えたとほぼ同時に、ドアがまた勢いよく開き、来客を告げるベルが鳴る。
「ごめんごめん和希、遅くなった!」
「マスター、こんにちは……」
「あ、じっちゃんどうも〜」
入ってきたのは女子生徒二人。和希と同じ制服を着た女の子だった。
手を軽く振りながら挨拶してきたのは
明里の後ろにくっ付いてヘコヘコしながら入店してきたのは
テーブル席で待っていた和希の元へ二人は駆け寄った。明里はよく店内をウロウロするので、杏を奥に座らせようと手で
「杏、あんたねぇ〜」
「あんあんた?」
「ちょ、和希
「え、あっハイ」
相変わらずツッコミに
「面接じゃないんだし、私たちもう
「……うぅ」
「お前なぁ、
「上手く言ったつもりかもしれないけどね、そっくりそのままお返しよ。女の子のお尻をデカいっていうなんて、あんた絶対モテないわよ。
「おしっことか軽く言う女の薬指も、ずっと空いたままだろうな」
「あ、あの、二人……その、
二人は油断するとすぐこうやって喧嘩をする。小学校の頃は家が近いこともあって毎日一緒に下校していた仲なのに、どうしてこう言い合いをする関係になってしまったのだろうか。喧嘩するほど仲がいいと言えば、言いたいことを言える信頼できる存在であるとも考えられるが。
二人を静止しようと、杏が手をパタパタ震わせる。
「ははは、本当に仲がいいんですね」
と、
和希と明里は何も言わず、でも謝らずに腰をおろした。
「さすがじっちゃん。オーダーなしに飲みたい物が分かってるだなんて」
「じっちゃんって、どこぞの
「昔からそう呼んでるから別にいいでしょ」
明里と杏の二人も、このカフェにはよく来てくれる。
家族ぐるみで仲がいいから、たまに明里と杏の家族が一緒にランチを食べにきてくれる時もある。
三人が通う学校は、
「二人ともオレンジジュースねぇ……」
「なぁに、愛媛県民として蜜柑は外せないでしょうよ。血じゃなくてオレンジジュースが流れてるのよ体内に」
「それはそれで怖いよ、明里ちゃん……」
明里は杏の方を見て二カっと歯を見せるように笑った。寡黙な彼女がこうやって心開いてくれるのにかなり時間がかかったからだ。今はこうして学校終わりに遊べるまでになったが、昔は話してすらくれなかったのだから。
「これぞブラッドオレンジってことか」
「あら和希、それは好きよ。それで、今日もまたコーヒーなの?」
「ふっ、もう僕はジュースから卒業したんだ。コーヒーを嗜めるような大人に–––ズズズ––––––苦っっっ!!」
「なにあんた、ダッサ」
出来立ての熱々で助かった……もしぬるくて量を飲んでいたら、口内が苦味によって
かっこ付けには失敗したが、クスクスと笑っている杏を見てそれでもいいやと思える。
和希と明里はやった、と喜びを共有するように
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