第15話ランドの変態怪人

「釘バットはイロオトコに似合わんで」

 身長140㎝くらいの魔法少女が無造作に日本刀の刃先を僕に向けた。刃物は正面から見ると薄いんだ、なんて感心してる場合じゃない。


 そうだ、ヒサメさんは「投げつけて逃げろ」って言ってたな。でもこの釘バットを手放したら入鹿コロネを守れない。そうだ、説得してみよう。人間話し合いが一番。


「僕も、女の子とやりあいたくないんだ。その日本刀をさやに収めてくれたら僕も何もしないで帰る」

「抜いた髪の毛が収まるさやなんてないわ。見てたやろ?変換魔法」


 はっと気が付いた。髪の毛なんだ。刃先を指でつまみ、引っ張ってみると軽い。ひょいと地面に投げ捨てた。やっぱり髪の毛の重さしかなかった。


「あっ……」

 魔法をあっけなく破られた女子小学生は、悲しそうな面持ちで立ち尽くした。


「コロネさん、出口は左に進んで右にちょっと曲がればあるはず。この風景も、あの村人達も、彼女の変換魔法で作り上げられたもののはず」

「その通りなんだけど、あれ見て」


 入鹿コロネが左側を指さした。5メートル先にスーツ姿の髭面紳士が立っている。中肉中背、頭に牛の角。


「マチルダ様、苦戦されてますねぇ」

 猫なで声で紳士がまっちいちゃんに語りかけた。


「まっちい様と呼ばんかい」

「これは失礼いたしました。にひ」

 

 なんだ?この人。態度や言葉遣いは丁寧だけどすごく感じが悪いぞ?


「コロネさん、誰?」

「まっちいさんのマスコットで、エップスという名の怪人」


「古代ハルマさん、まっちいずランドにようこそ。ここに入会すれば美少女に困ることはありません」

 エップスが妙なことを言った。


「入会?」

「この契約書にサインを」

 

 あ~、絶対幸せになれない展開だ、ダメだこりゃ。

「僕たち帰るんで、またにしてもらえます?」


「おや、誤解されてますね?まっちい様だけが美少女ではないのです。この契約書にサイン頂くだけで世界中の小学6年生女子が選び放題、にひ」


 この人、本当の変態だ。世界中が6・3・3・4制なわけないけど、小6ということは13歳未満。選んだら深刻な条例違反になる。


「参考までに聞いておきます。コロネさんは美少女じゃないの?」

「そんなことより聞いてくださいよ、小学生女子6年生を歯医者に連れて行くとねぇ、いい声で泣くんですよ」 


 「にひ」と言いつつエップスは細く白い布を入鹿コロネに投げつけた。布が彼女の首に絡まり、引っ張られた。


「くうううっ」

 首を押さえながら悔しそうにもがく入鹿コロネ。


「もう中学生のオバサンなど忘れて、我が美少女戦隊とっ」


 釘バットを投げつけたらエップスの顔に深々とめり込み、毛深い手からロープの先が離れた。僕は入鹿コロネの肩を抱いてエップスを突き飛ばし、薄暗い広場を走り抜けた。

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