第14話素数とチトセアメ
「恥ずかしいよ……」
僕は両手で自分の顔をおおってしまった。それに構わず、歯ブラシのCMに出てきそうな爽やかな風貌の少女がトランクスの隙間から引っ張り出した僕のアレをふにふにと揉んだ。薄い手のひらが、僕の硬くなったものを満足そうに撫で上げる。
「変換魔法ちとせあめ~」
まっちいちゃんが謎の言葉を発した。違和感。おや、僕の股間から紅白の棒が生えている。
これは、多分とてもよくある展開だ。落ち着いて対応しよう。彼女の後ろに申し訳なさそうな面持ちで立っている入鹿コロネに質問。
「コロネさん、まっちいちゃんは?」
「魔法少女の先輩です」
先輩。このコが?あ、小さな舌でれろってされるとドクン、と出そうになる。いやっ、道を踏み外してはダメだ。
「まっちいちゃん、僕の隣りに座ってみようか」
出そうになるのを頭の中で素数を数えながら抑える。2、3、5、7、11、13、17……
「ほな座らせて」
少女が細い腕をこちらに伸ばしてきたので引っ張って左隣に座らせる。体重30㎏くらいかな?
「6年生なのはほんまなんやけど、何回目の6年生かなぁ。こんな子供のカラダやから酒も飲めんしタバコも吸えん」
自分語りを始める魔法少女。右手は僕の股間に生えている棒をくりくりといじっている。細い指先で痛々しいと見とれていたら、ダメだっ、素数カウント再開、19、21は3と7で割れるから素数じゃないっ、23、29!
「おかんは魔女でやっぱり見た目の歳を取らんから、普通の人間の男とくっついたり別れたりして正体ごまかしとる。寂しいもんやで、魔女も魔法少女も」
話だけ聞いていると切なくなるが、頭の中での素数カウントは続けていた。このタイミングで出したら黒歴史になるから。でもどこから何が出るんだろう。不安で疑問。
「組織から、魔法少女はエッチしたらあかんて指導されてんねん。でもチトセアメなら、なめてもギリでセーフや。縁起物やから寿命が延びる」
「これってチトセアメ?」
僕は股間の棒を指さし、まっちいちゃんに訊いた。
「そや、イチゴミルク味」
「も、元に戻して、出そうなのに穴が無い」
「あ~心配せんでもまっちいがごっくんしたる」
「まっちいさん、全部持っていかないで!」
入鹿コロネが両手を握りしめ、不満の声を上げた。
「見本みしたるて、ゆうたやろ。ここはまっちいずランドや、好きにさせんかい」
鬱陶しそうに言い返すまっちいちゃん。舌足らずな口調なのに怪しい関西弁の迫力がすごい。
「飲みやすくイチゴミルク味にするというのは安易なやり方で、苦くても飲むところに愛があるのであってぇ」
真面目な顔で力説する入鹿コロネ。そうか、愛があるから飲めるのか……まっちいちゃんにくりくりされながら妄想してしまう。素数を学んだ意味がこれまで全く分からなかったが……31、37、次、思い浮かばない、ダメだにじんできた、いや理性で41!
「うちがごっくんしたら魔法も解ける。そのあと飲んだらええやん」
「そんなことだから魔女に昇格出来ないのよ、この万年魔法少女」
まっちいちゃんは眉をしかめ、僕の股間から手を離し、立ち上がり、入鹿コロネを見上げた。
「マスコットもよう使えんくせに、ええ度胸や」
「あたしはサキュバス倒したことあんのよ、まっちいさんふらふら遊んでばっかじゃないの」
ふたりがいがみ合っている間に僕はパンツとズボンをはきなおし、この場から脱出するタイミングを見計らった。
個室内にはモニター。テーブルの上にはマイクやリモコンがある。どこから見てもカラオケボックスの室内。だが店員が注文を取りに来ない。「まっちいずランド」とか言ってたけど、ここって彼女がオーナーなのかな?
扉を開け、外を見回す。おっかしいな。狭い通路に出るはずが薄暗い広場みたいなところに出た。教会らしき建物の前に白人の老若男女が沢山居るけどどこかで会った皆さんだ。あ、思い出した、あのホラー映画に出てくる、殺人鬼に惨殺されたはずの村人達じゃないか。彼等は黙って僕を見ていた。
「ハルマさん、帰りましょ。後でなんとか……なに?」
憤然とした様子で僕の背中を押した入鹿コロネも異変を察知。
「まっちいずランドの、西の国の仲間達や。全員倒して帰るか?」
ドアの隙間からちょろっと出てきた小学6年生は、彼等を背に腕を組み、誇らしげに胸を張った。
「あたしこんなのしかない」
涙目の入鹿コロネはバッグからボールペンを取り出し、クルクル回して手斧に変えた。
「そんなこともあろうかと」
僕は左ポケットからヒサメさんにもらったプラスチック製のくしを取り出し、一振りしてヤンキーの人達が本格的な抗争に使う、釘が無数に打ちつけてある金属バットに変えた。それを見たホラー映画の登場人物達はどよめき、逃げ腰になった。
「上等や、本気出したる」
まっちいちゃんは自分の頭から一本ぷちっと黒髪を引き抜き、「変換魔法、みなごろし~」と唱えると日本刀に変わった。さやから抜かれた白刃の輝きを見て、生きて帰る自信が吹き飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます