夢は寿命か金で買え

創物 語 (つくりもの かたる)

Prolog───私達は夢の取引人

闇と不気味な木々のすすり泣きに囲われた館。

その闇に溶ける様に、古びた洋館が聳え立っていた。

いや、古びた洋館とは良く言って、そう表現出来る程なだけだ。実際は、おどろおどろしい様な雰囲気を纏い、今にも人ならざるものが出てきそうな程、不気味な洋館であった。

そんな館の中、一人の女が玉座にもたれ掛かり、大きく欠伸をした。


「ふぁああぁ〜……退屈だ。非常に退屈だ」


女の名はヴァーミャと言った。女性でありながら、ワイシャツ、ベスト、スーツパンツといった服装をしていた。バーテンダーか執事を連想して頂ければわかりやすいだろうか。


そんな服装でも、彼女を女と決定づけられる理由には、いくつかの特徴がある。

一つは高く一つに括られでも尚、常人よりも長く伸びた腰までの黒髪。

もう一つは芸術的な程に整った上に、少々の化粧を施した顔。切れ長な目元は、猫のように気まぐれ、時々によっては有無を言わさぬ圧を感じさせる事もある。

更に一つ言うとすれば、彼女の体躯は世の女性のほとんどが羨むスタイルであった。胸はあるが細身に見える。下半身はカモシカのような足という表現が似合う程、スラリとしていつつもしなやかで筋肉質。

……外見唯一の短所とすれば、身長が低い事に尽きるだろうか。


彼女は退屈そうに、更には不機嫌そうにむくれた顔をして入口を見詰めている。


その背後から、一人の影が姿を現す。


「こんな雰囲気の館を買うからだろうが」


影は女に声をかけながら、姿を現した。

──影の正体は男であった。


背丈の低く細身だが、こちらもまたしなやかに筋肉がついている様な体型。

色素が薄い亜麻色の髪はくるりくるりとカールを描きつつ肩まで伸び、それを抑えるようにうなじ付近で一つに括られていた。

顔の作りもまた、スラリと通った鼻筋、薄い唇、陶器のような肌、etc……と、人から逸脱している程に美しい。

だが、三白眼が彼の意図に反した印象を与えざるを得ない事は残念でならない箇所である。また、それは本人も気にしている難点であるようだった。


そんな男もまた、彼女と似たような燕尾服を着崩している。


女は背後をチラリと見た後に、野良猫を思い起こすような動作で、プイ、と顔を背ける。


「君にはわからないんだねぇ、るい。センスがいいと思ったのだけど……」

「だからってもな、ヴァーミャ?人っ子一人寄り付かないんじゃ、意味ねぇだろうが」


眉間に皺を寄せ、呆れたように首を振る男、涙。


彼の言う事は最もだ。人が居なければ客も居ない。だが、彼女には考えがあった。

人が寄り付かぬ雰囲気はワザと選んでいたのだから。


「では、私達が忙しくなる様なことがあっていいのかな?私達はひっそりとやらねばならない。その理由は今までで散々に味わってきただろう?」


ほくそ笑む女、ヴァーミャの言葉を聞いてから「うっ……」と声を詰まらせた男、涙。

得意げに笑うヴァーミャとは対照的に、涙は苦虫を噛み潰したような表情で視線を逸らした。

唸るように声と溜め息を吐いてから、彼は呟く。


「だから俺は嫌だったんだよ……『夢を売る』なんて商売は……」

「泣き言なら聞かないよ。───客の足音だ」


入口付近。ザクザクと雑草を踏み分ける音が、二人には聞こえていた。


「さあ、お迎えだ。絢爛にshow timeといこう」

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